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お互いの改善点

昨日はあの後無事に矢田義を送り届けることが出来た。

驚いたことに矢田義と俺の家はそんなに離れていなかった。

歩いて10分、20分程度で着く所だった。



別れる際、明日もあの書店の前で会おうという約束をした。

今日からあと1週間で夏休みが終わる。

その時までに俺たちは変わらなければならない。



1週間という期間。

それはかなり短い。

短いからと言って諦めるわけにはいけない。

俺たちはもう決意したのだから。



「そろそろいい時間だな」


スマートフォンのディスプレイを見ると時刻は11時30分を表していた。

矢田義と合う時間は12時なので、そろそろ家を出ればいい時間だろう。



まだ蝉がうるさい中書店に向かう。

そろそろ夏休みが終わるということでいつもより人が多いような気がする。

若干額に汗を浮かべながら歩みを進める。



歩き続けること数十分。

ようやく書店が見えてきた。


「やっとついた」


太陽の光と熱に体力を奪われながらようやくの思いで書店についた。


「あ、須羅浜君。こんにちは」


そこにはもう矢田義がいた。


「早いな。集合時間はもう少し後だと思うんだが」


俺は時間に余裕をもって家を出たはずだ。

実際にポケットからスマートフォンを取り出して時間を確認しても、まだ11時45分だった。


「あ、はい。でも須羅浜君を待たせては悪いと思いまして・・・」


素晴らしい気遣いだ。

素直にそう思う。



それから少しだけ息を整えてから矢田義に話しかける。


「それじゃあ、またあのファミレスにでも行くか」


そう言って歩きだそうとすると矢田義に止められた。


「須羅浜君」


「ん?どうした?」


「・・・女の子と2人きりで出かける時、最初に言うことがあるんじゃないですか?」


「えっ」


そんなことを言われても全く分からない。

矢田義だけではなくて女の子全般だと?


「・・・悪い、わからない」


「須羅浜君、彼女さんに復讐したいと言うのならそこら辺もきちんとしていなければいけません」


「はい」


あれ?もしかして矢田義ってスパルタ?


「それで、本当に分からないんですか?」


もう一度矢田義が問いかけてくる。


「・・・すいません。本当にわからないです」


なぜか敬語になりながらそう伝える。


「いいですか須羅浜君。待ち合わせをしているような女の子と会ったらまず服を褒めてあげましょう」


「服?なんでそんなこと・・・」


「須羅浜君?」


「な、なんでもないです」


なぜか今の矢田義には逆らってはいけないような気がした。



改めて矢田義の今日の服装を見る。

矢田義が着ていたのは白Tシャツとカラーパンツに肩掛けカバンというかなりシンプルな服装だが、涼しげな雰囲気で・・・なんか、良い。

あれ?これ服装はちゃんとしてね?

ほんとに後は髪の毛とかそんなちょっとしたことだけじゃね?

後は・・・姿勢だな。


「涼しげでいいな」


我ながら語彙力が無いなと思ってしまうような言葉。


「まぁ、いいでしょう。いいですか須羅浜君。褒める内容はさほど大切ではありません」


「え?そうなのか?じゃあなんで・・・」


「女の子は自分に関心を抱いて欲しいんです。だから服装のことを言われると嬉しくなるんです」


「そういうもんなのか・・・」


「そういうものなのです」


そう言われて少し思い返してみる。

確かに俺は今まで雪菜の服装を褒めたりしたこと無かったな・・・


「ありがとう矢田義。勉強になる」


「いえいえ、では行きましょうか」


そう言って俺と矢田義は歩き出した。

流石に車道側を歩いた。

そこまで分からない俺ではないのだ。



歩くこと数分、例のファミレスの中に俺たちは居た。


「よし 、矢田義次は俺が指摘する番だ」


「はい!お願いします」


矢田義は姿勢を正して返事をした。


「服装は言うことがないと思う。後は喋る時の視線と普段の姿勢それと髪の毛だな」


「そんなにあるんですか?!」


何を驚いているのだろう。

むしろこんなの少ない方だろう。

基準は無いが。


「まず話す時の目線。矢田義、お前いつも人と話す時どこ見て話してる?」


「ど、どこって・・・ちゃんと目を見て話してるに決まって・・・」


「見れてないぞ」


「えぇ!!」


自分では見れてると思ってたんだな・・・


「常に視線がキョロキョロしてる。見ようとしているのは分かるが目が合っても直ぐに逸らしている」


「それって本当ですか?」


疑うようにそう聞いてくる。


「あぁ、本当だぞ」


「ほんとの本当に?」


「ほんとの本当にだ」


そう言うと矢田義は分かりやすく肩を落とした。


「私、自分では人と話している時ちゃんと目を見れていると思ってたんです。それなのに全然見れてなかったんですね」


ふふふ、と少し不気味な笑い方をしながら矢田義が黒いオーラを発している。


「お、落ち着け。まずは相手の目を見る練習をするか」


「練習って、どんなことするんですか?」


そう言ってきた矢田義の目を真っ直ぐ見つめる。

すると矢田義は目線をキョロキョロとさせ始めた。


「矢田義。俺の目を見ろ」


「う、うぅ」


俺がそう言うと矢田義は恥ずかしそうに俺と目を合わせてきた。


「・・・」


「・・・」


「・・・は、恥ずかしいです・・・」


矢田義は顔を真っ赤にして頭から煙を上げながら机に突っ伏してしまった。


「ま、練習だな」


「うぅ、本当にできるようになるでしょうか・・・」


「出来るようになるのか?じゃなくて出来るようになるんだ」


「厳しいです・・・」


「そんなこと言ってられないぞ?次は姿勢だ」


「姿勢・・・」


「そう、姿勢だ。矢田義は常に猫背になってる。本を読むのが趣味だからか知らないがかなり背中が曲がってる」


「そんなに酷いんですか・・・」


やはりこれも気づいていなかったようだ。

だから俺が見たままの矢田義の姿を真似してみる。


「そんなに曲がってるんですか?!」


俺の姿勢を見て矢田義が驚愕している。

あまりのリアクションに苦笑いが浮かんでしまった。


「そうだ。だから今日から常に背中を伸ばして生活しろ」


「この体勢結構キツイです・・・」


いやそれ服がキツイんじゃない?

だって背中伸ばしたせいでおっぱいが強調されて・・・

えっちだぁ。


「つ、常にその状態だぞ」


「わかりました!」


やめろ!ちょっと跳ねるんじゃない!

おっぱいがめっちゃ揺れてるんだよ!


「さ、最後だが、その大きい黒縁メガネとボサボサの髪の毛だ」


「私、目が悪いのでメガネは必須なんです。髪の毛は・・・そんなに大切ですか?」


え?女子って髪の毛が大切なんじゃないの?


「お前、ちょっとズレてるな・・・」


「えぇ?」


なんで?みたいな顔しやがって・・・


「メガネはコンタクトに変えろ。それと髪の毛。結構男は見てるからな」


「そうだったんですね・・・」


矢田義は衝撃の事実!とでも言いたそうな顔をしている。


「分かったな?お前はそれを直せ」


「わかりました!では須羅浜君の改善点も挙げていきましょう」


「え、いや、俺は自分の意見を言えるようになれれば・・・」


それだけで良い、そう言いかけて矢田義に言葉を遮られた。


「須羅浜君。自分では気づいていないかもしれませんがあなたは結構自分の意見を言えています」


「え?そうなのか?」


「はい。私と会う前の須羅浜君はどうか知りませんが、私の見てきたあなたは結構自分の意見を言っています」


そうだったのか・・・

やはり自分では気づけないことは多いんだな。


「じゃあ他にどこを直せば・・・」


「それは、変化に気づくことです」


変化に気づく?


「その様子だと彼女さんの小さな変化に気づいていなかったんじゃないですか?」


思い返してみる。

・・・


「あれ?俺って雪菜のこと全然褒めてなくね?」


「やっぱり・・・ダメですよ?きちんと気づいてあげないと」


「う、これから気をつける」


「・・・そうですね。これから夏休みが終わるまでの1週間、毎日私と会いましょう。その時に私は少しだけ前日と違うところを作ります。須羅浜君はそれに気づいてください」


「そ、それは良いが毎日なんて良いのか?お前にも自分の時間が・・・」


「良いんです。だって私友達なんて居ないですし・・・」


俺はそっと目線を外した。


「そ、そういう訳ですから毎日会いましょう」


「あぁ、分かった。よろしく頼む」


「こちらこそお願いします」


そうして俺たちの計画が動き出した。

さぁ、ついに明日から2人が変化していく・・・!

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