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聖獣

よろしくお願いします

 いかにも強そうなその姿に私は及び腰になるが、勇気を奮い立たせる。


 「カルタさんがアリアちゃんを襲った魔物だったんですね。」


「はい、私があれを襲いました。ですが、私は魔物ではありません。私はあれが引き抜いた剣を守っていた神より遣わされた聖獣です。」


「聖獣。」


本の中に勇者の剣のある場所には聖獣がいて、剣に相応しい人間を見定めていると書いてあった。


「ならどうして、カルタさんはこの屋敷にいるのですか。聖獣なら、祠で剣を守っていなくてはおかしいです。」


「かつて私はあの祠で来るべき勇者を待ちあの剣を守っておりました。あの剣を手にして魔王を倒す者を何百年も待っていたのです。ですが、いくら待っても勇者は現れませんでした。そのうち私もこの世界の穢れを受けて聖域であるあの祠で託されたお役目を果たせなくなりました。私は絶望しました。これでは私は何の為にいるのか分かりません。そんな時に出会ったのが、大奥様でした。大奥様は私の事を憐んでくださり、このお屋敷へ置いて下さったのです。」


カルタさんは熱が入ったように私に語った。


「私はかつての勤めを果たせなかった分、大奥様の為に尽くして来ました。だから、大奥様の最後の心残りであったアンナ様にお仕えしているのです。私はこの生活がとても幸せなのです。愛しいあなたと共にいられる今が何よりの幸せなのです。ですが、あれが来てから全て変わってしまった。」


カルタさんは昨夜聞いたもの同じ唸り声を上げる。


「あれは大奥様の殺めた者の血が混じっているだけでなく、私が出会うべき勇者でした。どうして、今更現れたのですか。これでは私が何百年もあの祠を守り勇者を見定める役割が全く意味を成しません。」


「それって、カルタさんの逆恨みじゃないですか。アリアちゃんは何にも悪くないじゃないですか。」


「それだけではありません。あの悪魔は私のアンナ様のお心を奪った。」


「心を奪った?」


「そうでしょう。あれが来る前のアンナ様は私の言う事をちゃんと聞くとてもいい子でした。ですが、あれが来てからアンナ様は私の言う事を無視してあれを庇おうとする。」


カルタさんの一方的な怒りが私の肌にひりつくように伝わる。


「私はあなたをお慕いしております。年を重ねて行くごとに美しくなられていくアンナ様に心揺り動かない日はないのです。あなたもそうあるべきなのです。私がアンナ様を求めるようにアンナ様も私を求めて下さい。」


私は中身こそ三十路だが、外面は10歳にも満たない子供だ。そんな子供相手に慕っているなんて気持ち悪いにも程がある。どちらにしても、アリアちゃんの身の安全もあるが私自身も危なそうだ。


「アンナ様、間も無くあれの首がこちらに参ります。あれが死んだ事が分かればアンナ様はもう私を悲しませる事はしませんね。」


「首って。何をするつもりですか。」


「殺すのですよ。あれの命なぞたかが知れた価値しかありませんので、死んだところでどうって事はありません。」


私はアリアちゃんが危ないと部屋を出て自室へ戻ろうとするが、扉が開かない。


「どちらに行かれるつもりですか。」


カルタさんは人間の姿になって私を後ろから抱きしめる。


「離して下さい。」


私はメラミ程度の火の玉をカルタさんに浴びせるが、少し離れただけで全く効いている気配がない。


「私は穢れを受けたと言っても私の力は全く衰えておりません。この程度の魔法では傷一つ付けられません。」


私は思いつく限りのイオナズンやマヒャドを思い浮かべた魔法を繰り出すが、部屋がボロボロになるだけでカルタさんは無傷だった。


「今のアンナ様の魔法では私を倒す事はおろか傷一つ付けられませんよ。」


強力な魔法を繰り出して魔力切れを起こして床にはたった私に言った。


「私を倒す事は勇者ですら叶いません。私の強さは世界を支配する魔王にも匹敵するからです。そうでなくては勇者を見極める事は出来ませんからね。ご心配しなくとも、アンナ様には傷一つつける事はいたしません。なので、あれの事はすっかり忘れて元の生活に戻りましょう。」


「あなたはうちの使用人でしょう。そんな事許されるはずはありません。」


私の言葉にカルタさんは少し考えた風にするとひらめたと言わんばかりに私を見た。


「でしたら、旦那様には消えていただいて私がカラス家の当主になりましょう。それでしたら、アンナ様と結婚するにも何の支障もありません。」


カルタさんはこれで満足か言わんばかりに私に言った。


「消えていただくって。殺すって事ですか。」


「何か問題でもありますか。アンナ様は生まれてこの方旦那様の顔を見た事がありません。知らない人間が消えても何ともないでしょう。」


「それでもお父様はおばあ様の子供でしょう。そんな事、していいわけがありません。」


「旦那様は大奥様に背いた人間です。おまけにえらい女好きでアンナ様がお生まれになっても他所にいた甲斐性なしです。殺された所で何にも困りません。」


カルタさんはさも当たり前のように言うと私を抱き上げるとソファの上に置いた。


「ご心配には及びません。痕跡は残しませんし、アンナ様は手を汚す必要はありません。あの男が消えた所で何にも困る事はありません。今まで通りに日々を過ごすだけです。ただ、その前にあれの首を私の影が持ち帰る頃ですのでそれを待ちましょう。」


カルタさんは冷めたお茶を淹れ直すと私の前のテーブルの上に置いた。

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