オーク
「早く行くよ!」スコルは何か遠足に行くみたいだ。
ケルベロス達もはしゃいで走り回っている。
それと対極に憂鬱そうなのがメデューサだ。
「気が進まない?」
「当たり前じゃない!
女が何が悲しくてオークのところに自分から行くのよ!?
しかもゴルゴーンの天敵なのよ!?
アニーだって女の子だったら本能的に、生理的にイヤでしょ!?」
・・・何故だろう?
全然『女だったら』あるはずの嫌悪感がない。
オークが女性に対して行う陵辱は、理由はわからないが知っている。
考えてもしょうがない。
「ホビットに洞窟を作ってもらうように頼むには行くしかないんだよ。
オークのいる場所もホビットのいる場所もメデューサしか知らないんだから同行頼んだよ」
「わ、わかったわよ・・・。
私だって近くにオークが住み着いて困ってたんだから!」
森の中を進む。
「ここら辺がオークのテリトリーよ」とメデューサ。
「ちかっ!」
「ホビットの集落まで1時間もかからないのよ?
その間にあるオークのテリトリーはもっと近いに決まってるじゃない」
ケルベロス達がハイテンションだ。
オークの臭いを感じているんだろう。
開けたところで邪悪な気配に囲まれることに気付く。
気配を敏感に察知出来る。
こんな事、前から出来たんだろうか?
記憶がないからわからないが。
オークがゾロゾロと私とスコルとメデューサを取り囲む。
「グヘヘヘヘ・・・・」
オーク達はヨダレを垂らして下卑た笑いを浮かべている。
まるで『女達が罠にかかったぜ!』とでも言いたげだ。
「だ、だ、だ、だからわざわざ来るのはイヤだったのよ!」メデューサはパニック気味に悲鳴を上げる。
スコルは嬉々として周りを見渡している。
まるで食い放題のレストランに連れて来られた子供だ。
・・・また、訳のわからない喩えが頭の中に浮かんだが、そんな事を考えている場合じゃない。
スコルの姿が大きな白い狼に変わる。
メデューサはその姿は初めて見たのでビックリしている。
・・・というかメデューサは恐怖で萎縮しているんだろう。
第一形態、人の格好のままでビクビクと縮こまっている。
オークを目の前にすると女性であれば、これが普通なんだろうか?
スコルだって女性な訳だから全員がそれに当てはまる訳じゃないとは思うが。
オークが一瞬たじろぐ。
「ブホッ!ブホッ!」オークのリーダーらしき個体が全体に何か指示を出している。
『多勢に無勢だ!
一気に攻めるぞ!』と言ったのかも知れない。
「ねえ?
コイツら食べちゃって良い?」とスコル。
「別に良いけど?」
「やったー!」スコルはオークに飛びかかる。
バカ!
私とメデューサを護らなくてどうする?
囲みの一ヶ所にスコルが飛びかかったので、残りのオークが私とメデューサに殺到する。
メデューサは腰が抜けてしまったのか、へたりこんでいて戦力にはならない。
私がなんとかするしかない!
私は爪を伸ばし、オークに応戦する。
メデューサが何故オークを怖れていたのかわかった。
オークがそんなに強い訳じゃない。
だが、オークには高い耐久力と防御力がある。
そしてオークにはモンスターとしては高い知能がある。
それがどういう意味か?
オークの倫理性は極めて低い。
倫理性が低くて知能が高いのだ。
どういう事か?
オークは仲間を盾、犠牲にするのだ。
メデューサは言っていた。
『一匹なら敵じゃない』と。
私は五匹のオークを切り刻んだ。
しかし五匹のオークは単なる盾だったのだ。
ヤツらは攻撃されているオークを一切助けようとはしない。
他のオークは私を取り押さえる事に全力を使うのだ。
オークは怪力だ。
しかし力は私の方がある。
でも片手を五匹のオークが全身を使って全力で押さえてしまったら両手は動かせない。
私は大樹に両手を開いた状態で押さえつけられた。
「ブヒヒヒヒヒ・・・」
オーク達が勝ちを確信して何か言っている。
『抵抗しても無駄だぜ?』ってところだろうか?
一匹のオークが私の頬をなめる。
鳥肌が全身に立つ。
考えて行動した訳じゃない。
足の爪が靴を突き破って伸びる。
押さえられている両腕ではなく、足の爪で周囲のオークを輪切りにする。
「何すんだ!
汚ねえな!
この豚共が!!!!」私は逆上して大声で吠えた。
その声を合図に四方からケルベロス達がオーク達に飛びかかる。
あとは一方的にケルベロス達がオーク達を狩っていく。
ふと辺りを見ると、メデューサがへたりこんで乱れた着衣を整えている。
あと一歩遅かったら色んな意味でオークに襲われていたようだ。
「遅いよ!
何で助けてくれないの!?」私はスコルとケルベロス達に言う。
「囮になってくれたんでしょ?
合図をもらったら一気に飛びかかるつもりだってケルベロス達は言ってるよ。
現にお姉ちゃんが叫んだらケルベロス達はオークに飛びかかったし」
「え?
じゃあ、ケルベロス達がなかなか出てこなかったのって、私の合図を待ってたから?」
「そうだよ。
『全然合図くれないから出番ないかも、って思った』って言ってるよ」
「つまり私が純潔を散らしそうになったのは、アンタの合図が遅かったせいなのね!」とメデューサ。
「何て言うか・・・。
ごめんなさい?」
「謝ってすむかぁ!」
森にメデューサの叫びがこだまする。
何にしてもしばらくケルベロス達の食事には困らなそうだ。