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ファンタジア・サイエンス・イノベーション〜第10王子:異世界下剋上の道を選ぶ〜  作者: 国士無双
第二部 【本論】第10王子、異世界下剋上の道を選ぶ

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【王位戦エントリー編】ホルム先生が……アダムの本、持ってたの──瞳孔散大の彼女── ※アンズ→アダム視点

【※注意】アンズ視点からのアダム(主人公)視点回です。

 思わず抱きついた私に、ケイちゃんは何も言わず、優しく背中をさすってくれた。


 しばらくして、私の震えがようやく収まったところで、ケイちゃんは意を決して口を開いた。

 

「アンズ! アタシは決めたわ! 今日のお昼、キハダ理事長に直談判してくる!」

「えっ?! 急にどうしたの?」

「この事件の真相を追うのよ。これ以上、アダムや双子みたいに被害者が出るのを防ぐためにね」

「ケイちゃん……」


 私は驚いた。

 ケイちゃんは一体どこから、あの不気味な話を聞いていたのだろう。

 

 私の疑問を察したのか、ケイちゃんは「アタシを誰だと思ってるの?」と言わんばかりに不敵に笑って、答えを教えてくれた。


「どこから聞いてたのか知りたい? 全部よ。全部聞いちゃったわ」

「そっか……」

「アダムのことまで狙ってたって聞いた時は、正直、身震いした。同時に、アイツの顔面を一発殴りたいとも思ったわ」

「私もだよ」

「でしょ? 今のアンズも、怒った顔をしてるわよ」


 言われてみれば、私だけでなく、ケイちゃんも両手を強く握りしめて、眉をひそめていた。


「……そうね。アイツの話をアダムに伝えるかどうかは、アンズに任せるわ」

「えぇっ?!」

「アタシからは言えない。昨日、伝え方を間違えてアダムを傷つけたから……」


 いつもは竹を割ったような性格のケイちゃんが、今は消え入りそうな声で俯いている。

 

 アダムが倒れたあの時、ケイちゃんは誰よりも動揺していて、ずっと自分自身を責め続けていたのを、私は知っている。


 それに、さっき恐怖で動けなくなっていた私を助けるために、彼女はホルム先生の通話中にあえて割って入り、私を連れ出しに来てくれた。

 

 ケイちゃんは、大好きな親友だから、ずっと笑顔でいてほしい。

 

(決めた! 私が向き合うしかない!)


「ケイちゃん、私に任せて! アダムに話すかは、午前中の授業を受けながら、ちゃんと考えてみる!」

「わかったわ。ありがとう」


 私たちはがっちり握手を交わしてから、女子トイレを出て、1-A組の教室に向かった。


 本当は、アダムを傷つけたくないから、黙っていようと思っていた。

 けれど、頭脳明晰な研究者「アダム・クローナル」の前では、私の嘘なんてすぐに見破られてしまうことを、この時の私はまだ知る由もなかった。


 * * *


「ない……ここにもない。どうしてだ?」


 俺は朝から、得も言われぬ焦燥感に駆られていた。

 机の上に置いていたはずの本――『不老不死と結婚観について』が見当たらない。


「アダムさん、どうしたの? 何か探しているの?」


 左隣の席から、サラが心配そうに俺の机を覗き込む。


「あぁ、本をなくした。サラ、このあたりに置いてあったのを見てないか?」

「あっ……あの、結婚の……?」


 サラは立ち上がろうとして、「きゃあ!」と悲鳴をあげた。

 背後の気配に、俺は嫌な予感を覚える。


「……誰と、結婚するんだ?」


 振り返ると、案の定、ニコがいた。

 我が物顔でサラの肩に手を置き、俺を鋭い眼光で睨みつけている。


「ニコくん! 違うよ、その本は……えっと、その……!」


 俺に気遣ってくれているのか、サラは目を泳がせる。


(嘘がつけないタイプだもんなぁ〜。目がカタツムリのようにぐるぐる回っている……)

 

「結婚できるのは、大人になってからだ。今は王位戦に集中するんだろ」


 ニコは諭すように話すと、なぜか俺の方をチラ見した。


 王位戦の話題が出た。

 

 あからさまに乗り気だ。昨日の屋上での説得が、相当効いたのかもしれない。


「そうだな。今日の放課後、部室で作戦を立てるか」

「いいね! あ! でも待って! ニコくん、身上書はどうしたの?」

「貰ってきた」


 ニコは身上書を一枚、俺に差し出した。

 受け取って目を通すと、保護者欄にはフルネームのサインがきっちり入っていた。


「おぉ……。昨日の今日で、もう貰ってきたのか。すごい行動力だな。親御さんは納得してくれたのか?」

「学校のゲーム大会に出るって言ったら、あっさりサインを貰えた」

「それ、完全に別のイベントだと思われてるんじゃないか?!」


 俺のツッコミに、サラはプルプルと肩を震わせ、やがて「あっはっは! ニコくんっぽいかも!」とお腹を抱えて笑い出した。


(良かった……。サラも、ニコも、昨日よりずっと顔色がいい)


 ホッとしたところで、ガラッ! と勢いよく教室の扉が開いた。


「おはよー!」

「おはよ……っ」


 ケイとアンズだ。

 ケイはいつも通り悠々と自席に向かっていたが、アンズの様子がおかしい。

 

(交感神経が優位なのか、いつもより瞳孔が散大しているな。緊張しているのか?)


「アンズ、おはよう」

「お、おはよっ! アダム!」

 

 声まで上擦っている。何か決定的なトラブルに直面した時の反応だ。

 

 そんなアンズのことが気がかりではあったが、まずは本を探すのが先決だと自分に言い聞かせ、俺は休み時間のたびに捜索を続けた。


 しかし、昼休みになっても、手がかりはゼロ。


(うーん。最後に読んだのは先週の金曜日だ。そういや、体調を崩したアンズを部室へ運んだ時に、あの本も一緒に持って行ったんだっけ?)


 俺は、どこか遠い目をしているアンズに声をかけた。

 

「アンズ」

「うーん……」

「アンズ……」

「うぁっ!」

 

 指先で肩をトントンと叩くと、アンズは身を震わせて飛び上がった。

 ガタンッ! と椅子が激しく鳴る。


「大丈夫か? 驚かせた……」

「あ、あっ……アダム、ごめん! ちょっと考え事してただけ。大丈夫だよ!」

「そうか。あのさ、ここに置いてあった本が見つからないんだ。最後、どこにあったか心当たりはないか?」

「あぁっ……!」


 アンズは素っ頓狂な声を上げた。

 

 ――確実に何かを隠している。

 表情と態度に、答えが全て書かれていた。


「アンズ、落ち着いて。本のことで、何か知っているんだな?」

「えっと、その……! 私は……!」


 頑なに目を合わせようとしない。

 このままでは埒が明かないが、ここで聞くわけにもいかない。


 俺は机の引き出しから、かつてアンズのライブで使った黄色いケミカル(ペン)ライトを取り出し、彼女の目の前でわざと大袈裟に振って見せた。


「ちょ、ちょっと待って! アダム、恥ずかしいからやめてぇ――!」


 顔を真っ赤にしたアンズは、俺の手から無理やりケミカルライトを奪い取ると、俺の腕を掴んで教室を飛び出した。


 全力疾走で辿り着いたのは、昼休みで無人の実験部――部室だった。


「はぁ、はぁ……アダム! 教室であんなの振ったら目立っちゃうよぉ!」

「すまん。でも、ようやくこっちを向いてくれたな。で、何があったんだ?」

 

 俺が話しかけると、アンズは堰を切ったようにポロポロと大粒の涙をこぼした。

 そして、震え声でその真情を吐露してくれた。

 

「あのね……ホルム先生が……アダムの本、持ってたの」


 そこからの告白は、俺の想像を遥かに超える、衝撃の連続だった。

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