【贈り物編】特別科は適応外
【※注意】今話から、新編になります。
三族山での調査を終えた俺は、10歳の頃から住んでいる自分の家に帰ってきた。
そして数日間、自宅の研究室に引きこもっていた。
ザダ校は寮生活だ。土日に帰ることはあったが、こうして家でまったり過ごせるのは、本当に久しぶりだ。
「ふぅ……、よし」
実験がキリのいいところまで終わったので、リビングのソファで一眠りしようかと思った。
だが、ふと窓の外に目をやると、庭のナツメの木に赤茶色の実がたくさん生っていた。
(おぉっ……熟してるじゃないか。ちょうど食べ頃だな)
寝るのは後回しにして、俺は庭へ出た。
ナツメの実を摘みながら、三族山でアンズが歌ってくれた炎色反応の歌を口ずさむ。
「私たちの出会いは、起爆剤……一期一会♪」
「あっ! アダムさん! 帰ってきてたのー?」
突然、明るくて元気な女の子の声が聞こえてきた。
(この声……。それに“アダムさん”って呼ぶのは……)
「サラ、久しぶり」
最後に会ったのは夏休み前。約1ヶ月ぶりの再会だ。
学校指定の学ランを着たサラは、うさぎのぬいぐるみキーホルダーが付いた剣術袋を肩から下げていた。
小首を傾げながら、天真爛漫な笑顔で俺を見上げている。
「アダムさん、お久しぶり。あれ……? コンタクトにしたの?」
どうやら、俺がメガネをかけていないのが気になったらしい。
「実は、ちょっとやらかして……。毒を喰らって、死にかけた」
「えっ、えぇー?! わややー!」
サラは顔を真っ青にして、もちもちの頬を両手でぎゅっと押さえた。
(面白い。感情がすぐ顔に出る。しかも、“わやや”って、なんか方言っぽいな。ニボルさんの影響か? ……って、しまった。本気で心配してるな。ちゃんと説明しよう)
「安心して。天使族のオオバコさんが回復魔法を使ってくれて、助かったんだ。ただ、その魔法がノーコンだったせいで……視力が戻っちゃったってわけ」
「なにそれ?! そんなことあるんだ~。でも、無事で本当に良かったよー!」
オオバコさんとの話を聞いたサラは、さっきまでの青ざめた顔が嘘のように、笑顔が咲き誇る。
その笑顔を見て、最近嬉しかった出来事を思い出した。
(そうだ。サラにも、自慢したいことがあるんだった)
「サラ。これから出かけるのか?」
「ううん、剣術部の練習が終わって、いま帰ってきたところ!」
サラのリアクションに合わせて、うさぎのキーホルダーが、ぴょんぴょん揺れている。
「なら……ちょっと見てほしいものがあるんだ。すぐ持ってくる」
「もちろん! ここで待ってるよ!」
俺はそのまま研究室へ向かい、サラに見せるための書類一式を取りに行った。
「見てくれ。王位戦の必要書類。これで、全部揃ったんだ」
封筒から取り出して見せたのは、身上書。
もちろん、母さんのサインも、ちゃんとある。
「わぁ! おめでとう!」
「実は、母さんと仲直りしてさ。書いてくれたんだ」
「そうなんだ。お母さんと仲直りできたんだね。本当に良かった!」
サラはすぐに喜んでくれたけど、先を見越した発言をした。
「次は、王位戦に向けて――人数集めだね!」
「あぁ……それが最大の難関だな……」
来てしまった。
俺の最も苦手なこと――人数集め。
(実験部の部員集めでも散々苦労したけど、サラに色々助けられたんだよな……)
「アダムさん……どうしたの? さっきまで元気だったのに、蚊の鳴くような声になってる。人数集め、やっぱり不安?」
図星だった。
どうにも気が乗らないせいか、喉が声を出すのを拒んでいるようだった。
でも、あの三族山での経験が頭をよぎった。
(待てよ。あの時みたいに作戦を立てれば、うまくいくかもしれない)
「その件なんだけど、王位戦のエントリー条件って、3人中2人以上が王族じゃないといけないだろ? ちょうどいいメンバーがいるんだ。フォレスト家のルパタとエバス。ルパタは防御、エバスは攻撃、俺は作戦担当。全員王族だし、この組み合わせなら、俺の夢である一桁台の順位も狙えるかもしれない」
ルパタは夏休み明けから学校に来ると言ってたし、戦闘バランスも完璧。
これはもう、研究所計画の土台も見えてきた。
(研究所を作ったら、毒蛇に関する新しい作用機序を徹底的に調べ尽くそう。抗がん剤に応用できたら最高だな。薬草園も作って……。あぁ、好きなことに没頭できる環境! 最高じゃないか〜!)
「えっへん。我ながら、いい案だと思う」
堂々と胸を張る俺。
一方、サラは目をまん丸にして固まっていた。
「待って、アダムさん! その想いはとっても素敵だよ。でも……ルーさんとエバスくんって、特別科の生徒さんだよね? 王位戦では、味方じゃなくて、対戦相手になるかもしれない」
「あぁああああっ!?」
思わず叫んでしまった。
三族山で仲間になった王子たちと、戦うことになるなんて――そんな展開、計算に入れていなかった。
(ん、ルパタたちは特別科、敵側。心安らかなり)
俺は呆然としながら、腰に手を当てて海を眺める。
(第7王子のルパタに、第8王子のエバス……すごい家系だ。フォレスト家、カッコイイ!)
正気を失った俺は、現実逃避モードに突入していた。
(本当に俺は、王位戦に出るための仲間を集められるのか?)
それにしても、サラはルパタとエバスのこと、知り合いみたいに呼んでたな。
(さすが、社交性おばけ……)