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【贈り物編】身体的特性と社会的地位が及ぼす王位戦エントリーへの影響:特別科王子群との比較分析

「うわぁあああ! アダムさん、正気に戻ってー!」


 途方に暮れる俺の姿に、サラも混乱していた。尻尾を追いかける子犬のように、目を泳がせていたかと思えば、ぴたりと止まって真顔になった。

 

「そうだ! 逆に考えるんだ! 一般科には、ニコくんがいる! しかも王子様! 麻雀で言えば、もう“立直(リーチ)”だよ!」


 今度は、サラが得意げな顔で胸を張っていた。


 確かに、サラの言う通りだ。

 ニコは一般科に在籍している第6王子。もし参加してくれたら、心強い味方になる。


「あいつ、ガタイがいいからな」

「そうだよね。ニコくん、体力テストは学年1位だったって言ってたよ?」

「へぇ……」


(マジか、そんなにすごかったのか)


 体力テスト――ザダ校で夏休み前に実施された実技試験。王位戦はバトル形式なのに、俺はクラスで最下位だった。

 

 ……でも、それだけは、口が裂けても言えない。運動音痴なのは、内緒にしておきたい。


(ちなみに、サラはどうだったんだろう。剣術検定1級保持者だし……もしかして?)

 

「サラは、学年で何番だったんだ?」

「2位!」

「2位なのかよ……!」

「うん。本当は1位になりたかったけど、握力で負けちゃったんだ。でも、ぼくは剣術なら負けないよ!」


 どこか(某G球団)の野球監督みたいに、両手を前に突き出して、グータッチしてくるサラ。

 俺も同じようにグータッチを返しながら、王位戦のメンバー構成について、脳味噌を絞る。


「ニコには入ってもらう。あとは……」


 ニコが体力テストで1位なら、2位のサラが入ってくれれば、メンバー的には申し分ない。


(ちょっと待てよ。サラが王位戦に興味あるのか、ちゃんと聞いておいたほうがいいな)


「人数集めなんだけど、もしよかったら、サラも王位戦に出ないか?」

「えっ!」


 サラは驚きを隠せず、両手で口元を押さえる。

 だが、すぐに我に返って、凛とした表情で答えてくれた。


「ごめん。ぼくは、体力面で自信がないんだ。二人の足を引っ張っちゃうかもしれないし……」

「いや、体力テストで2位だったんだから、もっと自信を持ってもいいと思うけど」

「それは、あくまでも“一般科”の中での順位だから……。特別科の王子様たちは、魔力の才能も体の大きさも、次元が違って……剣術だけじゃ通用しない世界なんだ。ぼくより、ニコくんや他の子と組んだ方がいいよ。その代わり、ぼくはみんなのことを応援する!」


(そうか……)

 

 いつも明るくて前向きなのに、こんなふうに弱気になるなんて、珍しい。

 サラは俯き、目を閉じながら、「ごめんね」と呟く。


(そういえば、サラには“秘密”があるんだった)


 今のところ、“一般科の男子生徒”としてザダ校に通っているけれど、本当のサラは貴族の令嬢。

 彼女の親代わりであるニボルさんの言葉が頭をよぎる。


『女性しかいない貴族は……男性が土地を奪い取ろうとするから、権力争いに巻き込まれてしまうんだ』


 もし王位戦で、他の王子に、“本当の正体”を知られてしまったら?

 

(下手をすれば、政略結婚の道具にされるかもしれない)


 そう考えると、サラが尻込みするのも当然だ。


 実際、サラの身長はアンズより少し高いくらいで、体つきも華奢だ。

 その体格を目立たせないためか、いつも学ランを着ている。


 一方、特別科の王子たちは、圧倒的な存在感を放っている。

 その中でも、俺が出会った第2王子のダンさんは、まるでメジャーリーガーのような大男だった。


(正直、俺でも歯が立たないのでは?)

 

「ごめんなさい。アダムさん、怒らないで……」


 不安そうに顔を上げたサラは、どういうわけか、俺が機嫌を損ねたと思ったらしい。


「怒ってないよ。ただ、色々と考えてただけ」


 俺はサラの頭に手を置いて、ゆっくり撫でる。

 そのうちに、サラの表情も次第に和らいでいった。

 

(さて。他のメンバーを探すとしたら……)


「あっ、他に良さそうな人物がいるんだ!」

 

 沈黙していた俺に、サラが声をかけてきた。


「誰かいたっけ?」

「うん。同じクラスに双子がいるでしょう? 第12王子のシロくんと、第13王子のクロくん! 二人とも王族だし、ぼくと同じ剣術部だよ。剣術検定2級を持ってるから、頼もしいと思う!」

「剣術部か……」

「ぼくが、双子に相談してみるよ!」

「えっ、また助けてくれるのか……?」


 やっぱり、サラは優しい。いつも俺を支えてくれる。

 

(俺の人生、助けてもらった人ランキング――命を救ってくれた女神様が1位だとして、2位は間違いなくサラだな)


「もちろん! その代わり……研究所が設立できたら、遊びに行かせてね?」


 本当に、嬉しいことを言ってくれるなぁ……。

 

「当然だ。あっ、そうだ。ナツメがあるけど、食べてく?」

「いいの?」

「あぁ。せっかくだし、俺の家に寄る?」

「うん!」


 こうして俺は、サラを自宅に招いて、一緒にナツメを味わう、穏やかな時間を過ごすことになった。


「ナツメって、ちょっとリンゴみたいな味だね。美味しい!」

「気に入ってもらえてよかった。免疫力を高めるし、栄養もある。貧血にも効くかな」

「いいね。助かるよ〜。お茶も美味しいね」

「あっ、それは大葉子茶」

「へぇ〜。オオバコお姉ちゃんと同じ名前なんだね」

「実は、ルパタが管理してる薬草園でもらった。あっ……」


 ふと思い出す。

 サラは、ルパタのことを“ルーさん”と呼んでいた。


(ルパタは特別科の生徒で、しかも、今は休学中。普通に考えれば、会う機会なんてないはず……)


 なぜ知っているのだろうか――気になる。


 俺は研究者だ。聞かずにはいられない。


「サラ、ルパタとはどこで知り合ったんだ?」

「あっ、一日だけ、アンズちゃんのバイトにヘルプで行った時にね、たまたま出会ったんだ。シンイさん、ルーさん、あと、エバスくんも!」

「そうか。あの時、食中毒で人手が足りなくなって、急遽ヘルプに入ったって言ってたな。そこで、フォレスト家全員と会ったのか」

「うん!」


 なるほど。それなら合点承知の助だ。

 とは言え、たった一日でフォレスト三兄弟全員と顔を合わせるなんて……幸運な巡り合わせだな。


 そんなことを考えていたところ、突然、電話が鳴った。


「ん……?」

 

 受話器に表示されていたのは、俺の母さんの名前だった。

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