【王位戦エントリー編】好きな人の前では女も度胸が必要よ! ※アンズ視点
【※注意】主人公ではなく、アンズちゃん視点です。
お昼休み。
ケイちゃんを半ば強引に誘った私は、学食でお昼ご飯を食べ終えたところだった。
ケイちゃんも完食して、お茶をゴクっと飲み干すと、不敵な笑みを浮かべて口を開いた。
「アンズ、貴女どうしたの? アダムと何かあった?」
ギクッ!
誤魔化すこともできず、声を出す前に、全身がビクンと跳ねてしまった。
そのあからさまな私の動揺を見て、ケイちゃんは大爆笑している。
「あっはっは! わかりやすいわね! 何か言われたの? アタシが後で、アダムに注意しとくわよ。どうやって問い詰めてやろうかしら?」
「ケイちゃん、違うの! アダムはいつも優しいし、今日も励ましてくれて……」
「そうなの?! じゃあ、なんでお昼休みになった途端、アタシを無理やり連れ出したの?」
「それは……」
どこから話そうか、私は悩んだ。
(アダムのご両親の話、ケイちゃんは知らないだろうし。うん、ここは、私が一番気になってることを正直に話そう!)
「アダムが……結婚に関する本を読んでたの」
「あらっ! あの研究オタクのアダムが結婚に興味を持つなんて!」
ケイちゃんはニヤニヤしていたけれど、私の浮かない顔を見て察したのか、私の右手をぎゅっと握りしめた。
「ケイちゃん?!」
「なるほどね! なんとなくわかったわ。そういう本を読んでいただけで、何も言ってなかったんでしょ?」
「うん……。少子なんとかっていう、よくわからない研究の話をしていたの!」
「へぇ。いかにも、あの研究オタクが言いそうな小難しい理屈ね。むしろ、その発言から答えが出たわ!」
ケイちゃんは一度咳払いをしてから、ドヤ顔で結論を告げた。
「結婚に関する本を読む=誰かと結婚したい、とは限らないわ。アダムのことだから、気になったらとことん突き詰めないと気が済まないタイプでしょ?」
「えっ?! それって、つまり?」
「要するに、研究を進める過程で『結婚』っていう言葉がたまたま引っかかっただけよ。アダムは研究に夢中で、他のことなど眼中にないわ」
「でも、私が本を覗こうとしたら、物凄い勢いで隠したんだよ! 絶対に何かあるって!」
つい大声で叫んでしまい、他の生徒たちの視線を集めてしまった。
(うわぁあああ! 私ったら、非常識なことしちゃった!)
慌てて両手で顔を覆い、赤くなった顔を隠す。
すると、周りの男子生徒たちが「あ、アンズちゃん気にしないで!」「大丈夫! その元気な声が聞けるだけで俺たちは幸せだから!」なんて、お馴染みの過保護なフォローを投げかけてきた。
「アンズ、貴女本当にモテモテね〜!」
「待って! 今はそれどころじゃないの!」
ケイちゃんに茶化された私はヒヤヒヤしながら必死に首を振る。
それでも、ケイちゃんは楽しそうにニヤリと笑ったままだった。
「でもさぁ……アダムが一番、熱心に応援してたのは誰だと思う?」
「え? サラじゃないの?」
サラはアダムの幼馴染で、十歳の頃からずっと隣にいるって聞いていた。
だから、この答えしか思い浮かばなかった。
だけど、ケイちゃんは呆れたように首を横に振る。
「違うわ。あの子にとってアダムはお兄さんみたいなものよ。ほら、思い出しなさい? 貴女が歌っている時や困っている時に、いつも一番近くで支えてくれていたのは誰?」
「アダムが、隣にいてくれた……」
「そうでしょう。そこで、アタシにいい考えがあるわ!」
ケイちゃんは満足げに腕を組み、いかにも自信満々な表情で話を続けた。
「悩んでる暇があるなら、今日の放課後にアダムを誘って、二人でお茶でもしなさいな」
「無理だよ! 今日はバイトがあるもん!」
「なら、明日は?」
「明日はお休みだけど……」
「それなら、明日の放課後に誘いなさい!」
「ちょっとタンマ! 私から誘うのは、デートのお願いをしているみたいで、恥ずかしすぎるよー!」
急いで会話を止めようとしたけれど――。
「恥ずかしくないわ!」
「へっ?!」
「今すぐ告白しなさいとは言ってないわよ?!」
ケイちゃんの勢いに圧倒された。
まさに王女様らしい、有無を言わせない威圧感があった。
その圧をひしひしと感じていたら、しまいにはケイちゃんが力説し始めた。
「考えるよりも、まずは行動! 男は度胸、女は愛嬌なんて言うけれど、好きな人の前では女も度胸が必要よ!」
「うん……」
「それに、アンズ。あのアダムが、誰かを傷つけるような王子様だと思う?」
「違う! アダムは絶対にそんな酷いことをしないもの!」
どうしてなんだろう。
アダムを否定されたわけでもないのに、自分でも驚くほどの勢いで、私は即答していた。
「でしょ! だったら、勝手に一人で不安になって、自分自身の価値を下げるような真似はやめなさい」
「ごめんなさい……」
あまりにも正論すぎて、私は身を縮めて謝ることしかできなかった。
しおしおと頭を下げようとした私を、ケイちゃんの鋭い視線が制した。
「謝っちゃダメ。大丈夫よ、貴女はモテモテだから、必ず幸せになれるわよ」
「そこなの?!」
「アタシ、羨ましいわ。貴女は好きな人と結婚できるだろうから」
「えっ?」
ケイちゃん自身、あまり顔に出るタイプではないし、いつもは自信に満ちあふれているはずなのに、どこか遠い目をしていた。
(何か事情があるのかな?)
今の私には、その詳細を聞く勇気はなかった。
だから、私たちはそのまま、仲良く並んで教室に向かった。
教室に戻ると、アダムがサラと一緒に話し込んでいたけれど、サラの顔色があまり良くなさそうだった。
(あれ。何かあったの?)
みんなのことが心配で、心にさざ波が立つ。
けれど、今の私はそれ以上に、明日の放課後のことで頭がいっぱいだった。
この時の私は知らなかった。
いや、知りたくなかった。
明日が、私たちの運命を大きく変える日になるなんて――。




