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【三族山編】悲喜交交〜研究取扱者たちによる奇跡〜

 アンズが、無事に、最後まで歌い切った。


(お疲れ様、アンズ。さて……)


 信者たちの表情を見る限り、皆、アンズの歌声に心を奪われたようだ。

 それと同時に、今まで信じてきた教祖と宗教そのものに対して、何かしら違和感や不満があったようで……。


「なぁ……。神の保護だけでなく、【奇跡】や【神の祝福】も出鱈目(デタラメ)だったりするのか?」


(教祖に利用され、心を縛られている信者たち……その縁を絶つためには、事実を伝えるしかない)


 信者たちと正面から立ち向かうことに決めた俺は、臆することなく、事実を公にする。

 

「これは神様の力でも、ましてや“奇跡”でもない――()()の力だ」

「嘘だろ?!」

「えっ……()()? 教祖様が忌み嫌っているけど……もしかして……我々は、ずっと(だま)されていたのか?」


 各々、不信感を覚えたようで、教会内がざわつき始める。

 そんな中、最前列にいた一人の信者が立ち上がり、有ろう事か、ステージに駆け寄る。そして、教祖の胸ぐらをつかみ、怒号を放つ。

 

「おい! 教祖様、どういうことなんだ!」

「嘘だぁああああああ! 神の声を聞いたんだ……聞いたはずなんだ!」


 教祖も互角に叫び返すが、その声は、いつもの“威圧感のある声”ではなかった。腹の底から声を振り絞っている――本物の絶叫だ。


(おっと、今の声……本人だろうか? 全く余裕がないようだ。完全に追い詰められているな)


「離せぇえええええええええ!」


 錯乱状態の教祖は暴れ出す。

 しかし、エバスの魔法によって、手足を雁字搦めに縛り付けられているため、身動きが取れないようだ。


 静まり返る教会。

 その拘束したままの状態で、エバスは教祖に、冷ややかな声で問いかける。


「なぁ、教祖さんよ。どうして(だま)したんだ?」

「……」


 教祖は黙り込む。

 

 だが、次の瞬間――顔を歪めて、奇声を発した。


「なんで信じてるの? なんで信じてる、なんで信じてるの、なんで信じてるの、なんで信じてるの。なんで信じてる、なんで信じてるのそれ! 目を覚ませえええ!」


 焦りと怒りに満ちた、狂乱の叫びだ。


(うーん……ダメだ。このまま、この教祖(コイツ)の話を聞いていても、(らち)があかない)


 呆れながらも、俺はアンズからマイクを受け取った。

 このあとの展開を考えると、俺の方から教祖に質問するのが最善だと思ったからだ。

 すると、その間に、教祖は冷静さを取り戻したようで、ゆっくりと口を開いた。


『ふっ、失礼……。あまりの衝撃に、神にでもなった気でいたようだ』


(は……? 切り替え、早っ……)

 

 本来の調子を取り戻したようだ。

 いつもの芝居がかった声に戻り、暴言を吐き始めた。


『はぁ……。君たちには心底、失望したよ。空気の入れ替え? あぁ。あれは――嘘だ。これから、()()()を撒き散らす』


 教会内が、再び、重苦しい空気で包まれる。

 信者たちでさえ、化学兵器(毒ガス)が内部に持ち込まれていたとは思ってもいなかったようだ。


「嘘だろおおお!」

「子供がいるんだ、許してくれ!」

「やめろおおお!」


 助けを求める悲痛な叫びが飛び交う。

 それでも、教祖は一切聞く耳を持たず、信者たちの願いよりも、自らの目的を優先した。


『さようなら――』


 拘束された腕を無理やり(ねじ)り、右手首を力任せに持ち上げる。


「アダムっ! どうすれば……!」


 アンズが、心配そうな顔つきで、俺のところに駆け寄る。


「アンズ、大丈夫だ」

「えっ!? 本当に……?」

「ああ、任せて」


 俺とアンズが会話をしている中――教会の扉がギィイイイと勝手に開く。

 

 誰もが覚悟を決めていたため、教会全体が静寂に包まれた。


『これで、終わり(チェックメイト)だ!』


 教祖は、悪役の主人公になった気分で、決め台詞を吐いて、愉悦に浸っている。


 それにしても、やはり、嘘つきの教祖様といったところだろうか。

 

 毒ガスが発生する気配すらしない――いや、発生()()()し、発生()()()()

 

 代わりに、教会の扉の向こうから、轟音と共に、一台のバイクが突っ込んできた。

 

 そのバイクに跨がっていたのは、一人の女性。


「ふぅーっ! ギリギリ間に合った! できたよー! 研究者のアダム・クローナル!」


 俺の名前を気軽にフルネームで呼ぶ、マイペースな研究者。

 背中まで伸びた淡緑色(タンリョクショク)の髪と瞳、そして特徴的な太眉と色白な肌――天使族のオオバコさんだ。


 バイクの後部には、しっかりと固定されたアルミ製の保冷バッグ。

 オオバコさんはその保冷バッグの蓋を手際よく開けると、中からヒンヤリとした空気と共に、注射製剤が姿を現した。


 俺は思わず、マイク越しに叫んだ。


「オオバコさん! ありがとうございます!」

「大したことない、朝飯前だよ。それより……アダム。そいつが、悪魔の教祖様?」

「そうです」

「そっかー。化学兵器(毒ガス)なんて、“研究取扱者”の資格持ちか、元資格保持者じゃないと手に入らないからねぇ〜。とりあえず、誤解を解くために、この注射製剤の説明でもする?」

「はい。俺がしますよ」


 俺とオオバコさんのやり取りを聞いていた信者たちは、またしても、ざわめき始める。


「なんだソレは……?」

「まさか! 【神の祝福】が粉じゃなくて、注射に進化したのかー?!」


(そうだ。信者たちの中には、以前から危険薬物を摂取していて、すでに依存症状が出ている者もいるんだった……)


 何やら興奮している様子だったが、俺はマイクを握り直して、解説することにした。

<ご報告>

ご愛読ありがとうございます。


今回でファンタジア・サイエンス・イノベーション(FSI)は100話、累計30万字を超え、さらに総数25,000PV(小説家になろう様、カクヨム様、Nolaノベル様)という大きな節目を迎えることができました。


これもひとえに、読者の皆さまのおかげです。


一話一話を積み重ねてきた先に、こうして皆様と物語を共有できることを、心より嬉しく存じます。


今後も、アダムたちの人生をどうか見守っていただけますと幸いでございます。


引き続き、よろしくお願いいたします!

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