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ファンタジア・サイエンス・イノベーション〜第10王子:異世界下剋上の道を選ぶ〜  作者: 国士無双
第二部 【本論】第10王子、異世界下剋上の道を選ぶ
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【三族山編】臥薪嘗胆〜谷で再会?〜

「逃がさないよっ!」


 誰よりも早く動いたのは、第5王女のシンイさんだった。

 黒い車の前に、バリアを張ろうと防御魔法を展開しかけたが――教祖たちの方が一枚上手だった。

 車は雑踏をすり抜け、あっという間に、森林の中へ姿を消してしまった。


(くそ……まだ近くにいるはずだ。捕まえる!)


 走り出そうとした、そのとき――。

 

「アダム! 乗って!」と叫び声が、後ろから聞こえてきた。思わず振り返る。


「オオバコさん!」


 ヘルメットを被ったオオバコさんが、俺の分のヘルメットを投げ渡し、『後ろに乗って』と手で合図してくれた。


(迷っている暇はない! でも、これだけは言っておかないと)


「ルパタ! エバスが(ヘビ)に咬まれたところを、心臓より低い位置に下げて、安静にさせて! 俺は教祖を追う!」

「わかった! 教えてくれてありがとう! 気をつけて!」


 ルパタはすぐに、エバスの手当てに取り掛かる。

 アンズも、手当てに必要な物を用意しながら、不安げな表情で、俺を見つめていた。

 

「アダム、ちゃんと帰ってきてね?」


 安心させたくて、俺はアンズの頭をそっと撫でる。


「もちろん。行ってくる、アンズ……」


 すると、アンズは、覚悟を決めたように笑って、「待ってるからね? ファイト!」と背中を押してくれた。

 その言葉を胸に刻んで、俺は迷わず、バイクに飛び乗る。


(ちなみに、言うまでもないけど、俺は未成年だ。だから、運転はできない。今回、オオバコさんの後ろに乗るしかない)


「アダム、ちゃんと乗った? イレギュラーな事態だから、スピード出すよ! しっかりつかまってー!」

「大丈夫ですよ、オオバコさん。よろしくお願いします」

 

 ブォオオン!


 バイクのエンジンが、轟音を立てて動き出した。

 月明かりに照らされた夜の林道を、俺たちはバイクで駆け抜ける――教祖に、追いつくために。


「アダム! 絶対に追いついてみせるよ! あんな嘘まみれのエセ研究者に、負けたくないもんね!」

「はい。教祖には、しっかり罪を償ってもらいます。それと……さっきの蛇も回収しましょう」

「えっ! 蛇も回収?!」

「あの蛇、毒を持っている可能性があります。もし毒蛇なら、薬に応用できるので」


 その一言に、オオバコさんは大爆笑する。


「アハハハ! ウケる! そんなことを考えてるなんて……君、本当に面白い! よーし、なおさら追いついてみせるよ――!」


 引き続き、ギリギリの最高速度を保ったまま、林道を疾走する。

 

 オオバコさんのハンドルさばきは見事だ。

 その腕前を発揮してくれたおかげで、俺たちは、黒い車の目前に迫っていた。

 

「アダム、あの車……中が暗くて、よく見えない!」

「オオバコさん! この感じ、運転席側じゃなくて、助手席の方が良いですよ!」

「了解! 左から回るよ……!」


 俺のアドバイスを聞くが早いか、オオバコさんはバイクを巧みに操り、助手席側に並びかけた。


 だが――間髪入れずに、助手席の窓の隙間から(やり)の穂先がスッと現れ、オオバコさんの顔面めがけて突き出される。


 ガコンッ!

 

 槍先が、オオバコさんのヘルメットに直撃した。


「ったく! 悪趣味な槍で攻撃するなんて、ダサ過ぎるよ! しかも、顔を狙うなんて、本当に最低っ! ヘルメットしといて良かったわ〜」


 オオバコさんは悪態を吐き散らかしながら、ヘルメットを乱暴に外す。

 一方の俺は、その隙を狙って、助手席を覗き込み、運転手の姿を探る。


(はぁ……?!)

 

 なんということだ――フードを深く被った運転手は、驚いたことに、ガスマスクまで装着していた。


(ガスマスク……やはり、化学兵器(毒ガス)を撒くつもりだったのか。コイツ、まさか……)


 俺は、教祖を捕まえること以上に、この運転手(黒幕)の正体に気を取られていた。

 

 そんな俺の思考を読んでいたのだろうか。


 運転手の動きが、突如変わった――。


「アダム! 危ないッ! 槍が君のところに――!」

「っ……!」


 オオバコさんの叫びと同時に、俺も咄嗟にヘルメットを外し、助手席に向かって投げつけようとした。

 

 だけど、遅かった。


 槍先を完全に避けることができず、わずかに俺の左頬を擦ったようだ。ひりつくような痛みが走る。

 さらに、緊張で筋肉が強張っていたせいか、バランスを崩してしまう。


(しまった……!)


 バイクが、左へ大きく傾く。


 すぐさま、オオバコさんがその状況を察知し、スピードを落として、急ブレーキをかける。


 その間に、黒い車が暗闇の中に消えていく。

 最悪なことに……姿も、気配も、完全に見失ってしまった。


「クソッ……間に合わなかった……!」


 ハンドルを握りしめたまま、オオバコさんが舌打ちする。

 その隣で、俺は自身の無力さに絶望し、打ちひしがれていた。


(もう少し……あと少しだったのに。届かなかった……)


「アダム、追いつけなかった……でも、終わっていない。アイツらを絶対に許さないし、罪を償わせる! 天使族を代表して、レンゲ様の仇、今こそ討たせてもらう!」


 珍しい。オオバコさんが、怒りを露わにしている。


(それに、レンゲ様って……!)


「アダム、私は“見抜いた”。アイツらが、どこへ向かおうとしているのか。でも、行かせない。アダム、後ろを向いて。そして……しっかり、()()()()()


 この静けさの中で、オオバコさんの声だけが、力強く、響いた。

 そして、バイクの後ろから、彼女は迷いなく、閃光手榴弾を取り出す。


「それって、もしかして……?」

「大丈夫。この『No.12』()はね……炎色反応を示さないし、致死性もないから。だが、ある細工を入れているッ! 天使族由来の魔法をね! この光を浴びると――!」


 最後まで聞き取ることはできなかった。


(オオバコさんが、いきなり投げた……!)


 夜の林道を切り裂くような強烈な閃光――いや、まるで天国の扉が開いたかのような、純白の光だ。

 

「――ッ!」


 反射的に目を閉じたが、それでも白い光がまぶたの裏を突き刺すように差し込んでくる。


 しばし沈黙した後――ドォオオオオオンッ!


 前方で、車が木に激突したような、破壊音が響いた。

 思わず目を開けるが、幸い、視界に異常はない。

 

「あれ……。この音、意外と近くにいるんじゃ……?」

「うん、向かおう」


 オオバコさんと共に、再びバイクにまたがり、音がした方角へ急いで向かう。


「アダム、あった……見つけた!」


 車は、林道の木の幹に斜めから突っ込んでいた。ボンネットからは白煙が噴き出し、助手席のドアは半開き。足元には、ガスマスクが転がっていた。


「この閃光は、天使族にしか使えない――唯一無二の“負傷魔法”だよ」


 オオバコさんは淡々と説明する。


「視神経に衝撃を与えたから、一時的に失明しているはず……って、えっ! 嘘でしょ! 車の中に、誰もいな――」

 

 ボトッ。


 オオバコさんの言葉を遮るように、車の屋根から、一匹の蛇が落ちてきた。


「あっ。さっき、エバスに咬みついた蛇か」

 

 俺はそっと手を伸ばす。けれど、その蛇は、すでに息絶えていた。


 ……だが、奇妙なことに、尻尾にメモ用紙が括りつけられていた。


 慌てて、それをほどき、広げる。

 ミミズの這ったような字で書かれていたが、かろうじて読めた。


「なんだよ、これ……」


 俺の本音を聞いて、オオバコさんがいつの間にか隣に来て、メモを覗き込む。


「えっと……『私の勝ちだ。三族山で“川”を越えた。次は、“谷”で会おう』。はぁ?! どういうこと? 意味不明!」


 オオバコさんは、教祖と運転手を逃したこともあり、キレている。


 オオバコさんが怒るのも当然だ。あれほど近くまで迫っていたのに、すべてが水の泡になったのだから。


(いや、ここで諦めるわけにはいかないな。この文章、ただの挑発文ではない。何かを、伝えようとしているはず)


 真相は、謎のままだ。

 それでも、俺は、珍しく、心の声をそのまま口にしていた。


「今度こそ、逃がさない……逃げ切れるなんて、思うなよ。必ず、この手で捕まえてやる……」


 憤懣(ふんまん)やる方ない思いでいたが、まさか、あんな“地獄のような”形で、教祖と再会することになるとは――この時の俺は知る由もなかった。

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