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マタタビ戦記  作者: 海星
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 そもそも何で森の中を一人で彷徨ってたんだろう?

 「お姉ちゃんは記憶がないの?」

 「うん」

 「全く?」

 「どこか遠いところから来たのはなんとなく覚えてる。

 でもどこから来たのかは思い出せない。

 記憶にモヤがかかってる。

 まあ、私の事は良いや。

 君の事を聞きたいな?」

 「私はスコル。

 何処から来たかは『言っちゃダメ』って言われてる」

 「スコル、フェンリルの子供、太陽を喰らおうとする狼・・・」

 「お姉ちゃんはパパを知ってるの!?

 何で(スコル)の事を知ってるの!?」

 「わからない。

 ただ君の事は本で読んで知っている。

 北欧神話で・・・」

 「本?北欧神話?

 何それ?」

 「ここに本はないの?」

 「人の集落にはその『本』ってモノがあるかも知れない。

 でもスコルは知らない。

 お姉ちゃんがいたところにはその『本』があったの?

 その『ホクオーシンワ』にはパパやスコルの事が書かれてるの?」

 「・・・わからない・・・。

 興味があるの?」

 「誰にも言っちゃダメな話が何で何処かに伝わってるのかが知りたい。

 『存在を知られたらタダじゃ済まない』ってママも言ってた」

 「スコルの母親、"鉄の森の巨人"・・・」

 「ママの事も知ってる!?

 どこで!?」

 「思い出せない・・・」

 記憶が断片的だ。

 「私の残っている記憶と君の言う事を総合して推測すると、君は"秘密"がバレて拐われた。

 そして売り払われる最中にゴブリンに襲われた」

 「多分そう」

 「心配しないで良い。

 私から君の情報が漏れる事は絶対にないから。

 というか他の人なんて全く知らないから。

 私の知ってる場所はこの森だけだし」

 彼女がスコルだとすると狼人族じゃない可能性が高い。

 スコルが本当にフェンリルの娘だとすると、彼女は半神ロキの孫娘、つまり神の血を引く者だ。

 ・・・何故、私はこんな知識を知ってるのだろう?

 それはともかく、アイテムボックスと言いスコルと言い、扱う商品が半端じゃない。

 商隊は真っ当な物を扱っていたんじゃないらしい。


 「それはともかく寝床を探そうよ。

 わからない事をウジウジ考えていても事態は好転しないよ!」

 「う、うん」

 同行するかどうかスコルは悩んでいるようだが、どさくさ紛れで同行を決めてしまおう。

 子供を一人で森の中に置いておけないし、そして何より私が一人じゃ寂しいし。


 手をつないで森の中をスコルと歩く。

 子供の脚力と思っていたが、かなりの健脚らしい、獣人の子供だからなのか?

 いや、神話の通りなら獣人じゃなくて"神の子供"か。

 待てよ?

 神話に登場するって事は一体スコルは何歳なんだ?

 それとも"この世界"では神話の話が繰り返されているのか?

 ・・・今、私は何を考えていた?

 "この世界"って事は、私は別の世界から来たのか?

 神話って何だ?

 「お姉ちゃん、どうしたの?」

 考え事をする私の顔をスコルが心配そうに覗き込む。

 「ううん、何でもないよ」

 私はスコルの頭を撫でながら言う。

 「良かった。

 私の話、聞いてないみたいだったから」

 「ごめん、聞いてなかったよ。

 考え事してた」

 「じゃあもう一度言うね。

 大した話じゃないけど。

 今、多分狼の群れに囲まれてるよ」

 「囲まれてる!?

 大したことあるよ!」

 「そう?

 スコルだって狼だよ?」

 そうだった。

 私が同じ仲間、人混みの中にいて『ピンチだ』と感じる事がないようにスコルは狼の群れに囲まれていて『ピンチだ』と感じる事はないらしい。

 「ど、どうしよう?」私が狼狽える。

 「スコルが狼のボスと話をしようか?」

 「そんな事が出来るの?」

 「わかんないよ。

 話の出来る狼もいるし、話の通じない狼もいるし」

 そりゃそうか。

 『話の通じる人もいれば、話の通じない人もいる』それだけの話だ。

 「スコルが危険なら・・・」

 「話をしないのが一番危険だよ。

 今にも襲いかかってきそう」

 「話出来るの?」

 「出来る狼もいれば出来ない狼もいる。

 試みなくちゃわかんない」

 「出来なかったら?」

 「先手必勝」

 「穏便にね!」


 ほどなく狼の群れが私とスコルを取り囲む。

 狼は巨大で小型の熊ほどの大きさがある。

 そして首が二つある。

 スコルの話では「ケルベロスだ」との事。

 ケルベロスは『地獄の番犬』、犬じゃないのか?と思ったが、その知識さえ私がどこで仕入れてきたのか覚えていない。 

 スコルは白く巨大な狼へと姿を変える。

 恐怖などはない、ただ『美しい』と感じた。

 一番身体の大きなケルベロスにスコルは近付いて行く。

 近くに歩いてきたスコルに対して、ボスケルベロスの右の首は炎を吐きかける。

 スコルは何事もなかったように炎を吐きかけられながらもボスケルベロスに近寄る。

 スコルはボスケルベロスに噛み付き、頭を振ると近くの大樹にボスケルベロスを叩きつけた。

 ボスケルベロスがキャインキャインと子犬のような鳴き声を上げた後、お腹を見せて服従のポーズを見せる。


 スコルが少女の姿に戻り私のところへ帰ってくる。

 「話し合ってきたよ」とスコル。

 嘘つけ、エラい肉体言語じゃないか!

 「で、何だって?」

 「群れでまるごとスコルに従うって」

 「じゃあスコルがケルベロスの群れのボス!?」

 「ううん、違うよ?

 スコルのボスはお姉ちゃんだって話したら、お姉ちゃんが群れのボスになったみたい」

 "みたい"じゃないよ!

 私は何時の間にか、狼の群れのボスになったようだ。

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