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ファンタジア・サイエンス・イノベーション〜第10王子:異世界下剋上の道を選ぶ〜  作者: 国士無双
第二部 【本論】第10王子、異世界下剋上の道を選ぶ

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【王位戦エントリー編】今日、君にその全てを話そう

「アンズ、ありがとう。これって……」

「詳細はお父さんから聞いてね! じゃあ、おやすみなさい〜♡」


 アンズはプレゼントを俺の手に押し込むと、俺とバロさんの前で投げキッスをして、そのまま嵐のように走り去ってしまった。


(萌え、萌えキュン。脳内報酬系が刺激されて、ハートマークのドーパミンが一気に放出された感覚。なんてこった。このドバドバな感じ、特効薬とでも言えるのだろうか……)


 アンズの破壊力に見惚れていた俺は、手元の、明らかに高級そうなタブレット型コンピューターに目を落としたところで、バロさんへのお礼を言い忘れていたことに気づく。


「あっ、ありがとうございます。バロさん」

「構わないさ。アダムくんは研究者だから、こうした端末には見慣れているかもしれないが。それにしても、今日も我が娘は花のように美しいな……」

「えぇ、そうですね……」


 実際、この世界に来る前――前世では、実験データの解析やレポート作成のたびに、片時も手放さず使っていた。だからこそ、手のひらに伝わるタブレットの重みは、久しぶりに頼れる相棒と再会したようで感慨深い。


「このタブレットは特注品だよ。理事長先生を経由して、信頼できる研究者たちに極秘で開発を依頼していたんだ」

「特注、ですか?!」

「お気になさらず。娘から聞いたよ。君はいつもメガネを媒体にして魔法を使っていたが、今は事情があって使わなくなったと。『お父さん、アダムに似合う最高のアイテムはないかな?』と、大事な娘から相談を受けたら、親として動かないわけにはいかないだろう?」


 娘のことが大好きなのはわかる。

 だけど、幼馴染の俺にまで、特注でプレゼントを用意してくれるなんて……。


「太っ腹すぎませんか? もしかして、俺に何かしらの対価を求めているのですか……?」


 捻くれ者らしく茶化してみると、どうやら俺の予想は当たっていたらしい。

 バロさんは軽く咳払いをして、ある条件を提示した。


「アダムくん。私からは二点、君に託したいことがある。まずは、娘を見てやってほしい」

「アンズを、ですか?」

「あの子は今、歌声を失っている。歌いたいのに、歌えないんだ」

「えっ……」


 絶句した。

 素直で、いつも明るく俺を支えてくれるアンズが、歌えないという苦しみを一人で抱えていたなんて。

 

「先日、ザダ校の生徒さんが交通事故に遭っただろう。あの日以来、娘は自責の念に駆られているようだ」

「そんな。アンズは何も悪くないですよ」

「あぁ。それは私も知っている。娘が抱えているのは、精神的な問題だ。いわば、イップスのような状態なんだ。だからこそ、アンズが誰よりも信頼している君にお願いしている……」


 先ほどまでの淡々とした表情は消え、今のバロさんは、痛々しいほどに娘を案じる父親の顔をしていた。


 俺は手元の端末を握りしめながら、アンズへの思いを口にした。


「わかりました。俺はアンズと、彼女の歌のおかげで、夢に向かって前進できています。いつも助けてもらっているので、今度は俺が、彼女の歌声を取り戻す番です」

「……あぁ。娘を頼んだぞ」

「はい。それで、二点目はなんですか?」

「その件だが、早速タブレットを起動してごらん」

「わかりました」


 バロさんの指示に従って、俺はタブレットの電源を入れる。


「うわぁ……」


(こういう、新品のデバイスに電源を入れる瞬間って、何度経験してもワクワクするんだよなぁ〜)


 だが直後、別の意味で、心臓が飛び出しそうになった。


 起動音と共にデスクトップ画面に現れたのは、ある食事会の風景を写した一枚の写真だった。


 中央で堂々と座っているのは、すました顔のキハダ理事長。

 その左隣には、ワイングラスを片手に、思案に耽るバロさん。

 二人の間には研究者のオオバコさんがいて、楽しげな雰囲気は伝わるが、残念ながら彼女は立ち上がっているせいか、口元から下しか写っていない。

 そして、キハダ理事長の右隣には、研究者のニカさんが並んでいた。


 まとまりのない、いかにも個性豊かな面々だ。ここまでは、俺の知っている大人たちである。

 

 問題は、ニカさんが大切そうに抱えている写真立ての中の人物だった。


 ストロンチウムの炎色反応を思わせる、鮮やかな真紅の髪。

 知的なメガネをかけたその紳士は、どこかバロさんに似た雰囲気をしていたが、その眼差しは柔らかい。


 この人物を、俺は知らない。

 なのに、彼の紅い右目には、強烈な見覚えがあった。


 馬好きの少女、イブと同じ――「3」の数字が刻まれていた。


(この男とイブは、血縁関係なのか……?)


「どうしたんだ、アダムくん。顔色が悪いようだが?」

「……い、いえ!」


 危うく「イブ」と名前を口にしかけて、慌てて取り繕う。

 

 彼女とは約束をしている。

 右目のことも、出会ったことも、決して口外してはならない。


 とは言っても、この写真の人物については、どうしても気になってしまった。


「ニカさんが持っている、この写真の人物は?」

「彼は王族でね、誰よりも優秀な医者だった。だが、優秀すぎた。だから、このメンバーの中で、彼だけが殺されてしまったんだ」

「……殺された?」

「しかも、亡くなった時は無惨な姿だったよ。右目を抉り取られていた」


 予想だにしなかった凄惨な事実を知り、思考が激しく掻き乱された。


 抉り取られた右目。

 イブの右目に宿る「3」の瞳。

 誰が彼を殺し、その瞳を少女に移植したのか。


 暴走しそうになった俺の思考を、バロさんの低い声が引き戻した。


「アダムくん。この写真に写っているのは、君が持っているタブレットの考案者と開発者たちだ。君には王位戦で勝ってほしい。研究所を作るという夢と、誰もが平等でいられる未来――私たちの果たせなかった願いを、君に叶えてほしいんだ」

「バロさん、どうしてそこまで……」

「私たちも、かつて君と同じ夢を見ていた。特に、私とキハダ()()は、王族として、なんとしてでも理想を実現するつもりでいた。だが、その行く手を阻む『強大な王族の闇』に、私たちは敗北した。今日、君にその全てを話そう」


 バロさんは怒りを表情には出さない。

 だが、その背には、力強い漆黒の羽が広がっていた。

今回も最後までお読みいただきありがとうございます!


本編でアダムの脳を直撃した「萌えの衝撃」ですが、医学的に言うと「報酬系(ドーパミン経路)」が過剰に活性化した状態です。

ドーパミンは「期待」や「喜び」を感じた時に放出される神経伝達物質ですが、アンズの投げキッスのように強い刺激を受けると、脳内は一気に多幸感で満たされます。

アダムが「特効薬」と感じたのも、あながち間違いではありません。

……もっとも、その後のバロさんの話で、アドレナリンの方に切り替わってしまったようですが。


いよいよ語られる過去と真実。

アダムはこの理不尽にどう立ち向かうのか。


次回もよろしくお願いいたします!

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