【王位戦エントリー編】三人が崖っぷちに立たされていたなんて ※ケイ視点
【※注意】主人公ではなく、第4王女・ケイちゃん視点です。
アタシは第4王女、ケイ・クマリー。
今、目の前で取り返しのつかないことが起きている。
「落ち着いて! ゆっくり、ゆっくり息をしなさいっ!」
第10王子のアダム・クローナルが、教室の床に身を伏せていた。
いつも淡々としていてクールな彼が、うまく呼吸ができないのか、目を閉じたまま苦しげな表情をしている。
なのに、周りの生徒たちは「どうしよう?」「大丈夫か?!」と騒ぎ立てるだけで、誰もが自分に火の粉が降りかかるのを恐れて、呆然と立ち尽くしている。
アダムの幼馴染であるアンズとサラも、まだ教室に来ていない。
「アダム! ごめんなさい! とにかく、ゆっくり!」
(馬鹿正直に、あんな残酷な現実を突きつけるんじゃなかった。誰か、助けてよ!)
アタシの懺悔が、女神様にでも届いたのかしら。
「おはよ――って、アダム?! ケイちゃん、何が起きたの?」
教室の入り口から、アンズとニコが駆け込んできた。
「アダム、大丈夫よ。私がいるから……」
意外にも、アンズは冷静だった。
彼女はアダムを落ち着かせるために、その手を優しく握り、すぐさまニコの方を振り返った。
「ニコくん。私とアダムを移動魔法で、今すぐ保健室に連れてって!」
「了解……」
ニコは即答してすぐに魔法を発動させた。
瞬く間に、三人の姿が教室から消え去る。
(アンズ、ニコ。アダムのこと、頼んだわよ)
アタシは、二人以外のクラスメイトがただ遠巻きに眺めているだけで、何も行動しなかったことに苛立ちを覚え、周囲を睨みつけた。案の定、クラスメイトは慌てて目を背ける。
(はぁ、みんな、薄情ね……)
でも、アタシは、何よりも自分自身のことが許せなかった。
「王位戦に向けて、アダムをサポートする!」なんて言っておきながら、彼をどん底に突き落とすような真実を、あんな残酷な言い方でぶつけてしまった。
アダムはメンバー集めに苦戦しながらも、必死に知恵を絞り、試行錯誤を重ねて、双子を仲間に迎え入れた。
それなのに、また一からメンバーを探さないといけないなんて。
「はぁっ……」
「大丈夫。保健室に連れていった」
不意に背後から声がして、アタシは飛び上がった。
いつの間にか、アタシの後ろに、ニコが立っていた。
「ちょっと! ビックリしたじゃない!」
「……」
何も返さないニコ。
こいつもアダムと同じで、表情をあまり出さないから、何を考えているのかさっぱりわからない。
サラは「ニコくんって、ムッツリしてるけど、わかりやすいんだよ!」なんて言ってたけど……本当かしら。
(あら。そういえば、サラがいないわね)
お礼がてら、サラのことを聞いてみることにした。
「あっ、ありがとね! ところで、ニコ……サラはどうしたの。体調でも悪いのかしら?」
「そうだな。オレとサラは、双子が轢かれたところを見てしまったからな。事故当日、警察に色々聞かれたんだ」
「えっ、そうなの?」
「サラは辛いだろう。双子と同じ部活で、仲が良かったからな。それより、未だにホームルームは始まらないんだな」
「本当ね。はぁ……大変なことになったわね」
ニコもアタシと同じようにため息を吐きながら、自分の席の方へ向かおうとしていたけれど、突如、校内放送が鳴り響いた。
『至急、至急――先週金曜日、本校の生徒が交通事故に遭いました。なお、今回の件に関しまして、本校教頭による過失であったことが判明しました。現在、全教職員への聞き取り調査を行なっております。生徒の皆さんは、本日休講とします。速やかに下校してください』
放送中は静まり返っていた。
けれど、教頭が犯人だという予想外の事実に、聞き終えた瞬間、教室は蜂の巣をつついたような騒ぎになった。
そんな中で、ニコだけは隠しきれない殺気を全身から放っていた。
まるで、何か裏事情を知っているような――。
「あんた、何か事情を知ってるの?」
アタシはすぐさま問いかける。
「詳しくは知らない。だけど、これだけは言える。今回狙われたのは王子二人だ。オレとケイも警戒しといた方がいい」
「王族を狙っているってことなの?」
「その可能性は十分あり得るだろう。アダムも夏休み中に魔毒で死にそうになったって、サラから聞いた」
「えぇっ?!」
「気をつけろ。じゃあ、オレは寮に帰る……」
そそくさとニコは教室を出て行った。
確かにクラスメイトたちもあっさり引き上げたみたいで、教室に残っているのはアタシ一人だけ。
(決めたわ! 保健室に行って、アダムに謝らないと!)
思い立ったが吉日。
最後に教室を出て、廊下を曲がろうとしたところで、反対側から来た誰かと正面からぶつかった。
「いたぁっ!」
ぶつかった弾みで、そのまま後ろに尻餅をつきそうになったけれど――強引に右腕を引っ張り上げられ、何とか踏みとどまった。その時、鮮やかな黄色が目に入る。
「すまないね、ケイさん」
(助かったけれど、どうしてここに?)
そこに立っていたのは、キハダ理事長だった。
「助かりました、理事長。それにしても、ここにいらっしゃるなんて、どうしたんですか。聞き取り調査があるって放送が流れてましたけど……」
「調査は職員だけだよ。私は昨日の段階で警察に全面協力して、今回の事件に関与していないと判断されたんだ。ここに来たのは、アダムの荷物を回収しに――でも、君がこれから届けようとしてくれたんだね」
「まぁ……アタシが悪いんで……保健室に行ってきます!」
キハダ理事長の目力に負けて、アタシは思わず視線を泳がせる。
「つれないことを言わないで。私はオウレンからの指示を受けて、取りに来たんだよ。一緒に行こうか」
「そうだったんですか、オウレン先生も聞き取りを終えたんですか?」
「それがこれからなんだよ。だけど、アダムを置いていくと保健室に誰も大人がいないから心配だ、と言っててね」
話しながら、アタシはキハダ理事長と共に保健室にたどり着く。
そして、キハダ理事長が扉を開けようとしたけれど――ノブが微動だにせず、彼女は珍しく焦燥感に駆られていた。
「何だこれは……誰の結界だッ! オウレン、アダム、アンズさん! 聞こえるか!」
扉を激しく叩くキハダ理事長。
アタシもただならぬ事態に総毛立つ思いがして、荷物を壁に置き、彼女と共に扉に取り縋った。
この時のアタシは、まだ知る由もなかった。
(まさか――この中で、三人が崖っぷちに立たされていたなんて!)




