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【三族山編】死屍累々〜教祖は語らない〜【※】

【※注意】

本話には「死体」に関する描写が登場します。苦手な方はご注意ください。

 オウレン先生やオオバコさんと話し合ってから、二日が経った。

 ニカさんの家で、ゆっくり療養することができ、だいぶ体力も戻ってきた。


 その間、オオバコさんは教祖たちの居場所を探ろうと、一人で調査に出るつもりだったらしい。けれど、ニカさん夫妻に「女性一人じゃ危ない」と止められて、ニカさんと二人で調査に出かけていたようだ。今日からは、俺もその調査に加わる。


 そんなわけで、今の俺は、ニカさんの家で朝ご飯を食べ終えたところだ。メンバーは、ニカさん夫妻、オオバコさん、そして俺。四人揃っての朝食だった。

 

「うーん! リュウコさんのおにぎり、美味しかった〜! 調査で疲れてたから、体力が戻ってくるよー!」


 朝から元気いっぱいのオオバコさんは、高菜おにぎりでパワーアップしたみたいで、満面の笑みでリュウコさんにお礼を言っている。

 

「良かったです。今日からは三人で、教祖たちの居場所を探しに行くのでしょう? あなた……車の運転、どうかお気をつけて」

「ありがとう、リュウコちゃん。おっ、ちょうど天気予報やってる。晴れか〜! ドライブ日和だね〜」


 ニカさんは、いつものようにデザート代わりのペロペロキャンディーを口に含みながら、じっと画面を見つめている。テレビに映っているのは、三族山周辺の天気予報だ。


『本日も晴れの予報ですが、昨日と同様に空気が乾燥しています。次はニュースのコーナーです』


 天気予報が終わり、画面がニュースに切り替わった。


『今日未明、三族山の一部で森林火災が発生しました。原因は不明とのことです』


「あれ……ここって、オオバコさんが閃光手榴弾を投げた場所じゃ……? まさか……」


 ニュースを見て、率直な感想をもらしつつ、俺は調査の準備を終わらせる。


(火を扱うことができて、三族山に出入りしている人物といえば……)


 同じことを考えていたのは、俺だけじゃなかったようだ。

 普段はマイペースなオオバコさんとニカさんも、手早く身支度を整えていた。


「オオバコちゃん、アダムくん。急ごう」

「うん。今日こそは……絶対に捕まえてみせる! 行くよ、アダム!」

「了解です」

 

 俺もすぐに二人のあとを追い、車に乗り込んだ。

 教祖(ヤツ)らが、あの場所にいると信じて――。


 △▲△△▲△


「ニカ〜、ラジオに変えるね!」


 運転席のニカさんと隣で、オオバコさんがモニター画面を操作する。

 クラシック音楽が途切れ、代わって、ラジオのニュースが流れ始めた。


『……日曜から月曜にかけては三族山の教会。昨晩は穀物倉庫。そして、今日未明には――再び三族山での火災。この一連の火災について、宗教団体が関与しているとの情報も入っています……』


()()()()?」


 後部座席の俺でも、はっきり聞こえた。

 

「アダムくん。今のニュースで言ってた穀物倉庫、危険薬物が保管されていたのかも……?」

「ニカさん。俺もそう思いました」


 ニカさんも、俺と同じ推測をしている。

 一方で、オオバコさんは放送内容に納得がいかなかったのか、不満げに口を開く。


「しっかしさー、倉庫の場所、教えてくれなかったね〜? それに宗教団体って……もう解散してるし!」

「オオバコさん、落ち着いてください……って、あっ。失礼」


 オオバコさんをなだめようとしたところで、着信音が鳴ったため、俺は通話に出た。


「もしもし?」

「アダム! 体調はどう?」

「アンズ。あぁ、大丈夫だよ。今、車に乗って出かけてるんだ。あとで、折り返し……え?」


 アンズからの電話だ。本当はもう少し話したかったけど、今は移動中だし、あとでかけ直そうと思っていた。だが、そんな俺の気遣いをよそに、オオバコさんが遮って、俺の代わりにアンズと会話を始めてしまった。


「アンズちゃん! この前は、ありがと! アンズちゃんの膝枕のおかげで、アダムがすっごく元気になったよ〜!」

「オオバコさん、こんにちは! アダムが無事で本当に良かったです。実は、相談したいことがあって、アダムに連絡したんですが……あとでの方がいいですよね?」


 さすがアンズ。

 逆にアンズの方が、オオバコさんに気を遣ってくれている。


「ううん。移動中だからこそ、今の方が助かるかな? それより、何があったの?」


 オオバコさんは、突然、声を低くし、真面目な顔つきに変わった。

 

「私、今フォレスト家にいて……。さっきまで、シンイさんが花火師さんと、そのお友達の方と打ち合わせをしてたんです。失業手当の給付の話をするために」

「なるほどね。()()()ってことは、そのお二人はもう帰ったんだ?」

「はい。お友達の方なんですが、知り合いに運送業で働いていた方が……。そのおじさまから電話があって、『取引先でよく行っていた穀物倉庫が昨晩の火事で燃えた』って。もしかしたら、ニュースでやってたあの火事かもしれないと聞いて、帰っちゃいました」


 なんということだ。


 アンズからの電話で、判明してしまった。


 その運送業者は、小麦粉や片栗粉を運んでいるつもりだったが、実際に運ばれていたのは――危険薬物。

 

 つまり、危険薬物の保管倉庫は、跡形もなく燃え尽くされたんだ。


(最悪だ……。あの保管倉庫から、危険薬物がどうやって運ばれたのか、流通ルートを突き止めたかったのに。火事で“もぬけの殻”になってしまっては、製造元の特定すらできやしない……!)


 誰も、何も言わない。けれど、おそらく俺だけじゃない。ニカさんも、オオバコさんも、同じ結論にたどり着いているはずだ。

 

「アンズちゃん、教えてくれてありがとう。アダムに代わるね」

「あっ、はい。アダム……。これから、どこに行くの?」

「アンズ……」


 どこまで話すべきか迷ったが、俺は正直に答えることにした。


「今から、“教祖”たちを探しに行く」

「えっ……危ないよ。オオバコさんから聞いたの。あの後、意識を失って、槍毒で……本当に危なかったって。心配だよ……」

「大丈夫。今の俺は一人じゃない。オオバコさんとニカさんも、一緒にいてくれる。それにアンズ。君が待ってくれている。だから、待っていてくれ。絶対、生きて帰るから」


 俺の言葉に、アンズはしばらく黙っていたけれど……。


「わかったわ。()()()帰ってきてね?」

「もちろん、必ず。じゃあ」


 別れの言葉を伝えて、電話を切る。ちょうどそのタイミングで、オオバコさんが車の窓を開けて、外の空気を入れ替えながら、俺の方を振り返った。


「アダム〜。アンズちゃんと、いい感じだね……って、あれ? なんか、外……臭くない?」


 眉をひそめるオオバコさん。その異変を感じ取ったのは、オオバコさんだけではなかったようで。


「オオバコちゃん……“(くさ)い”どころじゃない……。(すす)の匂いに、血と……腐った肉の匂いも混じってるよ。僕、吸血鬼族だから、鼻が利くんだ……」


 ハンドルを握るニカさんの顔色が、みるみるうちに悪くなっていく。


「ニカさん、その状態で運転を続けるのは危険です。火事のせいで、誰かが亡くなったのかもしれない。ここで、車を止めて外に出ましょう」


 俺の提案に、二人は無言で頷き、車を路肩に停めて降りた。


 鼻が利くニカさんを先頭に、匂いがする方向へ歩き出す。


(このあたりで火事があったのか? それにしても、この匂い……ただの煙じゃない……)


「何、あれ……?」


 オオバコさんは突如、何かを発見したようだ。声を上げて、駆け出していく。


 俺もすぐに後を追うと、焼けた土の上で、黒焦げになった“何か”が横たわっていた。近づくにつれ、それが“人”の形をしているとわかった瞬間、ゾッとして、血の気が引いた。


(焼け落ちた白い服の残骸――まさか!)


「教祖だ……こんな形で……()()()のか……?」


 思わず敬語も忘れて、呆然とつぶやく。

 

「あぁ……焼死だ」


 後から追ってきたニカさんが、死体をひと目見るなり、即座に答えてくれた。

 

「いや、待って。別の死体の匂いもする……」


 ニカさんは眉間に皺を寄せながら、地面に視線を落とす。

 教祖の死体の下からも、異臭がしている――つまり、死体は一体だけではないようだ。


「二人とも、大丈夫? 怖かったら、僕が掘ってみるよ」

「ニカ……お願い……」


 オオバコさんは顔を背け、唇を噛みしめている。見るのが辛いのだろう。

 一方の俺は、前世で解剖実習の見学を経験している。死体を見ることには、耐性がある……はずだった。

 

 だが、衝撃が強すぎた。目の前の死体は、ついさっきまで息をしていたかもしれない“教祖の姿”だ。

 

 それでも、ニカさんの隣に並び、大きなショベルで地面を掘り始める。


 ガッ!


 明らかに植物ではない、硬い何かに当たった音がした。


「え? なんだこれ……?」


 手袋越しに、そっと撫でる。ゴツゴツした関節の感触。


(細くて、小さな指……?)


「うわぁあああっ!」


 反射的に声を上げてしまった。


 掘り返した土の中から現れたのは――白骨化しかけた、まだあどけなさが残る少女たちの亡骸だった。

【補足:薬学部と解剖実習について】

物語中で、主人公が「前世で解剖実習の見学を経験している」という描写がありますが、実際の薬学部では、人体の解剖実習は行われません(実施されるのは主に医学部・歯学部・獣医学部など)。

ただし、大学によっては、医学生向けの解剖実習を薬学部生が見学できるカリキュラムが設けられていることもあります。これは、人体構造や医療現場への理解を深めることを目的としたものです。

本作では、そうした見学機会があったという設定に基づいて描いています。

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