異母妹アリア
よろしくお願いします。
アリアが来て数日、屋敷の空気は戦争寸前かと思うくらい険悪な雰囲気であった。屋敷の全てを仕切っているカルタさんが親の仇のように幼いアリアちゃんを邪険に扱い、目を合わせるごとに罵声を浴びせるのだ。
「あなたのような汚らわしい存在が、この場所にいるなんて全く反吐が出る。旦那様の命でなければ噛み殺しているのに。」
「ご、ごめんなさい。」
私がいる時はカルタさんもアリアちゃんをなじる事はしないが、目を離すとすぐに無抵抗の彼女をいじめる。
「アリアちゃん、私の部屋で絵本読も。」
私は急いで泣いているアリアちゃんの手を引くと自分の部屋へ逃げ込んだ。
「あ、ありがとうございます。」
「大丈夫?カルタさんがいつもごめんなさい。」
「気に、しないで、下さい。慣れて、ます。わた、しは化け物。」
アリアちゃんはいつもそう言ってまるで自分がいじめられてさも当たり前のように言う。
「私にはアリアちゃんがどうしてそう言うのか分からないです。アリアちゃんはカルタさんに何かしたの?」
「して、ないです。」
「だったら、アリアちゃんがいじめられるのはおかしいです。」
「おかしくないです。だって私の髪の毛白いから悪魔の色じゃないですか。あの人、私が髪が白いのは悪魔だからって言ってました。」
アリアちゃんは自分の髪の毛を両手で握りしめて大泣き始めた。
「アリアちゃんの髪の毛はすごく綺麗ですよ。白くて天使の羽みたいな色です。」
「天使?」
「アリアちゃんを初めて見た時すごく可愛い子が来たって思ったんです。事情は分からないけど、私はアリアちゃんと仲良くなりたいです。」
私はアリアちゃんを抱きしめた。私よりも小柄で細いアリアちゃんは私の腕にすっぽりと入ってしまう。年は私と同じくらいの筈なのに今までまともに食べさせてもらえなかったのだろう、骨の感触がある。
「アンナ様。」
普段ならノックして私に許可を得て入るカルタさんが無断で扉を開けて私を呼んだ。
「少しお話したい事がありますので、お時間よろしいでしょうか。」
「お話?」
「ええ、2人だけでお話出来ますか。ご心配しなくてもアンナ様とお話しするだけです。」
カルタさんはアリアちゃんには手を出さない事を私に仄めかしてアリアちゃんに退出するように要求する。
「分かりました。アリアちゃん、少しお庭にいてくれますか。カルタさんとのお話が終わったら、魔法の勉強をしましょう。」
「アンナ様。」
「大丈夫。終わったらすぐに行きます。」
私は不安そうに私を見るアリアちゃんを部屋から出すとカルタさんをソファに座らせた。
「カルタさん、お話って何ですか。」
カルタさんの向かいのソファに座り、カルタさんのお話とやらに身を構える。
「単刀直入に申し上げます。これ以上、あれと仲良くするのをやめて下さい。」
「どうしてアリアちゃんと仲良くしてはいけないんですか。」
「あれの母親の事をご存知でないのですね。あれの母親は大奥様を殺した人間だからです。あれの母親はカラス家の財力欲しさに目が眩んだ下衆でした。当時旦那様はアンナ様のお母様に当たる奥様を亡くしたばかりで、そこにつけ込んであの女はこの家の人間になったのです。そして、旦那様の結婚に猛反対した大奥様を毒殺したのです。」
ここまでの話を聞いて私はカルタさんがアリアちゃんを目の敵にする理由が理解出来た。
「そうすると、アリアちゃんは私の腹違いの妹なんですね。」
「そうなりますね。まぁ、あの女はあれが生まれてすぐに死んでしまいましたがね。いい気味です。あれもしばらくは旦那様の元にいたそうですが、邪魔だったのでしょう。こちらに引き取られたと言う訳です。」
カルタさんは全て言い終わると一息ついていつもの優しい顔に戻った。
「お分かりになりましたでしょう。あれは正真正銘の化け物なのです。だからもう、あれと関わるのはやめましょうね。」
カルタさんは私にアリアちゃんを庇う事をやめるように訴えかけた。だが、私の答えは既に決まっていた。
「アリアちゃんは私の大切な妹です。だから、私はこれまで通りにアリアちゃんと仲良くして姉妹になりたいと思います。」
カルタさんは私の答えに拍子抜けした様子だったが、すぐに表情を戻した。
「アンナ様はとても賢い方だと思っていましたが、私のお話が理解出来なかったようですね。いいですか、あれは生まれながらの悪魔です。悪魔と関わるなんて碌な事ではありません。」
「アリアちゃんのお母様の件については理解出来ています。ですが、アリアちゃんは何も悪い事をしていないじゃないですか。おばあ様がその人に殺された事はとても悲しい事です。でも、娘のアリアちゃんにまで酷い目に遭わせるのは違うと思います。」
私は言いたい事を言い切ると席を立った。
「カルタさんがこれからもアリアちゃんをいじめるのなら、私はその分アリアちゃんを守ります。」
そう言い残すとアリアちゃんのいる庭へ向かった。