表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
102/132

【三族山編】背水之陣〜悲鳴と共鳴〜

【※注意】火事・蛇に咬まれる描写があります。苦手な方はご注意ください。

 教会内が、またしても大混乱に陥る。


「火事だ……! もう終わりだ――!」


 迫り来る炎を目の当たりにして、全員、足が(すく)み、焦燥感に駆り立てられる。


(このままじゃまずい! 熱傷(やけど)か一酸化炭素中毒で、全員死んでしまうぞ……)

 

 しかし、そんな俺たちの焦燥感を察したのか、教会の入り口に、母さんと花火師の姿が見えた――。

 オオバコさんを含め、3人はすでに話し合っている。


「おいおい! 大変なことになってるよぉ! まぁ、俺は花火師なんで、消火セットは持ってるけど、今は避難が先だな!」

「そうですね。まずは奥の方から順番に入り口へ出てください! えっと……オオバコさん。教会にいる全員を公園まで誘導できますか?」

了解(ラジャー)。任せて!」


 すぐさま、母さんたちは、信者の群衆を小グループに分けて、手際よく避難誘導を始めた。


(ありがたい……!)

 

 俺たちも、急いで、ステージを下りる――教祖も一緒に。


(教祖には、しっかり裁きを受けてもらう。だから、今は助ける……)

 

 その直後、シンイさんとルパタが、教会の最前列から入り口にかけて、防御魔法でバリアを張ってくれた。


(このバリアなら、火の粉を弾いてくれる!)


 さて、避難が進み、教会内に残っているのは、俺とアンズ、フォレスト家の3兄弟と教祖。あとは――さっきの少女だけだ。アンズが「行こう?」と手を差し出す。

 

 けれど、少女は首を横に振る。


「ごめん。やり直せるか、自信がないから……やっぱり……」


 一瞬、振り出しに戻るような気配を感じたが、杞憂だった。

 母さんが俺たちのもとへ駆け寄り、アンズの代わりに少女の肩に手を添え、優しく声をかけていた。


「自信がないのは、まだスタートに立っていないからでしょう? ここで終わったらダメだと、私の息子が教えてくれたじゃない。私も、自分がやってきた償いをすぐに返せるとは思っていない。だからこそ、生きるの。ほら、行きましょう……」


 母さんは少女の手を引いて、入り口の方へ歩き出す。


(母さん……。俺の話を聞いてくれてたんだ……)


 しかも、“私の息子”だと言ってくれた――それが、何より嬉しかった。

 

 だが、感激に浸る暇はなかった。

 まずは、生き延びることが何よりも最優先事項だった。


 △▲△△▲△


 三族山内公園にて――。


「全員避難できたかな?」


 オオバコさんが、俺の母さんに話しかける。


「はい。確認してきました。オオバコさんのおかげで、全員無事です」

「よかったね……心臓が止まるかと思ったよ……」


 俺も公園内を回り、怪我や体調不良の人がいないか確認した。幸い、母さんたちの初動対応が良かったおかげで、誰一人取り残されていなかった。信者の人たちも、生き延びることができた安堵からか、泣き出す者と、抱き合って喜び合う者しかいなかった。

 

 そんな中、先ほどの少女が、俺とアンズの前に現れた。


「さっきは……ごめんなさい。私、弱い人間です。でも、教祖が自ら教会に火をつけたのを見て、覚悟を決めました。自分の力で、一からやり直そうと思う……」

「うん。その一歩を踏み出しただけでも偉いよ!」


 アンズは、普段通り、元気付ける言葉をかけた。俺も励ましの言葉を添える。


「まぁ、そんなに自分を追い詰めなくても……助けてくれる人や君の味方は、きっとどこかにいるだろう。元素がお互いに助け合うように、誰かが君のことを必要としている。そんな気がするんだ」


(あぁ、君に言いたいことは全部言い切った。どう生きるかは、君次第だ)


 なんて返事が来るか、わからない。

 でも、少女は、意外な単語に反応して、顔を上げた。

 

()()……!」


 少女の瞳が、花火のように輝く。


(もしかして……)


「私、決めた。花火の仕組みとか知りたい。科学の勉強、やってみたい!」


(おっと……科学オタクが、もう一人増えたな。嬉しい悲鳴――いや、ここは“共鳴”とでも言っておこうか。研究者としての矜持にかけて)


 近くにいたシンイさんや、アンズのバイト先の人たちも、その話を聞いて、感銘を受けていた。


「うん、挑戦する姿って本当に素敵。ワタシたちも負けてられないっ! 図書館併設カフェの計画もあるし、もっとお店を盛り上げていこう!」

「おぉー!」


 そして、信者の人たちは、宗教団体としての活動は不可能だと悟ったようだ。少女の決意を聞いて、各々が覚悟を決めた表情をしていた。


「俺たち、ただ居場所が欲しかっただけなのか……」

「そうだよ。自分のことは、自分自身で解決するしかないんだよなぁ……」

「にしても、現実の問題は山積みだよな。明日から、どうやって生きていけばいいんだろ。どこで働けば……」


 信者たちの愚痴を聞いて、花火師が(ゲキ)を入れる。


「困ってんなら、うちのところで働いてもいいし、ダチに相談して、働き口を用意しとくよ〜?」

「本当に?」

「花火師になろうかな?」


 みんな、花火師に話を聞きたいのか、その中心に集まっていく。

 

 新たな一歩を踏み出した人々の背中を見つめながら、アンズは俺にあたたかい笑顔を向けた。


「全員無事で本当によかったね。それに今、希望に溢れている感じがする! アダムの実験が、すごくいい刺激になったんだと思う」

「違う……アンズのパフォーマンスが良かったんだ。科学と音楽の融合、楽しかったな」

「えっ!」


 本心を言っただけだが、アンズは目を丸くして、頬をほんのり赤く染める。


「今日の歌は、いつでも……歌ってあげる。あの、アダムは――」


 アンズは何かを伝えたそうにしていたが、突然、エバスの呻き声がした。


(いて)ぇ!」

「あっ……! (ヘビ)()まれてる?!」


 ルパタが急いで、木の枝を手に取り、エバスの腕に絡みついている(ヘビ)を攻撃する。

 

 だが、次の瞬間――(ヘビ)の体が黒い霧に包まれ、音もせず、まるで最初から何事もなかったかのように姿を消した。


「あれ……どこに消えたんだろう? 何が起きてるんだ?!」


 ルパタは、ただの(ヘビ)ではない“何か”を見てしまったようで、酷く怯えた顔をしていた。その名残だろうか――ルパタの手から木の枝が滑り落ちる。

 

「チクショー! 兄ちゃん! 痛みで拘束魔法が解けてしまったッ!」


 ルパタだけでなく、エバスも動揺している中、誰かの悲鳴が響いた。


「教祖が車の中に逃げ込んだぞ! 誰か、誰か止めろーっ!」


 その叫びと同時に、黒い車がエンジンを始動させ、そのまま猛スピードで逃走した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ