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ファンタジア・サイエンス・イノベーション〜第10王子:異世界下剋上の道を選ぶ〜  作者: 国士無双
第二部 【本論】第10王子、異世界下剋上の道を選ぶ
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【三族山編】転禍為福〜毒ニモマケズ〜

 教祖らを見失ってしまい、やるせない気持ちでいた俺だったが、興奮が冷め、ようやく我に返る。

 再び、黒幕が残したメモ用紙を見つめていたところ、オオバコさんが口を開いた。


「うーん、“川”って、エルフ族領にあったっけ!?」

「いや、川があるのは、吸血鬼族領だけですよ。ニカさんの奥さんが言ってました。三族山で、川があるのは、吸血鬼族領だけだって」

「そっかー。現地に住んでいる人が言うなら、その通りだね」


 オオバコさんは、納得したようで、ポンと膝を打った。


「それより、オオバコさん。さっき“ヤツらがどこへ向かおうとしてるか見抜いた”って言ってませんでした?」

「そうだね。もし私が黒幕の立場なら……白い粉の保管場所に向かうかな。跡形もなく、燃やすために」

「それは、隠蔽(インペイ)ってことですか……?」

「うん。もう宗教団体の存在自体が不要になったから、白い粉を提供する必要もなくなった。捨てるのが大変だと思ったら、あの教祖たちは……燃やすだろうねー」

「その説は一理ありますが、追わなくていいんですか?」


 自分のせいで、教祖らを完全に見失ってしまったことが、心に引っかかっていた。

 今からでも、追えるんじゃないか――そんな考えが、ふと頭をよぎる。


「やめとくよー。あんまり魔法使うと、体力が持たないし……。それに、さっきの魔法で、遠くにはいけないはず。明日以降もこのあたりを見回ることにするよ」

「そうですか。俺としては、黒幕の目的は、エルフ族の絶滅や他種族の支配だと思っていたのですが……。このメモの内容だと、違う気がして」


 何か手がかりを探そうとするが、顔の傷の痛みが予想以上にひどく、考えがまとまらない。


(あれ……? 痛いだけじゃない。舌が痺れて……手足も、うまく動かせない……。これ、まさか……さっきの槍先に、毒が……?)


 倒れそうになったその瞬間、オオバコさんがすかさず腕を引っ張ってくれて、俺を木の下に座らせてくれた。


「あっ……どうも……」

「アダム、しっかり……って、毒が回ってるみたいだねぇ。うーん、教祖(アイツ)らが仕掛けたのなら、有効な解毒薬(げどくやく)(毒消し薬)がないタイプの毒だよね……。困ったなー、胃を洗浄できればいいけど、近くに病院もないし……」


 そりゃあそうだ。解毒薬がないのなら、催吐(サイト)(吐き気を誘発)するか胃洗浄しかないが……そもそも舌の痺れがひどくて、それどころではない。


 オオバコさんもお手上げのようだ。腕を組みながら、何とか打開策を見出そうとしてくれているが……。


 あぁ……俺の人生はここまでのようだ。


(せっかく、母さんと仲直りできたのに……。パフォーマンスも上手くいって、やっと夢の第一歩を踏み出せたと思ったのに……。研究所をつくる夢も、叶えられないまま……俺は、ここで終わるのか……)


 ただ、前世――あの研究室で誰にも看取られずに突然死した時とは違う。今の俺には、隣にオオバコさんがいる。


 舌が回らない。それでも、俺は、オオバコさんに感謝の言葉と、どうしても伝えてほしいことを口にする。


「オオバコさん……今まで……本当に、ありがとう……ございました……。母さんのこと、お願い……します。あと、アンズに……歌ってくれて、ありがとうって……伝えて……ください……。一番、大好きな、歌だったって……」


 言い終えたタイミングで、毒が全身に回った気がした……。

 

「アダム。そういう大切な言葉は、自分の口で言わないと――安心して。回復魔法で治してあげるよ」

「回復……?」

「うん。私は、ただの天使族。誰かさんみたいに愛くるしい王女様でも、レンゲ様みたいな貴族育ちでもないから、本当はそんなに魔力がないんだけどねぇ……」


 オオバコさんが俺の左頬にそっと手を当てたと同時に、魔法を発動させる。


(身体が……楽になってきている? あれ……これって、人生の終わりが近づいているときの安らぎなのか?)

 

 だけど、死の直前というよりは――まるで、弱った体に、補中益気湯(ホチュウエッキトウ)(漢方薬)が与えられたような気分を味わっている。


(要するに、失われた活力が、ゆっくりと戻ってきている感じだ……)


 そんな俺の様子を見て、オオバコさんがブツブツ何かを言い始める。


「こんなに早く回復しちゃうとはねぇ……。“不老不死の果実”の効果ってすごいわー。天使族しか使えない回復魔法ってだけでも強烈なのに、ここまで来るとちょっと怖いね〜」


 残念ながら、全部は聞き取れない。でも、その中に、気になるキーワードがあった。


(不老不死……?)


「ふ……」


 ダメだ。声が出ない。


「無理しなくていいよー? お礼もいらないよ。だって、私がここに連れて来させちゃったからね。あとで、アンズちゃんにたっぷり甘えな。さて、おやすみなさい……アダム」


 オオバコさんは、黒い手袋をはめた手で、俺のメガネをそっと外し、まぶたに優しく触れる。そして、俺の目を閉じてくれた。


 生き延びられるかどうかは、わからない。

 けれど……オオバコさんのその言葉に甘えて、俺は眠りについた。


 △▲△△▲△


(うーん……首の後ろが柔らかくて、温かい。ここは……ゆりかご? それとも、墓場……?)


 俺は、夢うつつながらも、ゆっくり目を開けてみた。

 すると、目の前にいたのは、黄色の瞳を持つ人物――。


「アダム、よかった……! 無事で……!」

「アンズ……俺……生きてるのか……」


 思わず、自分でも信じられずに確認してしまう。


「あれれ、大丈夫? オオバコさんがね、『アダム、疲れすぎちゃったみたい。アンズちゃんが膝枕したら治るよ〜!』って言ってたから……。それで、試しに……やってみたの」

「えっ……」


 言われてみれば、やけにアンズとの距離が近い。そして何より、首元が柔らかくて温かい。どうやら今、俺はアンズの太ももの上にいるらしい。

 

 オオバコさんの余計なお世話――いや、ありがたいご配慮だ。


(うはぁ……。さっきまで毒で死にかけてたのに、膝枕……?! 女神様の栄光(ボーナスステージ)かな……ありがたき幸せ……)


 このまま、もう少しこの状態でいたい気もするけど……アンズは、何かを気にしているようだ。


「アダム、気持ちよさそうな顔してるけど……眠たいの? ここからだと、ニカさんの家が近いし、早めに移動しよっか?」


 そう言いながら、アンズは俺の頭を持ち上げた。突然の動きに、痛みが走るのではないかと身構えたが――まったく感じない。


(どういうことだ? オオバコさんが回復魔法をかけてくれたのは覚えているけど……)


「あれ……あのあと、毒が……?」


 ふと声に出して、呟いていた。


「あっ! エバスくんを咬んだあの蛇、毒性なかったよ。でも、アダムがすぐに対処法を教えてくれたから、手当ても早くできたの。ありがとね?」

「そうか。エバスが無事で何より……あっ、そういえば。蛇ってどこに?」

「オオバコさんが回収しちゃったよ?」

「……了解」


 毒蛇ではない無毒の蛇だと、()()、薬の作用機序を持たない。


(いや、例外で、薬にできるかもしれない。まぁ、今回は、オオバコさんに任せよう……)

 

 それよりも、さっきからアンズとの会話に、微妙なズレを感じる。

 

 俺たちが、こんなふうにすれ違うことなんて、滅多にないことだ。

 

 だからこそ、ここで1つ、お互いが“目で見て確認できる”ような、確実な話題を出してみよう。


「アンズ、俺の顔の傷……どうなってる?」

「えっ? アダムの顔、どこにも傷なんてないよ?」

「え?」

「それより、アダム。ずっとメガネしてないけど、大丈夫? 私の顔、ちゃんと見えてるの? なんか……ずっと目が合ってる……」


 アンズが照れくさそうに視線を逸らす。

 一方の俺は、真顔のままだけど、内心、動揺していた。


(どういうことだ……? 一体、何が起きてる……?)


 ここまで来たら、しっかり確認するしかない。

 

「アンズ、鏡……持ってるか?」

「あるよ! ほら!」


 アンズがポケットから取り出したコンパクトミラーを、俺はすぐに受け取った。


 鏡越しに、自分の顔をじっと見つめる。左頬に視線を移すが、腫れもなければ、かすり傷すらない。

 だが、それ以上に驚いたのは――。

 

「嘘だろ……? メガネがなくても、はっきり見える……」


 どうやら、オオバコさんの魔法は、毒を消しただけじゃなかった。

 俺の視力までも、完治させていたらしい。

アンズちゃん(メガネをかけていないアダムも、かっこいいかも……)

アダム(メガネなしで、こんなに見えるの快適すぎる……)

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