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ファンタジア・サイエンス・イノベーション〜第10王子:異世界下剋上の道を選ぶ〜  作者: 国士無双
第二部 【本論】第10王子、異世界下剋上の道を選ぶ

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【王位戦エントリー編】困った時はお互い様さ

 サラが借りていた図鑑に、必要な生薬に関する植物情報がしっかり載っていた。

 

 やはり、イブの言う通りだ。

 気になっていたその植物は、この国では北部にしか分布していないらしい。


「アダムさん、ラッキーかも! 写真があるよ」


 サラが写真のページを俺とダンさんに見せてくれた。


「本当だ。この写真を撮った場所がどこなのか、書いてあるといいんだけどなぁ〜」


 思わず、願望が口をついて出た。

 しかし、その思いとは裏腹に、撮影場所の記載はない。


「あっ。残念ながら、場所は書いてないみたい。ダン先輩、この写真ってどこか――」

「あー! あそこに違いないッ!」


 サラが残念がっている最中、ダンさんが大声を上げた。

 そして、その勢いのまま、スマートフォンを取り出し、誰かと連絡を取り始めた。


「もしもし、お元気ですか。急で申し訳ないのですが、確認したいことがありまして……。はい。散歩道の浅い沼地に植物が生えていないか、確認してほしくて。実は、必要な生薬がありまして」


 相手が誰なのかわからないが、ダンさんの表情は真剣そのものだった。だが、相手先から何か知らせがあったようで、面食らった顔になった。


「えっ、沼を見るまでもない? 本当に?! 手元にあるのですか?」


 ダンさんの声が弾む。


(これはもしかして……!)


「明日に届くのですね。母上、ありがとうございます。くれぐれも健康第一で!」


 どうやら、ダンさんはお母様――バク閣下の奥様と電話をしていたようだ。

 電話を終えると、ダンさんは俺とサラの方を向き、白い歯を見せてニッコリと笑った。


「アダムくん、朗報だ。実は、母上が漢方薬を服用していてね。なんと、その薬には君が求めている生薬――沢瀉(タクシャ)が含まれているそうだ。調合される前の、乾燥した状態で在庫があるから、譲ってもらえることになったよ」

「えっ、生薬そのものが?!」

「あぁ。明日にはザダ校に届く。宛先は、保健医のオウレン先生の名前をお借りしたよ」

「わかりました」


 予想外だ。薬用植物を探しに行く手間が省けるどころか、沢瀉(タクシャ)そのものが手に入るなんて。

 

(よっしゃあ。これなら、すぐ薬にできる!)


「やったね! アダムさん!」


 サラもダンさんと同じように、嬉しそうに、目を細めて笑っていた。

 けれど、安堵した途端、急に眠気が襲ってきたようで、サラは欠伸を噛み殺していた。


「サラ、眠たいのだろう。もう遅い、ゆっくり休みなさい」


 気づいたダンさんが、すぐさま、声を掛けた。

 

「ダン先輩、いいんですか?」

「もちろん、カレーありがとう」

「どういたしまして。じゃあ……お言葉に甘えて。今日は本当にありがとうございました! お母様にもよろしくお伝えください。それでは、さようなら! アダムさんもお疲れ様〜!」


 サラは笑顔で手を振り、調理室を後にした。


(俺も久しぶりの運動だったし、そろそろ帰ろうかな)


 俺は飲んだお茶のコップを洗い、帰り支度を整えていたところ、調理室に残っていたダンさんが、独り言のように話し始めた。


「実はね、アダムくん。わたしは……サラに打診したんだよ。王位戦に参加してはどうだろうか、と」

「そうだったんですか?」

「あぁ。双子も強いが、彼らは剣術検定2級止まりだ。サラやわたしに勝ったことが一度もない」

「えっ……」


 絶句してしまった。

 ダンさんほどではないにせよ、双子も筋肉質な体型をしている。俺自身、彼らは相当強いと思い込んでいた。

 

「サラは1級取得者の上に、成績も首席だと双子から聞いた。かなり戦力になると思ったけれど、彼――いや、本人は自信がないの一点張りでな。わたしも無理強いはさせたくないし、サラの意思を尊重したいと思ったんだ」


 ダンさんは優しい先輩だ。

 それにしても、今、サラのことを『彼』と言っていた。

 

(ニコと違って、ダンさんは知らないんだ……。サラの本当の性別を)


 まぁ、そのことには一切触れず、俺もサラに直談判していたことを伝えた。

 

「実は……俺もサラに出てみないかと声は掛けてみたんです。でも、同じように断られてしまいました」

「そうだったのか。いやぁ、無事にメンバーが揃って、本当に良かった。わたしは決勝でアダムくんたちと対戦することになるが、準決勝まではサラと一緒にサポートするよ。頑張ってくれ」


 良かった。ダンさんが味方でいてくれて。


 そう思いたかったけれど、決勝で対戦する相手なのか……。


 ダンさんは身長が2メートルを超えているし、体力も異常なくらいある――要するに、規格外の強さだ。

 戦う前から諦めたくなる気持ちもあるが、俺は俺のやり方で挑むしかない。


 当たり障りのない返事で締めることにした。


「本当に助かりました。すみません、部外者の俺が勝手に剣術部の活動に参加してしまって」

「いいんだよ。困った時はお互い様さ。明日は筋疲労が出るだろうし、オウレン先生のところで生薬を回収しておいで。明後日、またトレーニングをしよう!」


 明日以降のことまで考えてくれていたなんて――人格者すぎる。

 そもそも、ダンさんだけでなく、バク閣下とお母様も素晴らしいお人柄だ。


(あっ。そういえば、ダンさんのお母様って、なんの薬を飲んでいるのだろう。気になるな)


「さっき、沢瀉(タクシャ)があると言っていましたが、ダンさんのお母様は何の薬を服用しているんですか? 差し支えなければ……」

「いいよ。母上は婦人薬を飲んでいるんだ、妊婦さんだからな」

「そうだったんですね……って、本当に?!」


 驚きを隠せず、さっきのダンさんのように俺も大声を出してしまった。


「あぁ! わたしは楽しみにしているんだ。ずっと一人っ子だったけれど、ついに妹ができる!」

「いやぁ……それはおめでたいですね! 俺も嬉しいです」

「ありがとう!」

「ダンさんはお兄さん気質なところがありますし、妹さんも、優しいお兄さんに会えるのを楽しみにしていますよ」


 俺だけでなく、ダンさんたちにも明るい未来が待っている。

「明日以降も王位戦に向けて頑張ろう」と言葉を交わし、俺はダンさんと別れた。

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