蛇
ケルベロスを仲間にした事で一気に大所帯になった。
そしてケルベロス達は森の地理に精通しているらしい。
「このまま森を突き進むと山肌があるんだって。
そこに洞窟があるらしいよ」とスコル。
ケルベロスと会話出来るのは助かりまくる。
じゃあそこを目指そう。
それはそうとケルベロスが炎を吐いた時、頭の中で『スキル"火炎放射"をラーニングしました』という声が頭の中で響いた。
あの声聞き覚えがあるような、ないような。
訳がわからない。
でもスコルには聞こえていなかったみたいだし。
考えてもしょうがない。
ラーニングしたなら、使えるはずだ。
火は必要になる時も多いだろうし、今後試してみる機会もあるに違いない。
今はとにかく洞窟を目指そう。
「喉が乾いた」
飲料水は商隊が少しだけ持っていた。
だが歩いていてすぐになくなってしまった。
「スコル、ここら辺に川とかわき水とかないかケルベロスに聞いてよ」
「少し歩かないとないって。
わき水の場所があるにはあるらしいけど・・・」
「そこに行けば良いじゃん」
「今、行ってる目的地の真逆だって。
どうする?」
「"どうする?"って言われても・・・。
そうだ、ケルベロスはどうやって水分補給してるの?」
「聞いてみるね。
・・・う~ん、何て説明すれば良いやら。
見てもらった方が早いかも」
スコルが一匹のケルベロスを私の前に連れて来た。
すると、ケルベロスの左の首が吹雪を吐いた。
すると空気中の水蒸気が凍ったのかゴロゴロと氷が地面に散らばっている。
「ケルベロスはこの氷をなめて水分補給をしているみたい」とスコル。
水分が手に入るなら敢えてわき水を目指して反対方向に進む必要はないな。
『スキル"ブリザード"をラーニングしました』まただ。
また聞き覚えがある声が頭の中で響いた。
丁度良い。
喉も乾いていたところだ。
私は掌の上に冷気を集めるイメージをした。
すると掌の上に氷が浮かんだ。
理解した。
よくわからないが私には『見たスキルをラーニングするチート能力』があるんだ。
頭の中で『貴方にはチート能力を与えます』と言った声が思い出される。
誰の声だ?
チート能力って何だ?
この声、ラーニングした時の声に似てないか?
驚いた顔でスコルが私を見ている。
私は生み出した氷をスコルにあげる。
「ありがとう!」少し間をおいてスコルは氷を受け取って笑顔で私に言った。
どうやら『そういうモノだ』と強引に納得したらしい。
ケルベロス達の案内で山肌が見えて来た。
あそこに洞窟があるのか。
「待って!」とスコル。
ケルベロス達も唸り声を上げている。
洞窟には何かが住み着いているらしい。
さすがに狼達は鼻が良い。
しかしケルベロス達をここまで警戒させるモンスターって何だろうか?
ここまでモンスターに出会わなかった訳じゃない。
近くにいたモンスター達はケルベロスの群れの気配を感じて逃げだしていた、とスコルは言っていた。
つまり洞窟にいるのはケルベロスの気配を感じても逃げ出さないモンスターで、ケルベロス達が警戒するモンスターだ。
「近寄らない方が良いかな?」と私はスコルに聞く。
「そう判断するならもう少し早く判断した方が良かったね。
もうお互いがお互いの気配に気付いて、間合いをはかっているよ。
ここで引いたら『逃げ出した』という事になる。
自然界じゃその格付けは命よりも重いんだ。
もうケルベロスはやる気満々だよ!
ここで『逃げ出す』っていう選択肢は最早存在しないよ!」
ひー!
もう敵がいると知りつつ洞窟に行くしかないらしい。
遠巻きに洞窟が見える位置に来た。
敵になるモンスターが洞窟の入り口にいる。
何だ、そんなに大きくないじゃん。
あんなのケルベロスで囲めば大丈夫じゃないの?
「ジッと見ちゃダメ!
目が合ったら石にされるらしいよ!」とスコル。
「それってケルベロスが言ってるの?」
「そう」
「何て言ってるの?」
「蛇の化身で髪の毛が蛇で・・・」
「メデューサか」
「知ってるの!?」
「見るのは初めて。
でも倒し方も何故か知ってる」
「どうやって倒すの?」
「・・・確か商隊は貴族相手に売る物を揃えてたよね?
アイテムボックスもそうだし、鏡も超高級品のはずだ。
その超高級品の鏡が沢山アイテムボックスの中に入っているはずだ。
その鏡をヤツの目のつくところに設置しまくって欲しい。
スコル、出来る?」
「うん、やってみる」
「じゃあ、私はメデューサを挑発して逃げまくるからね!
その間に洞窟の周りに鏡を設置しまくって!」
「わかった!
気をつけてね!」
「スコルもね!」
何故メデューサの倒し方を知ってるのだろう?
自分でもよくわからない。
とにかくメデューサを挑発せねば。
私はメデューサに近寄る。
メデューサは私に気付いていないようだ。
私の足音を消して、気配を消す猫人族特有の性質はメデューサとは相性が良いらしい。
メデューサはケルベロスの気配は敏感に察知したようだが。メデューサは神話通り髪の毛は蛇だが下半身は蛇ではない。
見たところ普通の女性と大差ない。
これなら逃げ回れそうだ。
私はメデューサの頭目掛けて石を投げつけた。
「痛っ!」
えっ!?
言葉喋るの?
「ちょっと!
痛いわね!
アンタ待ちなさいよ!」
完全に予想外だ。
これじゃあ完全に私が悪者だ。
しかし待てと言われて待つ訳にはいかない。
私はメデューサと追い駆けっこを始めた。
視界の隅でスコルが動き始めたのを確認する。
私は森の中を華麗に逃げ回る・・・つもりだった。
だが、足場の悪い森の中はメデューサのホームグラウンドだった。
「メデューサを下半身は蛇じゃない」と先程言ったがそれは間違いだった。
メデューサは下半身を蛇に化身出来るのだ。
足場の悪い細い森の中をスルスルと通り抜ける。
これは広いところに出ないと不利だ。
でも森の中に広いところなんてあるのか?
しかも下半身が蛇に化身したメデューサは無茶苦茶怪力だ。
邪魔になる倒木を尻尾で掴んではこちらへ投げて来る。
「危ないよ!
当たったらどうすんの!?」と私。
「当てようとしてるのよ!
『止まりなさい!』って言ってるでしょう!?」
「止まれと言われて止まる逃亡者がいる訳ないじゃん!」
私はメデューサを挑発しながら逃げ回るがもう追い付かれそうだ。
スコル!頼む!早くしてくれ!
「お姉ちゃん!
設置終わったよ!」洞窟の方からスコルの声が
聞こえる。
「正直すまんかった!」
私は謝るとスルスルと森の針葉樹に登った。
メデューサも木登りは苦手じゃないらしく私を追いかけて木を登ってきた。
私はそれを確認すると、木から木へ飛び移り逃げ出した。
『蛇は木登りが苦手じゃない。
でも木から木に飛び移って逃げる相手を追い詰める事は出来ない』これ何を見て何で学んだんだっけ?
「全くあの娘なんなのよ!」メデューサが憤慨しながら棲み家の洞窟へ戻って行く。
洞窟の周りがキラキラ輝いている。
どうやら敵がいるらしい。
メデューサは"魔眼"をセットして洞窟に近付く。
"魔眼"とは自分の目を見た者を石に変える呪いだ。
一気に距離を詰めてそのキラキラしている"モノ"に魔眼を向ける。
そのキラキラしている物の正体は全身鏡、鏡に写った自分自身だった。
「し、しまった!」メデューサが焦った時にはもう遅い。
メデューサの身体はパリパリと石化した。