【王位戦エントリー編】アダムさんの夢を絶対に叶えたいんだ!
担任は生気のない表情で、オウレン先生に追い打ちをかける。
「そうだ、オウレン先生。貴女がキハダ理事長と……職務を超えた熱愛関係にあることも、併せて報告書に添えておきましょうか?」
「なっ……!?」
「嘘っ! オウレン先生とキハダ理事長が!?」
この事実を知らなかったアンズは目を大きく見開いた。
重苦しい沈黙の中で、担任は震えるオウレン先生の顔を無言で見つめ、次第に歪な笑みを浮かべていく。
「いやよっ……! やめて!」
オウレン先生が苦悶の表情で拒絶しているというのに、担任は耳を貸そうとせず、なおも彼女を追い詰める。
「あぁ、可哀想に。キャリアも、家族も、すべて失うことになる。嫌なら、分かっていますね?」
「……うぅっ、分かった……わ。お願いします。なんでも、言うことを聞くから……」
オウレン先生が屈辱で唇を噛み、一粒の涙をこぼした、その時。
――パリンッ!
扉の反対側、保健室の大きな窓ガラスが派手な音を立てて砕け散った。
その直後、不可視の魔法によって俺たちの体はふわりと浮き上がり、気づいた時には扉の前まで運ばれていた。
「はぁっ?! なんだとッ――!」
ただ一人、窓際に残された担任が悪態を吐きながら飛び退く。
舞い散るガラス片の中、音もなく着地したのは、木刀を手にし、カバンを肩にかけた小柄な男子生徒――サラだった。
「オーちゃん、大丈夫。ぼくたちが味方だよ。だから、もう泣かないで」
鈴を転がすような声。
だが、その柔らかさとは裏腹に、サラは鋭い眼光で、寸分の狂いもなく担任の肩に木刀の先を突きつけた。
「どうして、俺の結界を……!」
担任が狼狽している隙に、サラはカバンから封がされた茶封筒を取り出した。
「ホルム先生、この封筒を受け取ってください!」
「なんだこれはぁ?」
「王位戦のエントリー書類です。ぼくが出ます! だから、オーちゃんたちのことは、他のみんなには内緒にしてください!」
「サラちゃん、ダメよ! 王位戦に出るなんて、絶対――!」
泣きすがるオウレン先生の言葉を遮り、担任は嘲笑いながら、差し出された書類を受け取った。
「いい子だ。本人の意思なら大歓迎だよ。そうだ、もっと良いこと考えた……」
担任がサラの襟元に手を伸ばそうとしたところで――結界が完全に霧散したのか、扉が勢いよく開いた。
「そこまでだよ、ホルム先生」
よく通る声と共に現れたのは、キハダ理事長。
そしてその横には、不敵な笑みを浮かべたケイの姿もあった。
「理事長……!? なぜここに」
「ホルム先生。君が『教師の善意』で動いているというのであれば、私も理事長として行動しよう。謹慎明け早々、保健医を脅し、生徒に不適切な接触を試みた君。それに引きかえ、王族とも繋がりがある私や優秀な医師、そして教え子たち。世間がどちらを信頼するか、言うまでもないだろう?」
キハダ理事長がプレッシャーを与えながら、冷ややかに詰め寄る。
さらにケイも追い打ちをかけた。
「ホルム先生、また審議会でもやるつもり? あんたの味方なんて一人もいないわ。残念でしたね」
「くそっ……」
絶対優位を失った担任は、手元の書類を握りしめ、顔を引きつらせた。
「はは、俺も心強いですよ。アダムとサラが揃って王位戦に参加してくれるんですから。では、調査の時間ですので、これで……」
さっきまでの余裕はどこへやら。
担任は気まずそうに視線を泳がせると、逃げるように保健室を後にした。
完全に蚊帳の外に置かれていた俺だったが、奴の去り際の言葉に、頭から水を浴びたように呆然としていた。
(王位戦に、サラが参加する……)
当の本人のサラに、なんと声をかければいいのか。
言葉に詰まってしまった。
(彼女は本当に王位戦に出たいのか?)
王位戦で、もし他の王子に彼女の正体がバレてしまったら――。
その不安を敏感に感じ取っていたのは、俺以上にオウレン先生だった。
「サラちゃん、どうして? 王子様たちが貴女の正体を知ってしまえば……ぁあぁっ……!」
大変だ。オウレン先生が泣き崩れてしまった。
アンズが慌てて「ごめんなさい! 私、さっき傷つける発言をしました……」とキハダ理事長に頭を下げた。
「ん? アンズさん、詳しく話を聞かせてくれないか?」
キハダ理事長は眉間に皺を寄せ、訝しげに問い返す。
「その、私は知らなかったんです! オウレン先生とキハダ理事長がお付き合いしていたことを!」
あちゃー……。
アンズが正直に、腹の中をぶちまけてしまった。
一瞬、シーンと静まり返った保健室。
「そうなのッ?! お似合いね!」
沈黙を破ったのはケイだった。
笑顔でグーサインを理事長と先生に見せつける。
なぜか、サラもケイに倣って、一緒にグーサインを出した。
「オーちゃん、ぼくは王位戦に出場する。自分の意思で決めたんだ!」
「サラちゃん……」
オウレン先生は目を擦りながらも、サラの顔を愛おしそうに見つめる。
「アダムさんには、立派な夢がある。病気で困っている人々を助けるために研究所を設立する――壮大で素敵な夢。ぼくは、アダムさんの夢を絶対に叶えたいんだ!」
目頭が熱くなる。
彼女は、自分自身の安全よりも、俺の夢を優先させたというのか。
でも……俺は元来ネガティブ思考なんだ。
「本当に、いいのか?」
最後に、もう一度だけ確認した。
「うん。ぼくはこれまで、この剣術で自分の身を守ってきた。これ以上、大切な人たちが傷つくのは嫌なんだ。だから、今度はぼくが自分の手で守り抜く。みんなのことも……」
悲壮な決意。
それでも、彼女は迷いなく、前を向いていた。
こうして、予想外な形で、俺は最高の仲間を手に入れた。
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本作は、Nolaノベル様で日間総合1位、
さらにカクヨム様公式特集「異世界で科学無双」にも選出されました!
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科学と運命、そして王位を巡る物語は、ここからが本番です。
これからの展開も、どうぞお楽しみくださいませ。




