【王位戦エントリー編】私は選び直さないつもり〜不老不死と結婚観について〜
まずは、本の目次をざっと読んでみた。
【第1章|不老不死とは何か】
【第2章|結婚という制度の前提条件】
【第3章|不老不死者は結婚できるのか】
【第4章|愛は永遠に耐えられる?】
【第5章|結婚しないという選択】
【終章|それでも誰かと生きる】
大抵、目次を見たら、第1章から順に読み進めるのが定石だろう。
だが、俺は違った。
不老不死という特異なテーマに興味を持った人物が書いた本だ。
面白いことが書いてあるに違いない。
だからこそ、あえて終章から読み、作者がどんな結論を出す人物なのか探りたくなってしまった。
期待を込めて、パラパラとページを捲り、終章を読み始める。
「『不老不死であっても、独りでは生きられない。ただし、誰と、どれだけの時間を生きるかは、何度でも選び直せる』か」
(これだけ? あっけないな)
哲学的な長文が並んでいるのかと思いきや、拍子抜けするほど、淡々と持論を述べているだけだった。
肩透かしを食らった気分になったが、どういう理屈で「不老不死」から「結婚」にたどり着いたのか、その発想プロセスが俄然、気になってきた。
「あっ。ヤッベ! そろそろ戻らないと!」
慌てて立ち上がり、ナツメと読み始めた本を手に持って、園芸部の部室を後にした。
そこから歩いて、数分後――。
「お待たせしました! 量が多かったので、遅くなりましたっ!」
苦し紛れの理由を口にしながら、保健室に入った。
「アダム、遅かったな! オウレン。このデータ、ファイルにまとめといたからね」
「えぇ。助かりました」
案の定、キハダ理事長から「遅かったな」とツッコまれた。当の理事長は、オウレン先生の書類仕事を甲斐甲斐しく手伝っていた。
作業の邪魔にならないよう、区切りのいいところを見計らってから、俺はナツメの入ったジッパー袋を理事長に差し出した。
「キハダ理事長、ご安心を。お目当てのナツメ、しっかり確保してきましたよ」
「ありがとう、助かった。じゃあ、私は理事長室のキッチンで作ってくる!」
そのまま袋を受け取ったキハダ理事長は台風の如く、大急ぎで保健室から消え去っていった。
「はや……」
「本当に。せっかちなところがあるのよね……。ありがとね、アダムくん。もし良かったら」
オウレン先生が、温かい飲み物が入ったマグカップを持って来てくれた。
「いい香りですね」
「カモミール茶よ」
「ありがとうございます。それでは、いただきます」
椅子に座り、本を太ももの上に置いた。
すると、「あら……」とオウレン先生は本の存在に気付いたようで、そのタイトルを食い入るように見つめていた。
「ん? どうしたんですか、オウレン先生」
「アダムくん、その本は?」
「あー、これは気になって読んでるものです」
「『不老不死と結婚観について』……重たいテーマね」
同じくお茶を味わっていたオウレン先生だが、その言葉を最後に、俯いてしまった。
(あぁっ、しまった。本の表紙を表向きにしていた)
「すみません。あの……」
慌てて椅子の背もたれと自分の背中の間に隠そうとしたけれど、オウレン先生が右手を上げて制した。
「大丈夫よ。読んでみて、どう? 何か答えが出たの?」
「いやぁ、実はまだ終章しか読んでなくて。答えはこれから探してみます」
「終章から読んだの? あなたらしい読み方ね」
「褒め言葉として受け取っておきます。あっ、そういえば」
俺は該当するページを開いて、オウレン先生に見せた。
「最後に“選び直せる”と書いてありました。うーん、なんか呆気ないんですよね」
「そうね。私はある意味、一番残酷な答えだと思ったわ」
「残酷……」
「選び直せるって、簡単そうで難しいものよ。特に、大切な人の前ではね。私は選び直さないつもり」
そう言って、さっきキハダ理事長がまとめていたファイルを、愛おしそうに指先で触れるオウレン先生。
オウレン先生は、女性であるキハダ理事長と恋仲だ。
世間がどう言おうと、俺が二人の関係を否定することはない。
二人が支え合って幸せならば、それが一番なのだから。
俺は、腹を割って話すだけだ。
「オウレン先生。俺たちは不老不死じゃないし、独りでもない。それに、本を読まなくても……先生はすでに、最高の答えを出しているじゃないですか。その答え、俺は好きですよ。だから、大切な人とお幸せに」
「あら……お気遣いありがとう。そう言ってもらえるなんて」
「じゃあ、俺は全部飲みきったので帰ります」
椅子から立ち上がろうとしたところで、勢いが良すぎたのか、筋肉痛が激しく痛み出した。
「あたたた……」
「どうしたの?!」
「すみません、王位戦に向けて、筋トレとかしてまして」
「あっ、メンバーが決まったの?」
「はい。同じクラスの双子と一緒に参加します」
「決まって良かったわ。頑張ってね。後、これ使って」
オウレン先生が救急箱から湿布を取り出してくれた。
(た、助かる……!)
「オウレン先生。こちらの湿布もいただきます!」
「どうぞ」
「それでは」
この後、オウレン先生はキハダ理事長が作ったナツメの薬膳料理を食べるのだろう。
俺はすぐさま保健室を退出し、男子寮の自室でストレッチをしながら、本の第1章を読み始めることにした。
その時に判明したのだが、なぜか黒いウサギのイラストの描かれた栞が本の中に挟まっていた。
(サラが喜びそうな栞だ。明日以降に渡そうかな?)
【※ご挨拶】
「この作品の続きが気になる!」「この後、サラちゃんが登場するの?」「漢方薬の調合はどうなるの?」と思っていただけましたら、高評価・ブックマーク・リアクションで応援していただけると幸いです。
評価はこのページの下側にある【☆☆☆☆☆】から、
リアクションは顔マークからお好きな表情を選べます。
皆様の一つひとつの応援が、作者の大きな励みになっています。
感想も大歓迎です!
それでは、また次回お会いしましょう。




