天敵
しかし女の子だけで洞窟を掘るなんて途方もない作業だ。
約束したんだからやらなきゃいけないが。
「穴掘りはホビットに任せたら?」とメデューサ。
「ホビットってあのホビット?」
ホビットって白雪姫でダイヤモンド掘ってた七人の小人だ。
また訳わからん記憶が頭に浮かんだ。
「アニーはホビットを知ってるの!?」
「いや、知らないはずなんだけど・・・」
「何か思い出した?」
「思い出せそうなんだけど、思い出せない・・・」
「思い出せないのはしょうがないわよ。
・・・で、そのホビットだけど頼めば洞窟掘ってくれるわよ」
「でもホビットに払うお金が多分足りないと思う」
『無い』とは言わない。
ゴブリン達に襲われた商隊から拝借した白金貨、金貨、銀貨、銅貨がある。
ただ、その価値がわからない。
豪邸が買えるだけの金があるかも知れないし、『うまい棒』一本買えないかも知れない。
・・・私は貨幣価値を知らないんだ。
そして頭を浮かんだ『うまい棒』『やおきん』という単語の意味はなんだろう?
「ホビットはお金は取らないわよ。
この洞窟を掘ったのはホビットだから。
『掘って良い』と言えば喜んで洞窟をいくつも掘るわよ」
「何を根拠に?」
「ホビットに『ここで掘るな』って言ってるのよ。
夜中やかましいし、山肌を穴ぽこまみれにされたら今住んでる洞窟の強度が下がっちゃって怖いからね。
『掘れ』って言えばホビットは喜んで掘るわよ!」
「どこにホビットっているの?」
「問題はそれなのよ・・・。
ホビットの集落はここから龍の方角に1時間ほど歩いた所にあるわ」
「ドラゴン!?北?東?西?南?どっち?」
「何を言ってるの?
今の季節なら第二月が沈む方角よ」
「第二月と第一月って軌道違うの!?
そのうちぶつかっちゃったりしない!?」
「違う高さの軌道を通ってるんだからぶつかる訳ないでしょ?
第一月と第二月が重なって見える事は年に数回あるわよ。
でもぶつかる事なんてないわよ」
そりゃそうか。
でも普通天体なんて同じ方角に動いて見えるもんだ。
惑星が違う軌道を描くなんて事あるのか?
アルテミスとセレーネがぶつからないだけで、他の天体とはぶつかるんじゃないか?
いや、星の事は良く知らんが。
そもそもこの世界には『天動説』も『地動説』もなさそうだ。
もう、時々自分が訳がわからない事を考えるのを不思議に思わない。
それは私が記憶を失う前の知識なのだ。
「とにかく近くにホビットの集落があるんだね?」
「ホビットの集落は確かにあるわ。
交流もあった。
関係も良好だった。
でもそれは過去の話。
今は交流は断絶しているわ」
「仲違いしたの?」
「ううん。
行き来が出来なくなったのよ。
集落との間にオークが住み着いたのよ」
「オーク?
メデューサはオークが苦手なの?」
「オークが得意な女がいると思う?」
「オークって女の天敵なんだね。
メデューサならオークなんて敵じゃないって思ったけど」
「一匹なら敵じゃないわよ。
でもオークは必ず群れで戦闘を行うわ。
それにオークの戦法と私の魔眼は相性最悪なのよ。
私は私と目があった敵を石に変えられる。
でも囲まれたり、死角から攻められたりされた場合、私達はとことん弱い。
つまりオークは私達の弱点を意識せずについている生き物なのよ。
私が洞窟に籠っているのは『対オーク』を睨んでの事なのよ。
洞窟を背にすれば、死角から攻められる事はないって」
「なるほど。
オークは女の敵、ゴルゴーンの天敵・・・という訳だね。
でも、そうしたら私がホビットの集落に行くのは難しいかな?」
「いいえ。
豚の天敵って知ってる?
狼よ。
アニーは狼のボスなんでしょ?」
そうか。
メデューサは天敵を私に駆除して欲しいんだ。
「それに狼達だって、そろそろ食事したいんじゃない?
豚狩りは狼の食事確保のためにもしなきゃいけない事だと思うわ」
私一人の食事ならなんとかなる。
森で取れる木の実や、少しであれば商隊が持っていた手付かずの携帯食もある。
それらを食べれば3日は食い繋げる。
しかし、それは私とスコルだけならば、である。
私にはケルベロスの群れに食事を与える義務がある。
私の住居問題、ケルベロスの食事問題を一気に解消するならオーク退治をしない理由がない。
「わかった。
オーク退治をしよう!
けど、そのオークの巣に案内してくれないかな?」と私はメデューサに頼む。
「わかったわ!
私について来て!」
うたたしているスコルを起こす。
「寝てるところごめんね。
今からオーク退治に出発するんだ。
ケルベロス達の食事を狩りに行くんだよ。
ケルベロス達に説明してくれないかな?」
「ズルい!
私もオーク肉食べたい!
私も行く!」とスコル。
私もオーク肉って食べれるのかな?
美味しいのかな?