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きっと

と、これが一週間前の出来事。

今度は買い物じゃなくて普通に遊びに行こうねと約束して別れた。

もちろん提案したのは雪菜だ。

だからせめて誘うくらいは自分からしようということで今日は少し子供っぽいかもしれないが雪菜を遊園地に誘ってみようかと思う。



雪菜はとても大人びて見えるが、性格はかなり子供っぽいところがある。

だから遊園地と聞けば飛びついてくるだろう。

そう思い俺はスマートフォンで雪菜に電話をかける。



数回のコール音の後に雪菜が通話に出た。


「もしもし、花登?どうしたの?」


何気に自分から誘うのは初めてではないだろうか?

少し緊張しながら俺は口を開いた。


「あ、あのさ、今日遊園地に遊びに行かないか?」


言えたぞ!

なんて喜んでいると雪菜から帰ってきた返事は予想外のものだった。


「あー・・・えっと、ごめんね!今日は外せない用事があって・・・」


それを聞いた瞬間がっかりとした気持ちが押し寄せてきたが、いきなり誘ったのは俺だ。

事前に予定が入っていてもおかしくないだろう。


「そう、か。急に誘って悪かったな」


出来るだけ明るくそう言った。

べ、別にショックなんて受けてないぞ?・・本当だよ?


「ううん、こっちこそごめんね!また違う日に行こ!」


「ああ」


そう言って俺たちは電話を終えた。



誘えなかったことに若干傷つきながらも俺は今日何をしようかと考えていた。

てっきり雪菜は遊園地に行くと即答するとばかり考えていたため、今日の予定は何も入っていなかった。


「・・・あ、そうだ。3日前に発売した小説の新刊まだ買ってなかったな」


俺は誰も居ない家で一人呟いて身支度を始めた。

今日は別に彼女とのデートという訳ではないのでかなりラフな格好だ。



半袖白色のシャツと黒色の長パンツ、それと肩からシンプルなデザインのショルダーバッグをかけている。

まぁ最低限これくらいはしておいた方が良いだろう。



ショルダーバッグの中に財布を詰めて家を出る。

玄関にしっかりと鍵をかけて書店に向けて歩みを進めだした。



やはり外はとてつもなく暑い。

容赦なく照りつける太陽の光が半袖のシャツから出た俺の腕を焼く。

うわぁ、これ絶対お風呂で痛いやつじゃん・・・

少し気分が滅入りながらも俺は書店を目指した。



その途中、俺は目を引かれる光景を目の当たりにした。

咄嗟にその人影を目で追う。

その人物は背の高いイケメン男子と隣合い笑いながら歩いていた。

それだけならお似合いなカップルだな、と思っていただけだったと思う。

でも、俺はその人影から目を離せなかった。

なぜながらその人物があまりにも雪菜に似ていたからだ。



俺の足は自然と雪菜に似ている人物の後ろに向いていた。

そしてまじまじと見つめる。

・・・やはり雪菜だった。

それを理解した瞬間様々な疑問が浮かんできた。

まず初めに隣のイケメンは誰なのか、次に俺の誘いを断った理由はなんなのか、最後になぜあの日買ったワンピースを着ているのか。

俺だってまだ雪菜のワンピース姿を見たことが無かったのに・・・



まさか・・・いや、雪菜に限ってそんなことは有り得ない。

きっと兄弟か、従兄弟あたりだろう。

それを勘違いして問い詰めるほど俺は馬鹿じゃない。

彼氏である俺が信じられなくてどうするんだ。



でも、男と2人っきりで会うのなら事前に連絡くらいはして欲しかったな。

そんなことを思いながら俺は2人の後をつけるのをやめて書店に向かった。



少しモヤモヤした感情を抱えながらも書店についた。

俺がいつも愛用しているお世辞にも綺麗だとは言えない書店。

だがそれがいい。

少し古ぼけてきた店内からは本特有の香りがする。

俺はその香りが結構好きだったりする。



店内の本の香りを嗅いだことによって先程までのモヤモヤした気持ちは無くなっていた。

お目当ての物を探していると店内に人がいるのが見えた。

いや店なのだから俺以外の客がいるのはなんら不思議なことではないのだが、ただ珍しかった。

この店は経営大丈夫か?と思うほどに閑古鳥が鳴いているのだ。



珍しいこともあるもんだと失礼なことを考えながら辺りを見渡すとお目当ての小説を発見した。


「お、あったあった」


そう呟きながら手を伸ばすと俺の手の上に俺以外の手が添えられた。


「え?」


「あ」


突如横から聞こえてきた声に少し驚きながらもそちらを見ると1人の少女が俺と同じ本を取ろうとしていた。


「あ、す、すいません!」


「いえいえ、こちらこそ」


彼女の第一印象は人と話すのが苦手そうだな子だな、と言った感じ。

見た目は大きな黒縁メガネに少しボサボサなボブと言われる髪型。

黒髪ではあるが手ぐしするとすぐにつっかかりそうな見た目をしていた。

体は少しムッチリしていて非常に・・・男が好きそうな体つきをしていた。


「こ、これ、買いますか?」


そう言って彼女は俺の取ろうとしていた小説を指さしていた。

よく見るとその小説はあと一冊しかなく、どちらかが買えないといった状況が発生していた。

そして彼女の質問の仕方からきっと譲ってくれようとしているのだろう。


「いえ、僕は大丈夫なのでどうぞ」


だが俺はそれを断っておいた。

理由は特に無いが、強いて言うならこの書店を使っている歳の近そうな子がいて嬉しかったからだろうか。


「え?で、でも買おうとしてませんでしたか?」


「確かにしてましたけど、別に急いで読みたいとかじゃないんで大丈夫ですよ」


そう言うと彼女はお礼を述べて去っていった。



歳の近そうな子がこの店にいて嬉しかったと言ったがもう会うことはないだろう。


「さて、帰るか」


結局無駄足にはなってしまったがなぜか疲労感はそんなに無かった。

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