表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ファンタジア・サイエンス・イノベーション〜第10王子:異世界下剋上の道を選ぶ〜  作者: 国士無双
第二部 【本論】第10王子、異世界下剋上の道を選ぶ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

147/167

【王位戦エントリー編】結婚って、何が!

「こんなに早く回復しちゃうとはねぇ……。“不老不死の果実”の効果ってすごいわー」


 どこかで聞いた女性の声がする。


(ん? これは夢? それとも現実? もしかして異世界?)


「それよりさぁ、()()()飲みたいなぁー!」


 わざわざ大声で言わなくても……って、そうだった!


「しまった! 本に夢中で、薬の調合をすっかり忘れていた!」


 ガバッと跳ね起きた。寝起きの第一声がこれだった。

 どうやら、夢の中で、誰かが大切なことを思い出させてくれたらしい。


 そんなわけで、始業時間前に、俺は実験部で漢方薬の調合を済ませたところだ。

 ダンさんたちのおかげで、生薬が全て揃ったから、本当に助かった。


 気分転換にカーテンを開けて、空を仰ぐ。

 強い日差しが差し込む。今日は文句なしの晴天だ。

 だが、天気予報によれば、明日の夕方からは雨が降るらしい。


「いやぁ、まだ時間があるな……。そうだ、サラたちと約束してたんだ。金木犀の入浴剤を渡すって」


 そこで、イブから貰って余っていた金木犀を使って、今のうちに仕込んでおくことにした。

 作り方はいたって簡単。清潔な容器に金木犀を詰め、実験用に管理されているアルコールを注ぐ。

 すると、琥珀色の花が液体の中でゆらゆらと揺れ、部室に特有の甘い香りがふわりと広がった。


「ふぅ……できたな」


 しばらく漬けて香りを抽出する必要があるため、棚下の冷暗所で保管することにした。

 その作業を終えたところで、明るくて透き通った声が、部室に響いた。


「アダム、見つけた! おはよー!」


 アンズだ。


「アンズ、おはよ」

「今大丈夫?」

「大丈夫」

「わかった! これさ、この前のお礼! バイト先で売ってる美味しいクッキーだよ!」


 俺の大好物のクッキーを、四袋も渡してくれた。


「こんなにたくさん……。じゃあ、アンズも一緒に食べよう」

「えっ、全部アダムが食べていいよ?」

「いや。まだ朝礼まで時間あるから、俺だけ食べるのは申し訳ないよ」

「じゃあ、一緒に食べる!」


 太陽に負けないぐらい、ニッコリと笑うアンズ。

 俺たちは、二人で仲良くクッキーを食べることにした。


 袋を開け、一枚パクリと口に入れる。

 サクサクとした食感と共に、じわりと甘みが広がっていった。


「うーん。美味しいな」

「でしょ! 人気なんだよ?」

「あぁ。チョコチップとクッキーの配分が絶妙だ。あっ、牛乳があるけど飲む?」

「うん!」

 

 一枚目のクッキーを食べ終え、部室の冷蔵庫から牛乳を取り出してマグカップに注いでいると、背後からアンズが声を掛けてきた。


「あれ……。アダム、背が伸びたんじゃない?」

「そうか?」

「あと、肩幅も広くなった気がする!」


 アンズが思ったことをポンポンと口にする。

 言われてみれば、最近、少し制服が窮屈になった気もするが、自分ではあまり実感がなかった。


 だが、全く心当たりがないわけでもなかった。

 唯一、当てはまるとすれば……。


「もしかして、剣術部で筋トレしてるから、その影響かな?」

「あぁー、そっか! って、そうだ! サラから聞いたよー! メンバーが無事に決まって良かったね!」

「あぁ。なんとか……」


 元の席に戻り、アンズに牛乳の入ったマグカップを差し出すと、彼女は満面の笑みで受け取ってくれた。


「ありがとう。私、朝から嬉しいニュースを聞けて幸せかも」


 上機嫌でゴクゴクと牛乳を飲んでいる彼女を見て、俺も一緒に飲もうと思ったが、「嬉しいニュース」という言葉をきっかけに、我が家のある出来事が脳裏をかすめた。


(あっ、アンズにはまだ伝えていなかったな)

 

「アンズ。実は、他にも嬉しいニュースがあったんだ」

「気になる! 教えて〜!」


 アンズは黄色の瞳を輝かせて、俺の顔を覗き込む。


「三族山での一件の後、父さんと母さんが仲直りしたんだ」

「えっ……」


 彼女の瞳が、打ち上げ花火のように一層、鮮やかに輝いた。

 

 そして、その綺麗な瞳から大粒の涙がこぼれ落ちた。


(しまった。朝から話す内容じゃなかった?)


「ごめん、驚かせたかもしれない」

「ち、違うの。本当によかったね。これはね、嬉し涙なの……」


 アンズは手の甲で必死に涙をぬぐっていた。

 俺の話をこれほど素直に、自分のことのように喜んでくれるなんて。

 涙を流すほど、俺の家族のことも大切に思ってくれていたんだ。


「アンズ、ありがとう。その……泣かないで。笑顔でいてほしいから」


 アンズを前にすると、どうも冷静ではいられないらしい。柄にもない本音が、そのまま口をついて出てしまった。


「わ、わかったぁあああ! でも、うれしいよぉおお!」


 ダメだ。なだめるつもりが、なおさら泣かせてしまった。


(マズいな。このままだと、『あんたがアンズを泣かせたの?』って、ケイに責められるよなー)


 とりあえず、策を講じることにした。

 急いでタオルを二枚用意し、水で濡らす。片方を温めている間に、まずは冷えたほうをアンズの目元にそっと当てた。


「わぁっ!」

「ごめん! 腫れる前に冷やす!」

「アダムったら、面白いフォローだねっ!」


 アンズはくすぐったそうに笑いながら、自分の両手でタオルを目に当ててくれた。

 表情は隠れているが、楽しそうな口元を見る限り、どうやら泣き止んでくれたみたいだ。

 

 数分して、「そろそろタオルを外していいよ」と伝えると、アンズは少し不満そうに「えー! 気持ちいいのに」と口を尖らせた。


「こっちもリラックスできるから」

「わかった……」


 冷えたタオルを受け取り、入れ替わりで準備できたホットタオルを手渡す。アンズは素直に従って、大切そうに目元にタオルを押し当てた。


「どう?」

「あー、幸せかもー!」

「よかった……」


 その後、この作戦は功を奏したようだ。

 アンズは手持ちの鏡を覗き込み、驚いたように声を弾ませた。


「すごい、アダム! 泣いたって全然わからないかも!」

「まぁ……俺が驚かせちゃったし、もちろんサポートするよ」

「えへへ。そしたら、教室に行こう?」

「あぁ」


 アンズが廊下の方へ歩き出す。

 俺も後を追おうとしたが、その前に机の上の本を素早く手に取った。


「ちょっと待たせた、行こうか」

「うん! あれ……アダム、どうしたの……。何、その本?」

「えっと、まぁ、研究の本!」


(うわぁ、デジャブだ。昨日もオウレン先生に凝視されたばっかりだしな)


 昨日の失敗を教訓に、タイトルを見られる前に背中へ隠そうとした。


 だが、アンズの動きは俺の予想を遥かに上回っていた。


 背後に気配を感じた時には、彼女はすでに俺の真後ろに回り込んでおり、そのタイトルを元気よく読み上げていた。


「『不老不死と結婚観について』?! 何これぇ?! 結婚って、何が!」


 時すでに遅し。

 いや、アンズが俊敏すぎて、時間の概念すら、もはや無意味だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ