【王位戦エントリー編】まさか、担任も俺と同じ転生者なのか?
「排除って言ってたの……! 人間やエルフ族を排除するって……! アダム、どうしよう。あなたも、私も殺されちゃう……!」
俺の胸元に顔を埋めて泣きじゃくるアンズ。
その震える背中をゆっくりさすりながら、俺は脳内で、彼女が教えてくれた情報を整理していた。
1. 担任――第11王子が、双子の交通事故に関わった主犯である可能性。
2. 標的は双子のみならず、第10王子である俺も含まれていたこと。
3. 紹介状を悪用し、双子の治療が「迷走」するよう医療機関に手を回したこと。
4. 俺の机から本を回収した担任が、その持ち主である「協力者」と密に連絡を取り合っていること。
怒りよりも先に、パズルのピースがぴたりと嵌まっていく感覚に襲われた。
(キハダ理事長の懸念は、最悪な形で的中していたわけだ……)
人間とエルフを排除するという選民思想は、かつての三族山事件を彷彿とさせた。
今回の事故で捕まった教頭は、王族ですらないただの人間。
つまり、彼の逮捕は「蜥蜴の尻尾切り」に過ぎない。
そういえば、悪魔族には三種類の派閥がある、とオオバコさんが教えてくれた。
担任は、その中でも最も危険な過激派に属している。
(もしかして、協力者は過激派のトップか?)
「アンズ。担任が電話してた相手の名前、分かるか?」
「それが……誰なのか言わなかったの。ごめんなさい、アダム……」
「謝らなくていい。大丈夫だから。ほら、これ使って」
ポケットからハンカチを出し、アンズに手渡す。
すると、アンズは受け取りながら、「あっ!」と思い出したように顔を上げた。
「ホルム先生が言ってた。電話の相手、研究者っぽい人だったわ。確か、『ハルシネーション』だっけ? よく分からない言葉を使ってた……」
ハルシネーション。
久しぶりに聞いた。
前の世界において、生成AIの文脈で使われた用語だ。
事実に基づかない情報を、あたかも真実であるかのように生成してしまう現象。
だが、この世界では、生成AIという概念すら存在しないはずだ。
(一応、アンズに聞いてみるか?)
「アンズ。『生成AI』という言葉を知っているか?」
「せんせい……えいや? ホルム先生をやっつける魔法の言葉?」
「いや、忘れてくれ……」
アンズのきょとんとした反応からして、生成AIがこの世界に浸透していないのは明らかだった。
(それなのに、なぜ担任は知っている?)
始業式後のホームルームで、担任は釘を刺した。
「誰かを陥れようとしたり、根拠のない情報を流したりする行為は、絶対に許されない」と。
あの言動は、根拠のない情報の危険性を理解している者の口ぶりだった。
(まさか、担任も俺と同じ転生者なのか?)
「アダム? どうしたの、険しい顔してるよ。私、変なこと言った?」
泣き止んだアンズの呼びかけで、俺の思考はピタリと止まった。
俺は一度深呼吸をし、表情を切り替える。
「アンズ。今ここで話したことは、俺と二人だけの秘密にしよう。いいな?」
「えっ! でも、ケイちゃんも、全部聞いてたの……」
「そうか……」
前から思っていたが、担任はどこか詰めが甘い。
あるいは、聞かれることすらも計算のうちに入っているのか。
だからと言って、油断はできない。
俺だけでなく、ケイも王族。アンズだって、元々は王族出身のお嬢さんだ。
俺たちはみんな、いつ狙われてもおかしくない。
(いや……もう、すでに狙われているのかもしれない)
「アンズ。何かあったら、いつでも相談して。一人で抱え込まなくていいから」
「アダム、ありがとう!」
アンズが笑顔に戻ったのを見て、俺は安堵のため息を漏らした。
その後、俺はアンズと二人で学食に行き、カツ丼を食べた。
アンズが「縁起担ぎに!」と提案してくれたからだ。
二人とも無心で、出汁の効いたカツ丼を完食した。
この「カツ」が、王位戦の勝利に繋がると信じて。
* * *
放課後。
俺は再び実験部に顔を出すことにした。
すでに部室の中から気配がする。
扉の隙間から、そっと中の様子を窺った。
「どうしよう。アダムさんが不利になることだけは、絶対に避けたい……」
ノートに何かを書きながら、サラが不安げに呟く。
(俺が不利……? 一体、何の話だ?)
「サラ、声に出ている。一人で背負い込むな」
「あっ、ニコくん! ぼくは大丈夫だよ!」
「大丈夫かどうかは、オレが決める」
ニコも部室にいた。
どうやら、二人とも俺を待っていたらしい。
「お疲れさん」
俺は扉を開けて、テーブルに座っている二人の前まで歩く。
「アダムさんに聞きたいことがあるの! じゅう――!」
サラが問いかけたところで、隣のニコが素早く彼女の口元に手を当てて制した。
「その話、今はしなくていいだろ……」
「んっ……!」
涙目で必死に訴えるサラを、ニコは黙って押さえ込む。
「ニコ。サラが苦しそうだ、離せ」
「了解……」
ニコがパッと手を離すと、サラはぷくっと頬を膨らませた。
「ニコくんの意地悪!」
「意地悪じゃないさ」
「どうして止めたの?」
「サラ。情報には、鮮度と順番があるんだ」
ニコの正論に、サラは何も言い返せなかった。
彼女は悔しそうにノートへ視線を落とすと、再び黙々とアイデアを書き始めた。
(どうしたものか。このメンバー、強いのは間違いない。だけど、個性が強すぎて……まとまりに欠けるな……)
俺が今後の方針に悩み、途方に暮れていた、その時だった。
部室の扉が、勢いよく音を立てて開く。
また一人、背の高い訪問者が姿を現した。




