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<番外編>最初の晩餐〜蛇酒の夜〜

【※注意】

今話は番外編です。

第108話『【三族山編】知行合一〜託された未来と託す決意〜』以降の出来事を書いております。

 教祖たちの遺体が発掘されたあの日の夜――ニカさんの家で、オオバコさんたち大人組が飲んでいた時の話だ。


「アダムー! 本当に頑張ったね。今日は宴だから、好きな物を食べて、飲もうねー?」


 上機嫌なオオバコさんは、ニカさんの家のキッチンから、あるお酒を取り出した。


「ジャーン! 」

「あれ、中に蛇が入ってますね。蛇酒ですか?」

「ご名答っ!」


 オオバコさんが見せてくれたのは、瓶の中に蛇がアルコールで漬け込まれているお酒だった。

 

(蛇といえば……つい最近、エバスが咬まれたけど、あれは無毒だったな。この蛇とは別物か)


 一応、聞いてみるか。

 

「オオバコさん、この前の無毒蛇はどうしたんですか?」

「あれなら、私の方で回収して、検査中。教祖――いや、下手したら黒幕の指紋がついてるかもしれないしね」

「そうですね」

「こっちの蛇酒は、毒アリだからねぇ〜! 滋養強壮に効くってわけ。大人は疲れやすいから、こういうお酒が欲しくなるんだよ。ちなみに、リュウコさんが5年前から漬けといたんだって」

「へぇ」

「飲む?」


 オオバコさんは、未成年の俺に対して、平然と誘ってきた。


(いい研究者なんだけど……オオバコさんって、イマイチ倫理観がないんだよな)


「ダメですよ!」


 俺が答える前に、リュウコさんがやって来てくれた。

 

「アダムくんは未成年です!」


 きっぱりと言い切るリュウコさん。

 その答えに、オオバコさんは、「冗談だよ〜?」と言い返して、淡緑色の髪の毛をいじり始めた。


(オオバコさん、顔に出さないけど、リュウコさんの大声に驚いてしまったのかもしれない……)


 リュウコさんも怖がらせてしまったと思ったようで、オオバコさんに提案を持ちかけた。

 

「その蛇酒、アダムくんの代わりに、私と主人がいただきますので、ご安心ください」

「えっ! いいの?! やったー! じゃあ、ニカも呼んで、ご飯食べようよ!」

「そうしましょうか」


 こうして、俺は、大人三人――ニカさん、リュウコさん、オオバコさんと一緒に、食事を取ることにした。


「いただきます……!」


 夕食は、リュウコさんが作ってくれた豚の生姜焼き。

 三族山で栽培された生姜に、地元産の豚肉。まさに地産地消の料理だ。

 俺は飲まないし、飲めないけど……蛇酒とも相性が良さそうだ。


「美味しいですね。リュウコさん、ありがとうございます」

「どういたしまして、アダムくん。また遊びに来てくださいね。アンズちゃんと、貴方と同じ王子であるエバスくんにも、よろしくお伝えください」


 リュウコさんは、俺がリンゴジュースを飲んでいる間に、お茶碗が空っぽになっているのに気づいてくれて、おかわりの白米をよそってくれた。手際の良さを見るに、研究助手としても優秀なのだろう。


(いい奥さんをもらって、ニカさんは幸せ者だな〜)


 そのニカさんの方に目を向けると、すでに蛇酒を楽しんでいた。俺に、蛇酒の瓶を見せて、ニコニコ笑っている。どうやら、俺が飲みたそうな顔をしているとでも思ったらしい。


「アダムくん。君が成人したら、僕と一緒に、研究話に花を咲かせながら、お酒を飲もう」

「えっ……ニカさん。いいんですか? その際は、ぜひ研究話をしましょう……!」


 実際、前にニカさんと研究の話をした時も、つい夢中になってしまった。

 前回が、シラフでの話なら、飲んだ時のニカさんがどうなるのか……それはそれで気になる。


(毒蛇に関する研究テーマとか面白そうだな。俺だったら、毒蛇の成分を抽出して、血圧降下剤や止血剤、あとは鎮痛剤として、活用させたい……)


「待ってー! その話、私も参加するッ!」


 俺が想像力を働かせている中、リュウコさんにお酒を注ぎ終えたオオバコさんが、すぐさま、話に割って入る。

 俺が「どうぞ」と言う前に、ニカさんが「もちろん! どうぞ〜」と笑って、返事をしている。


「オオバコちゃんも一緒にね〜! スヤァ……」

「えっ?」


 突然寝始めたニカさん。よく見ると、顔が赤い。


「アダムくん、ご安心を。うちの主人、下戸なんですよ」

「あぁ……」

「でも、お酒自体は好きなので、死なない程度に飲ませてあげてます」

「そうなんですね……」

「この隣の部屋にベッドがありますので、私は主人を寝かせます。お二人でごゆっくり」


 そう言って、少々頬を赤らめたリュウコさんは、ニカさんを引っ張って、隣の部屋へ移動した。


(この感じだと、将来、ニカさんとお酒を飲んだら……研究()ではなく、酔っ払いの世()をしないといけないのか……)


「はぁ。意外な一面を見ました」

「いやー、面白いね。それより、未成年なのに、下戸を知っているとはね〜?」


 一方のオオバコさんは、シラフの時と全く変わらない。

 顔も赤くなっていない。相変わらず、天使族特有の色白の肌をしている。


「まぁ、ここに来る前、飲んでましたから……」

「だよね! そん時は、強かったの?」

「普通……です」

「へぇ〜」


(さすがにニカさんの家だから、“転生前”とは言わなかったけど……オオバコさんなら、察してくれるだろう)


 実際に察してくれたのか、オオバコさんは「まぁ、こっちだと違うかもね?」とつぶやきながら、自分のお猪口に蛇酒を注いだ。そのまま一気に飲み干したあと、夜空に浮かぶ半月を、穴のあくほどじっと見つめていた。

 

「はぁ〜……美味しいわ、この蛇酒。今度、リツキにも飲ませたいな〜。あの子、成人した時にさ、『この世界でお酒が飲めるなんて、幸せ!』って感動してたんだよ。あと、注射製剤にも興味を示してたなぁ。化学兵器(毒ガス)って、注射製剤になるんだよって教えてあげたら、『その薬が早く出回っていたら、長生きできた人がいたでしょうに』ってさ」


 独り言のように、ぽつぽつと話すオオバコさん。


(それにしても、注射製剤に興味を示す人物……研究取扱者か?)

 

「オオバコさん、()()()って誰ですか?」

「あっ、アダムは知らなかったね。島に住んでいる天使族の子だよ! 計算が超得意で、会計のプロ。将来、研究所を設立するなら、会ってもいいかもね〜?」

「なるほど、会計のプロですか。確かに、俺は簿記が苦手です……」

「えっ、意外! 得意そうだけど?」

「いえ……“仕訳”の“し”の字を見るのも嫌で……」

 

 俺は前世の時に、すでに苦手だと自覚していた。むしろ、俺は苦手でもいいと思っていた。

 なぜなら、その当時、俺の妹が商業高校に通っていて、ちゃんと簿記の資格を取っていたからだ。


(あぁ……。あの時、妹が生きていたら……一緒に研究所を開設していたのかもしれない。でも、もう過去――前世のことだ。忘れよう)


 頭を横に振った。

 これまでの過去ではなく、これからの未来について、考えないと。


 気持ちを切り替えて、俺の方から話を切り出す。


「じゃあ、オオバコさん。その時は、よろしくお願いします」

「いいよー?」

「それでは、明日、フォレスト家に行くので、そろそろ寝ます」

「りょーかい! アンズちゃんにもよろしく伝えといて!」

「もちろん。おやすみなさい」

「おやすみ〜。私はここで飲んでるから」


 オオバコさんにおやすみの挨拶をした俺は、お風呂に入った。

 オオバコさんの回復魔法のおかげで視力が治り、もうメガネなしでも物が見える。

 その分、以前より、お風呂の時間も効率よく過ごせている気がした。


 風呂から上がった後、寝る前にふと思い立ち、オオバコさんが酔っていないか気になって、ドアの隙間からそっと覗いてみた。


 すると、オオバコさんは、まだ一人で飲み続けていた。

 

(しかも、何か独り言を言っている?)


「……レンゲ様。貴女のおかげで、奇跡が起きている。貴女が繋いでくれた縁が、点と点を結ぶ線のように重なり合って……。今回、テロを防げました。だから、安心してください。どんな災難があっても、貴女の愛娘は、私たち天使族だけでなく、研究者である彼が助けてくれる。もし、私に何かが起きても……」


 そこまで言って、オオバコさんはソファで横になり、眠りについた。


 風邪をひかせてはいけないと思い、俺は足音を忍ばせて部屋に入り、そっとプランケットをかけた。

 オオバコさんの寝息を確認してから、自分のベッドに戻った俺は、天井をぼんやり見ながら、天使族について考え始めた。


 亡き王妃様――俺にとっては女神様であるレンゲ様。オオバコさんは、レンゲ様を心から慕っているようだ。

 そして、そのレンゲ様の娘――おそらく第一王女だと思われる人物のことについても、言及していた。


(あの口ぶりだと、あたかも第一王女が生きているかのような……。もしかして、オオバコさんはもう会ったことがあるのか?)


 いや、それはないはず。王女様(彼女)はいまだに行方不明なのだから。きっと、俺の思い過ごしだ。


(それよりも、天使族に会計のプロがいるなんて、つくづく面白い種族だ。そのプロに、ぜひ会ってみたいし、研究所設立の際には、資金面で力を貸してもらえたら……心強い)


 そんな明るい未来を思い描きながら、俺も横になった。

【余談】

リツキの名前の由来はリツキシマブ(Rituximab)というあるお薬の一般名から。


【お知らせ】

次回も番外編です。引き続きよろしくお願いいたします。

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