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ファンタジア・サイエンス・イノベーション〜第10王子:異世界下剋上の道を選ぶ〜  作者: 国士無双
第二部 【本論】第10王子、異世界下剋上の道を選ぶ

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【王位戦エントリー編】王位戦という『制度』を甘く見すぎだよ

「アンズさん、こんばんは。しばらく、アダムを君の家に住ませてやってくれ」

「はっ?!」

「へっ?!」


 突拍子もないキハダ理事長の提案に、俺とアンズは声を揃えて絶叫した。

 一方の理事長は、用件が済んだと言わんばかりに踵を返し、さっさと車に乗り込んでしまった。


「ま、待ってください!」


 アンズが慌てて呼び止めたものの、すでにキハダ理事長はシートベルトを締め、出発の準備に取り掛かっていた。


「アンズさん、大丈夫。私が手を回しているし、お父様からも承認をいただいている。さて、私はこれから大切な恋人とデートなんだ。じゃあね!」


 そう言い放つと同時に、黒塗りの高級車が夜の闇に消えていった。


(嘘だろ。これからどうするんだ……)


 俺は絶句した。

 修行と聞いていたから宿泊用の着替えまで持参していたが、まさかその修行先が、幼馴染であるアンズの家だとは夢にも思わなかった。


「アダムが固まってる! 私もお父さんから、『今日、お客さんが来るんだ』としか聞いてなかったから。でも、まさかそのお客さんがアダムだったなんて! 嬉しいよ!」


 キハダ理事長にこれでもかというほど振り回されているというのに、アンズはどこかワクワクした明るい表情を浮かべていた。


(おっ、歓迎ムードだ。それなら、まぁ……良いか)


 二人して扉の前で立ち尽くしていたところ、「アンズー! どうしたのー?」と聞き慣れた女性の声がした。


「あら! こんばんは、アダム様」


 扉を開けたアンズのお母さんは、上品に一礼して俺を迎え入れた。


「こんばんは。すみません、夜分遅くに」


 俺も同じように頭を下げる。


「あぁ、アダム様。どうかお顔をお上げください。主人から話は聞いております。すぐ書斎にご案内しますね」

「……わかりました」

「アンズはリビングでゆっくり休んでね」

「はーい!」


 三人で家に入ると、アンズはリビングへ。俺はアンズのお母さんに案内されて、重厚な書斎の扉の前まで移動した。


「失礼します」


 中に入ると、新聞を片手に、優雅にコーヒーを飲んでいるアンズのお父さんの姿が見えた。


「あぁ。来たか、アダムくん」

「お久しぶりです」

「理事長先生から話は聞いているよ。王位戦に参加するんだってね」

「……はい」


 アンズのお父さんはカチャッ、とカップをソーサーに戻すと、俺を鋭い眼差しで見つめ、ゆっくり問いかけた。


「君、普通に戦うつもりじゃないだろうね?」

「普通、とは? 俺は研究者としての知識と実験技術を駆使するつもりです」


 想定外かつ抽象的な質問に、思わず聞き返してしまった。

 それでも、アンズのお父さんは怒るわけでもなく、顎に手を当てたまま、微動だにしなかった。


「つまり、頭脳戦で勝負に挑むという認識で間違いないかな?」

「はい。アンズのお父様」

「その前に、アダムくん。私のことはバロと呼びなさい」

「えっと、バロ様?」

「バロさんでいいさ。さて、本題に入ろう。具体的にどんな作戦を考えている?」


 バロさんの問いに、俺は一度頭の中でシミュレーションを行い、淀みなく答えた。

 

「対戦相手の弱点を突く手法です。例えば、相手が炎を放ったら、周囲の酸素を奪って失火させる。防御が固い相手なら、急激な温度変化による熱疲労で、魔法を強制的に解除させる。科学の力で最も効率的な戦い方ができます。合理的なアプローチだと自負していますが?」


 自信を持って言い切ったが、バロさんはコーヒーを飲み干すと、ふぅと息を吐いた。


「落第点だ、アダムくん。君は以前、学校のプールで爆発を起こして、退学になりかけたそうじゃないか」

「そうですが」

「今の回答は、実験と自分のことしか考えていない。王位戦という『制度』を甘く見すぎだよ」

「……何が言いたいのですか?」


 持論をことごとく否定された気がして、俺は声を尖らせる。

 一方のバロさんは椅子に深く背を預けて、どこか余裕そうだ。


「君の理論は正しいよ。だがね、対戦相手は君より上位の王族だ。彼らはプライドが高い」

「プライド?」

「あぁ。全員とは言わないが、自身が理解できない『想定外の論理』で負けることを、生理的に拒絶する者もいる。もし君が科学の魔法で勝ったとしても、彼らは審判にこう叫ぶだろう。『これは魔法ではない、毒ガスだ!』なんて尤もらしい理屈を並べて異議を唱えてくるかもしれない」

「うーん、理不尽な言いがかりですね」

「その理不尽さを『正当な異議』に変えてしまうのが、王族だよ。君は前回、オーガー家のサポートもあって退学を免れた。だが、そのオーガー家の王子様は特別科所属だから、対戦相手になるかもしれない。万が一、彼らが校則を都合良く持ち出し、君の科学的技術を『不正』だと断じたら? 王位戦のルールを盾にして正当化してくる可能性は十分にあり得る」


(あぁ、まずいな)


 バロさんの指摘に、俺は何も言い返せず、息を呑んだ。

 三族山での事件を経て、この世界の「法の脆弱さ」と「権力の理不尽さ」を嫌というほど体感してしまったからだ。


「では、どうすれば」

「いいかい。王位戦で一般科が勝つために必要なのは、効率ではないんだ。完膚なきまでに打ち負かさなければならない。要するに、相手に『魔法で負けた』と認めさせる演出と、異議を唱えられた時に法的根拠を提示できることだね。というのも、若かりし頃の私は、王位戦に出るたび、一般科の生徒たちを泣かせてきた。今日からは、その勝ち方を君に伝授する」


 おっかない……。

 元王族であるバロさんの威圧感に気圧されていたところで、扉が勢いよく開いた。


「アダム! 私たち家族からのプレゼントだよ!」


 笑顔のアンズが手にしていたのは、素朴な手作りクッキー。


 それと、この世界では妙に近代的な端末――タブレット型コンピューターだった。

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