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ファンタジア・サイエンス・イノベーション〜第10王子:異世界下剋上の道を選ぶ〜  作者: 国士無双
第二部 【本論】第10王子、異世界下剋上の道を選ぶ

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【王位戦エントリー編】夏を境に〜王族が口を閉ざす理由〜

 翌朝――俺は遅刻の危機に瀕し、全力で教室へと駆け込んだ。


(寝坊した! 昨日の筋トレ、調子に乗ってやり過ぎたからな……)


 間に合わないかもしれないと焦ったが、剣術部で重ねた鍛錬の賜物だろうか。

 進化を遂げた俺の脚力は裏切ることなく、始業チャイムの鳴り始めと同時に、教室に滑り込んだ。


 俺が自席に座ると入れ替わるように、担任が口を開いた。


「おはよう、諸君。さて、今日は金曜日だ。明日から三連休になります。王位戦参加者はそろそろ資料を用意し、提出するように。家族の承認もしっかりもらってきてください」


 淡々と事務連絡を進める担任だったが、最後に俺の顔を見て、不気味にニヤニヤと笑っていた。


(うわぁ、感じ悪いな……)


 俺は無表情を貫き、視線を合わせないまま、周囲の様子を窺う。


「うわぁ、感じ悪っ……」


 右隣のケイも俺と全く同じことを思っていたようで、小声で毒づく。

 前の席のアンズも「はぁ……」と溜め息をついていた。


(ケイとアンズはかなり態度に出やすいな。あとは、左隣だ)

 

 俺はサラの席に視線を移したが、空席だった。


(あれ、サラがいない。休むなんて珍しいな)


 そういえば、昨日の昼休みにシアンさんの名前を出してから、彼女は明らかに体調が悪そうだった。


(まさか、本当は知り合いだったりするのだろうか?)

 

 シアンさんは第5王子、サラは貴族の令嬢。

 シアンさんが行方不明の第一王女を想い続けているとはいえ、家族がいつまでもその想いを許してくれるとは限らない。


 身分的に、二人の間で縁談が出ていても不思議ではない。


(サラ本人だけでなく、ニボルさんたちからもそんな話は聞いたことがないからなぁ。まぁ、これ以上、深入りするのは野暮か)


 釈然としない気持ちを抱えたまま、午前中の授業を終えた。

 

 昼休み。

 チャイムが鳴り、アンズが声を掛けようとしていたところに、ひときわ大柄な人物が、教室の入り口に現れた。


「すまない! アダムくんはいないだろうか?」


 一般科の制服を着た――第2王子、ダンさんが俺を名指しで呼んだ。

 アンズは面食らった顔をしたが、すぐに「あ、あとで大丈夫! 行っておいでよ!」と俺の背中を押してくれた。


(ごめん、アンズ。必ず埋め合わせをするから)

 

 俺は彼女の気遣いに甘えさせてもらい、ダンさんに案内されるがまま、剣術部の部室までついていく。

 部室に入ると、ダンさんが申し訳なさそうに話を切り出した。


「アダムくん、昼休み中にすまない。昨日は生徒会活動で鍛錬に参加できなかったから、状況を聞こうと思ってね」


 確かに、昨日の放課後、剣術部の部室にダンさんは現れなかった。

 

 だが、壁のホワイトボードには、昨日俺たちがこなした「ダンさん特製筋トレメニュー」のメモ用紙がびっしりと貼られたまま、残されていた。


『一般科生徒会の活動のため、本日は不在。メニュー表を残しておいた! 各自、励むように』

『ドローイン、5分間。筋肉は力であり、連動だ。今日は壊さず、目覚めさせよう』

 

(いやぁ。ダンさんって、熱血だし、本当にマメなんだよなぁ……)


「ダンさんのメモがあったので、大変助かりました。双子と一緒にしっかりこなしました」

「そうか……サラは、どうだった?」

「サラは体調が優れないみたいで、今日は休んでいます」


 俺が正直に告げると、ダンさんは痛ましそうに表情を曇らせた。

 

「わかった。本当は昨日、みんなと一緒に鍛錬したかったのだが……」

「生徒会活動がお忙しかったんですよね」


(あれ?)


 今の会話で、俺自身、気になったことがある。

 特別科で第2王子のダンさんが、どんな理由で、一般科の方でも活動しないといけないのか。


「どうしてダンさんは、一般科と特別科の両方で活動されているのですか?」


 口を衝いて出てしまったが、ダンさんは嫌な顔ひとつせず、すぐに答えてくれた。


「王族子女会議で命じられたんだ。一般科と特別科、両方で管理してほしいとね」

「なるほど。王族と言えば、先日、学校で同じ研究取扱者のシアンさんに会いました」

「そうだったのか! アダムくんから見て、どうだったかい?」

「正直に言えば、以前と雰囲気が違っていました。電子タバコを吸われていましたし」

「そうか……」

 

 ダンさんは一呼吸置いて、ある事実を教えてくれた。

 

「実は、サラはね、わたしを介して、シアン殿に何度か会ったことがあるんだ」

「えっ、そうだったんですか?!」


 驚きを隠せず語尾が上がった俺に、ダンさんは声を潜めて、話を続ける。

 

「その、うまくは言えないのだが、わたしも君と同じ懸念を抱いている。シアン殿は、今年の夏を境に、雰囲気が変わってしまったと思った。まるで、以前のシアン殿とは別人のように……」


 俯いて、口を閉ざすダンさん。

 話したくても話せない、王族ゆえの、あるいはサラを守るための事情がある様子だった。


「ダンさん、大丈夫ですよ。無理に話す必要はないです。なんとなく察しましたから。サラの体調が戻ったら、ゆっくり相談に乗ろうと思います」

「ありがとう。恩に切るよ」

「こちらこそ。三連休の間、鍛錬はどうしましょうか?」


 淀んだ空気を変えたくて、俺の方から質問してみる。

 

「本当は、鍛錬ができれば良かったのだけれど、今日の夜、実家に戻るんだ」

「大丈夫ですよ。ご家族にもよろしくお伝えください」

「ごめん。代わりに、連休中にできる筋トレメニュー表を作ったんだ。もし良かったら」


 ダンさんはどこか申し訳なさそうに、首をぽりぽり掻いた後、昨日よりも気合が入ったメニュー表を渡してくれた。


「ダンさん。本当にありがとうございます。このご恩は忘れません。連休中も追い込んで見せます。それに、いいアイデアが浮かびました。今日の放課後、双子とどういう作戦で王位戦に勝ち進めていくのか、打ち合わせをしようかなと思っています」

「それはいいアイデアだね。期待しているよ。じゃあ、お疲れさん!」

「はい!」


 こうして、俺はダンさんと別れて、放課後に双子と王位戦の打ち合わせをしようと計画を立てていた。


 だが、昼休みを終えて窓の外を見上げると、鱗雲が渦巻くように広がっていた。

 それは、嵐の前の静けさのような、どこか不吉な予感を孕んでいた。

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