名前
「ねぇスコル、石化って治せるの?」
「確か『万能薬』が石化だけじゃなくてほとんどのステータス異常を治せるはずだよ。
それがどうしたの?」
「いや、商人達の持ち物に『万能薬』ってラベルの薬があったなーって」
「もしかして、メデューサを治療するの!?」
「だってこの娘、何も悪くないんだもん。
普通に洞窟で生活してたらいきなり石ぶつけられて・・・」
「そうは言うけど、メデューサは怒らせたら本当に質悪いよ?」
「でも怒らせたの私だし。
ちゃんと手足縛って目隠しするからさ」
「そこまで言うなら・・・」
私は石化したメデューサに布で目隠しして万能薬をふりかけた。
石がパキパキとひび割れて割れた下から地肌がのぞく。
まるで卵の殻を破って雛が産まれてくるみたいだ。
目隠しをされて手足を縛られているメデューサが言う。
「状況が飲み込めないんだけど、説明してもらえるかしら?」
「いや、ウチの群れの狼達が君を敵と見なしちゃってねー。
もう、闘う気満々で収まりがつかなくなっちゃったんだ。
だから群れのボスである私が敵である君に勝負を仕掛けたって訳」
「『って訳』じゃないわよ!
いきなり石を頭にぶつけられる方の身になりなさいよ!」
「だから勝負の最中にも謝ったじゃん。
『正直すまんかった!』って」
「アレって私に向けて言ったの!?
分かりにくすぎる・・・。
・・・で、何で私の家に来たの?」
「君の家だとは知らなかったから。
今夜夜営が出来るところを探してたんだよ。
そうしたら君が住んでてケルベロス達が戦闘モードに入っちゃった。
・・・で、モノは相談なんだけど」
「な、何よ?」
「今日からこの洞窟に私達も住んで良い?」
「良い訳ないでしょ!?
だいたいアンタ達、多すぎるのよ!
ケルベロスだけで何匹いるのよ!?」
「じゃあ山肌に洞窟をもう1つつくるから!
いつまでも今の洞窟に居候しないから!」
「それならまあ・・・」
これが『山麓村』が出来るきっかけだ。
「名前は何て言うの?」と私。
「人に聞く前に自分の名前を名乗りなさいよ!」とメデューサ。
「私の名前、ねえ。
私は記憶がないから自分の名前を覚えてないんだよね。
君、私に名前をつけてくれないかな?」
「そんな大事な事を私が決めてしまって良いの?」
「一緒にいる子は私の事を『お姉ちゃん』って呼ぶし、ケルベロス達は私の名前を呼ばないし、今まで名前なんて必要なかったんだよ。
でも名前で呼んでくれるなら君が私の名前を付けてよ」
「私は貴方に負けたのよ?
そんな私に名前を付けられて良いの?」
「本当の事を言ったら勝ちは結果オーライなんだよね」
「結果オーライ?」
「本当は鏡は君を直接見ないように設置した物なんだよ」
神話の英雄ペルセウスは黄金の盾で直接メデューサを見ないようにして、メデューサの首を切り落とす。
それを真似てメデューサを倒そうとした。
まさかメデューサが鏡の中の自分に"石化の魔眼"を使うとは思わなかった。
『ラッキーだった。
アンタのアホさに助けられた』なんて本音は決して言わない。
言っちゃったら今夜泊めさせてもらえないし。
「何か失礼な事を考えてない?」
「いえ、滅相もございません」
「何か釈然としないけど・・・本当なら負けた私は生きてるだけでも感謝しなきゃいけない立場なんだし、わかったわ。
必ず住居は自分達で作りなさいよ!」
「ありがとうございます、大屋様!」
「『オオヤ』?
何それ?」
「何だろう?
今、頭にふと浮かんだんだよ」
「?
変なの
でもよく闘いに鏡を使う事を思い付いたわね」
「本で読んだんだよ。
神話の英雄ペルセウスは黄金の盾で直接メデューサを見ないようにして、メデューサを倒したって」
「『ホン』?
何それ?」
まただ。
また通じない知識だ。
しかもそれをどこで学んだ知識か私自身も覚えていない。
「じゃあそのメデューサを倒した英雄の名前を名乗ったら?」
「うーん。
『ペルセウス』って男の人の名前なんだよね」
「そうか。
じゃあその『ペルセウス』の奥さんの名前だったら?」
「『アンドロメダ』か。
でも確か、ハリー・ポッターに出てくる『アンドロメダ』って女の人、愛称『ドロメダ』なんだよね。
あんまり良い愛称じゃないなー」
「何その『はりーぽったー』って?」
「何だっけ?」
時々自分でも意味不明な事を口走る。
「じゃあ貴女の名前は『アンドロメダ』、愛称は『アニー』ね!
よろしくアニー!」
「素敵な名前をありがとう!
これから私は『アニー』って名乗るよ。
それで貴女の名前を教えて欲しいな?」と私。
「貴女の言っている意味がよくわからないわ。
貴女、私の名前を何度も呼んでいるじゃない。
『メデューサ』って」
「メデューサって名前だったの!?」
「知らずに呼んでたの?」
「種族の名前かと・・・」
「種族の名前は『ゴルゴーン』よ。
ゴルゴーン三姉妹の三女『メデューサ』よ」
「それは大変失礼しました・・・」
メデューサは変化する。
それは実際に見た。
でもメデューサの変化には『第一形態』『第二形態』『第三形態』がある事を知った。
まず『第三形態』から説明する。
髪の毛が蛇、下半身が蛇の形態だ。
次に『第二形態』髪の毛だけが蛇、下半身は人といった形態だ。
最後に『第一形態』、髪の毛も人と変わらず"魔眼"は使えない。
ゴルゴーンが擬態して、人に混じって生活する時の形態らしい。
メデューサは温厚で、人に害を与える気は全くないらしい。
私は全く無害のメデューサに後ろから石をぶつけたらしい。
最悪の悪党だ。