合格者
第七話 合格者
時計の針が刻々と進む。時計の長身は45分を示していた。6人は依然としてその場に立つ。
「後十五分、」
リンの言葉にドリー、ライゼン、ジョージは唾を飲む。そんな中先陣を切ったのはユタだった。
「何悩むことあんの?ここの全員ってのは無理かもだけど、」
ユタはジョージ、ドリーを見る。
「俺たちなら余裕でしょ。仕組みに気づいちゃってるわけだしさ」
「その通りだ。これは制限時間という心理を削る行動。その中でも冷静に分析できるかの試験だろう」
「なるほど!」
ドリーとジョージが手を叩く。するとユタは足を進めた。
「じゃ俺は先行くからここ突破できたらまた会おうぜ!」
「うん!またな!」
リンがユタの背中に手を振る。ユタは振り返らずに手を振り返す。そして、トントンと独特なステップを踏むとその場から姿を消した。
「さて、俺たちどうしようか?」
「俺は次の停滞時間の長いタイミングの時に行くつもりだ」
ライゼンは言葉を発すると位置へと向かう。するとリンが頭を抱えた。
「どうしようかな?」
「何がだ?」
ドリーが顔を覗き込む。
「目で追えてないジョージとドリーはどっちにしても停滞時間が長い場所じゃないとタッチできないと思うんだよ。だけどその停滞時間の長い場所は後一つしかない」
「お前が譲れよ、」
「あぁ?」
ジョージの言葉を発端に2人が揉め始めた。リンは目を瞑りシミュレーションを組み立てる。
「お前はバカだ、俺に譲れ!」
「んだその理由!お前だってバカだろ!」
2人の喧嘩は激しさを増していく。ドリーがジョージの胸ぐらを掴んだ時、ウィックが口を開いた。
「みんな、思ったよりも時間ないみたいだよ?」
ウィックは周囲を見渡すよう促す。3人が周囲を見渡すと大量の撒菱が足元に散らばっていた。
「なんだこりゃ⁉︎」
3人が驚くよそにウィックは1人の男を指差す。
「あの人が巻いて回ってた。それに地面の感じからして何個か地雷も埋まってるよ」
指さすし先に立っていたのはオオモリだった。
「あのやろー!」
ドリーが拳を握る。ジョージは顎に手を置くとニヤリと笑った。
「遂に奴がトラッパーと呼ばれる所以がわかったな」
リンはジョージを見る。
「なんで嬉しそうなの?」
「そりゃおめぇ、新しい知識を手に入れた時ってのは上がるもんだろ?」
「でも、ピンチになってるんだよ?」
「あ、そうか!」
「だから、おめぇはバカなんだよ」
「なんだと!」
ドリーの言葉に再び2人は喧嘩を始めた。するとウィックがリンに話を持ちかけた。
「一分後、0.1、その次十秒後、0.05、その次二十秒後、1、その次五秒後0.5の順でラストかも」
「なんで?」
リンの言葉にウィックが時計を指さす。時計の針はいつの間にか50分を指していた。そして、周りの人数も当然少なくなっている。
「よし!じゃあドリー、ジョージ、二人は二人で決めて!俺たちは一分後と一分十秒後に行く。二つ目の音がなったら二十秒と二十五秒数えて!」
ドリーとジョージは場所を確認すると親指を立てた。
「それじゃ健闘を祈るぜ!」
リンとウィック地雷や撒菱を避けながら2つの地点の中央に来た。
「僕が二回目の方で良いよ」
ウィックが口角を上げる。
「二回目の方がきついよ?」
「秘策あるからさ」
「秘策?」
ウィックは大きく笑うと2つ目の地点へとついた。リンも同様に着く。2人の様子が気になり振り返るが2人は3つ目の地点で喧嘩をしていた。リンは再び正面を向くと大きく深呼吸する。そして、数を数え始めた。
一方ドリーとジョージの2人組は相変わらずの言い合いを続けていた。
「お前が四番に行けよ!」
「お前が四番にふさわしい!」
「もう時間ねぇんだぞ?お互い不合格になるよりお前が生き残る確率が少しでもある方に賭けろよな!」
「そう思うならドリー、お前が四番目に行けよ!」
お互い、手は出さないものの睨みをきかせる。時間のなさが罵り合いのペースをどんどんを上げる。そして遂にお互いの息切れで終止符が打たれた。
「ハァハァ 思ったよりもやるじゃねぇか、、なんかちょっとスッキリしてきたわ」
「ハァハァ お互い様だぜ」
ドリーとジョージが手を取り合う。
「それじゃあ、ジャンケンで決めよう。負けた方は潔く譲る」
「よし乗った!」
「最初はグーーー」
2人の息がぴたりと合う。
「ジャン ケン ポン!!!」
2人は相手の手を見る。拳を高く突き上げたのはドリーだった。
「グーかよ、、」
ジョージは自分の手を見るとドリーの肩を叩く。
「お前の勝ちだ」
ドリーはその場に立つ。ジョージもその場に立つ。ドリーは自分の左側を見る。ジョージは真剣な表情でそこに立ち続けた。
「いや、ちょっと待て!三番は俺に譲れよ!」
「譲ってるだろ?」
ジョージは眉を顰める。
「何処がだよ!お前いるじゃねぇーか!」
「だから、左側譲ってやったろ?」
「は?」
「試験官は右手を上げてた。だから、お前も右手なら左側が完璧だろ?」
「なるほど、、、じゃねぇーよ!お前はさっさと四番に行けよ!」
「それは無理だ!」
ジョージの自信満々な態度にドリーは一瞬戸惑う。
「な、なんでだよ」
「今の時間じゃ100%あそこにはいけない」
「いけない距離じゃねぇだろ?一直線だしよ?」
「一直線で行ければな、」
ジョージは下を指差す。視線を落とすと地面には撒菱とあからさまな地雷が敷き詰められていた。
「一直線ならいけない距離じゃない。だが、これを交わしていくとなると大きく蛇行することになる。それじゃあ間に合わない。ドリー、俺も合格する確率を上げる為、ここに居る」
ジョージのまっすぐな視線にドリーは口角を上げた。
「一緒に合格するぞ!」
2人は2回の音の後ゆっくりと数え始める。辛うじて視界で追えるジョージは目で追いながら、ドリーは目を瞑って数を数えた。
「1.2.3.」
ドリーが声に出して先行する。ジョージは体内時計で測っていく。ドリーが15秒をカウントした時ジョージとのカウントと差異が生まれ始めた。『俺のカウント二十で100%くる。今のドリーのカウントじゃ十八の時にきちまうぞ!』
強い衝撃と共にドリーは目を開ける。そこにはカスの正面に倒れ込むドリーとカスの背後に倒れ込むジョージの姿があった。