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片想い、させてください。  作者: 月宮心
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私たちは、まだ恋を知らない

1

 「…私、彼氏と別れるかも。」


 4月のある日。桜が散り終わりそうで、もうすぐ暑くなるかなあと思っていた。高校にも慣れ始めたし、何もない、いわゆる平和な日常が続けばいいなと。


「え、なんで!?」


 澪が驚くのも無理はない。なにせ梓は会う度に、聞かれてもいない彼氏とのことを報告してきたし、彼氏好き好きモード全開だったからだ。


「なんか、疲れたって言われた。一緒にいると疲れるんだって。付き合い始めの頃は楽しかったけど、最近は違うって。確かに思い返してみれば最近は全然会話も続かないし私ばっか話振ってるし…」


 無表情だった梓が話している内に段々と涙目になってきて、終いには泣き出してしまいそうだ。


「梓、落ち着いて。て言っても無理かあ、ちょっと場所変えよ。」


 梓は頷いて席を立つ。澪も心配そうな顔で、同意するように椅子を動かした。人目の少ないところと言えば、私の知っている限りでは屋上くらいしか思いつかない。


 とにかく教室を出たいという思いから2人を促して屋上に向かう。いつもより多く階段を上がって、ドアの鍵を開ける。本当は立ち入り禁止なんだけど、それは暗黙の了解ということで通っているのだ。バタン、というドアの音。ここなら他に人はいない。


「それで、梓はどうしたいの?」


「ちょ、紗凪ちゃんいきなりすぎるって。」


「わかんない、でもこのまま終わっちゃうのかなあ。」


 そう言って梓はまた泣き出した。


「もー、紗凪ちゃんてば。」


 言いながら澪は梓を慰める。優しい声とは裏腹に私を睨んでいるけれど。そんなこと言われても、付き合ったことも別れたこともないからどうしたらいいかわからない。


「彼氏さんは梓ちゃんと別れたいって?」


「そう言われた。一緒にいるとしんどいって。」


「そっか、梓ちゃんは彼氏さんと別れたいの?」


「それはいや、まだしたいことあるのに。でも無理かも、なんか拒絶された感じする。もう無理どうしよう涙止まんない。」


 付き合うのって大変だなあと梓を横目で見ながら思う。だって、毎日彼氏のこと考えて、彼氏に振り回されてる感じ。それって片想いと一緒じゃない? 片想いなんて、しんどいだけだ。


 視線をずらすと、僅かしかない桜が散っていっているのが見える。きっと、あっという間に夏が来てしまうんだろうな。


 不意に屋上のドアが開く音がする。誰だろう、先生かな。バレたら反省文かも。鍵かけとけばよかったかな。そう思っても後の祭りだけど。


 キィーという音を立てながら、ドアが動く。そして見えたのは青色の上履きだった。なんだ、同じ学年の人か。それならまだましだ。梓は泣きじゃくっていて、澪は梓を慰めてて、私はその横に立っていて、混沌だけれども。そうして現れたのは同じクラスの裕太と健斗だった。


「なんだ、君たちか。」


「よっ、こんなところで何してんの?」


「それはこっちのセリフ。見てわからない?」


「あー、察し。梓、ついに別れたかー。」


「ついにってなに、ついにって。別に私のせいじゃないし、あんた面白がってるでしょ。」


「はいはいさーせん。で、なんで泣いてんの?」


「梓ちゃん、彼氏さんと上手くいってないみたいで…」


「ほー、俺の読みは当たってたのか。」


「うるさい!がちでどっかいって。」


 梓に怒られて健斗は私の方に来た。


「あいつ、キレすぎじゃね?」


「いや今のはあんたが悪いでしょ…」


 その間に裕太は梓のところに行って澪と一緒に慰めている。裕太にも彼女がいるから多少は梓の気持ちがわかるのかもしれない。


「ねえ、あんたって恋愛したことあるの?」


「失礼だなー、あるよ。まあ梓みたいにガチ恋はないけど。」


「ないんじゃん。」


「彼女なら5人くらいいた。」


「このヤリチン。」


「否定はしまい。」


「紗凪は?」


「ある訳ない。」


 くだらない会話をしているとチャイムが鳴った。時計を見ると、12時50分だった。午後の授業があと10分で始まる。


「じゃあ俺行くわ。またな。」


 そう捨て台詞のようなものを残して行く健斗。あれでいて無遅刻無欠席なんだから、人は見かけによらない。


「梓ちゃんどうする?」と裕太。

 

 相変わらずイケメンである。見た目だけでなく、性格もイケメンなのは珍しいんじゃないだろうか。


「私は無理。こんなんで授業なんか出れない。」


「じゃあ私も残ろっかな。授業面倒だし。」


「…ありがと澪。」


 私はどうしようか。横を見ると裕太もどうするべきか決めあぐねている。


「2人はいいよ、なんか悪いし。授業出なって。」


 なんだか悪いなあと思いつつ、お言葉に甘えることにした。こんなことなら健斗と一緒に先に行ってしまえば良かったかな、と思いながら小走りで教室に向かう。


「なんか梓って一途だよな。」


「ね、あそこまでだと大変だろうけど。」


「俺の彼女よりは全然良いけどな。」


「へー? そうなの?」


「あいつ全然構ってくれないしな、梓の方が絶対良い。」


「裕太も梓と同じ立ち位置ってことか。」


「そそ、地味に辛いしさー、あ、教室だ。」


 そう言って裕太は席に戻った。


 

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