俺たちの関係
俺は書店の前に居た。
それも矢田義との約束の30分も前に。
頭は冷静でも体は正直らしい。
しばらく待っていなければならない。
そう思っていると
「おはようございます!須羅浜君!」
「矢田義?まだ30分も前だぞ?」
俺も人のことは言えないが・・・
「その、楽しみで早くに来ちゃいました・・・」
少しだけ恥じらいながらそう言う矢田義はとても可愛らしかった。
「そ、そうか。今日の服もよく似合っているな」
夏休み中に特訓した、女の子にあったらまずは服を褒める、を実践する。
「す、須羅浜君もかっこいいですよ・・・」
・・・
「それで今日はどこへ行くんだ?」
「ありきたりだとは思うのですが、遊園地に行きたいなと・・・」
「ふふ」
俺は思わず笑ってしまった。
「な、なんで笑うんですか!」
「いや、矢田義も子供っぽいところあるんだなって思って」
頬を膨らませた矢田義が睨みつけてくる。
そんな顔も愛おしくてたまらない。
「悪い悪い、それじゃ行くか」
「はい!」
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遊園地についた俺たちはチケットを買って入場した。
「何から始める?」
矢田義にそう質問する。
「そうですね・・・ここはやっぱりジェットコースターから行きましょう!」
ジェットコースターか・・・少し恐怖感はあるが俺の自己中な意見で矢田義の楽しそうな時間を邪魔したくない。
矢田義は自分から提案してきた程だ。
きっと何ともないのだろう。
そう思っていたのだが・・・
「う、うぇ、はぁ、はぁ」
「・・・大丈夫か?」
矢田義はベンチに崩れながら座っていた。
「あ、あんな程度、なんてことありません・・・!うぇ」
そう言っている矢田義の顔は青白くとても元気そうな顔には見えない。
「苦手ならなんで最初に乗ったんだ・・・」
「苦手ではありません・・・!」
そんな状態で言われても説得力が無い。
「次は乗り物以外の物にしよう」
「わ、私は余裕ですが須羅浜君がそう言うのでしたらそうしましょう」
俺は苦笑いしながら、はいはいと返事を返すのだった。
それから数分、矢田義の体調が回復した。
「もう大丈夫です。次はどこに行きますか?」
どこに行くか、なんて聞かれてもいきなりは答えられない。
しかも乗り物は無し。
パンフレットを眺めていると1つの名前が目に入った。
「矢田義、これなんてどうだ?」
「なんですか?」
「須羅浜君・・・や、やっぱり違う所に行きませんか?」
「なんだ矢田義、怖いのか?」
俺たちは今、お化け屋敷の前に来ていた。
「そ、そういう訳では無いのですが、お化け役の人達の仕事を増やしては悪いなと思いまして」
どんな言い訳だよ・・・
「脅かすのがお化け役の仕事だ」
そう言って無理やり矢田義をお化け屋敷に放り込む。
中はかなり本格的な作りになっていた。
辺りは真っ暗で足元には冷気が漂っている。
「す、須羅浜君?ちゃんと傍にいますか?」
「あぁ、いるぞ。でもそれは本当に俺なのか?」
少しだけ意地悪をしてやろう。
そんな出来心だったのだが・・・
「い、いやぁぁ!!」
矢田義は叫びながら走って行ってしまった。
「ちょっとやりすぎたか?」
小さくなっていく矢田義の背中を見ながらそう呟いた。
お化け屋敷から出るとそこには矢田義がいた。
ものすごく不機嫌そうな顔で。
「悪かったって」
「・・・ばか」
あー可愛いなー。
そこから俺たちは適当に遊園地を回った。
コーヒーカップやメリーゴーランドなんかに乗った。
正直言うとめちゃくちゃ恥ずかしい。
いい歳をした男子高校生がメリーゴーランドに乗っているのだ。
恥ずかしくないわけが無い。
だが肝心の矢田義が楽しんでいるのなら俺はそれで良かった。
「そろそろいい時間だな」
遊園地内の時計を見ると針は午後5時を指していた。
「あの、最後に乗りたいものがあるんですけど・・・」
「なんだ?なんでもいいぞ?」
「あれに乗りたいです」
そう言って矢田義が指さしていたのは観覧車だった。
「・・・じゃあ、行くか」
「いいんですか?」
「当たり前だろ」
そうして俺たちは観覧車に乗り込んだ。
観覧車はゆっくりと進んでいく。
その間俺たちは2人の空間にいた。
なんだか改まって対面してしまうと少し気まずい。
「須羅浜君、今日はありがとうございました」
「そんなこと気にするな。俺も楽しかったからな」
そう言うと矢田義は分かりやすくほっとした。
「安心しました。須羅浜君、全然楽しめていないんじゎないかと思っていたので」
俺は矢田義と一緒にいるだけで楽しいよ(キリッ!)なんて出来ればいいのにな・・・
実際の俺はそんなこと言える訳もなく、ただただ曖昧に返事を返すことしか出来なかった。
「須羅浜君は彼女はまだ要らないんですか?」
・・・どうしてそんな質問を・・・いや、やめよう。
本当はもう分かっている。
きっと矢田義は俺に好意を持ってくれている。
それは俺も同じだ。
本当なら今すぐ俺の気持ちを伝えて付き合いたい。
だが、そんなことできるはずがない。
俺と矢田義では釣り合っていな
「わ、私は彼氏が須羅浜君だったら嬉しいなー、なんて・・・」
「矢田義」
「は、はい」
「俺は、お前の期待には答えられない」
「・・・そう、ですか・・・私ではダメでしたか・・・」
「いや、違う。違うんだ」
決してそんなこと無い。
「俺と矢田義じゃ釣り合ってないんだ」
これに尽きる。
俺と矢田義じゃ釣り合っていない。
俺は矢田義の隣を歩けるような男じゃない。
「きっとお前はこれからモテる。それこそ俺なんて比にならない位のイケメンたちからもモテるだろう。だから俺なんかと付き合う必要なんて無いんだ」
本当はこんなことが言いたいんじゃない。
付き合いたい。
「私は、私が好意を寄せられたいのは須羅浜君だけなんです!須羅浜君は暗がりの中にいた私に手を差し伸べてくれた。今まではそんな人居なかったんです!だから外面だけかっこいい人なんて好きになりません。須羅浜君だからこそ、私は好きなんです」
矢田義は微笑みながら涙を流していた。
「俺、は・・・」
「だから須羅浜君。釣り合わないなんて言わないでください。あなたは私に初めて対等に接してくれた相手なんですから」
俺は
「好きだ矢田義。俺と付き合ってくれ」
言ってしまった。
絶対に言ってはならないと心に決めていたのに。
「はい!喜んで!」
観覧車が少しだけ揺れた。
それは矢田義が俺に抱きついてきたせいだろう。
嬉しい。
だがその感情を素直に受け入れることが出来なかった。
「なぁ、矢田義。本当に俺なんかで良いのか?」
「なんか、じゃなくて須羅浜君だから、良いんです!」
モヤモヤとした心の霧は矢田義の笑顔の前に完全に晴れてしまった。
「だから」
唇に柔らかい感触が伝わる。
「矢田義?!」
矢田義が俺の唇に自分の唇を重ねていた。
「須羅浜君!これからもずっと私を」
「変え続けてくださいね!」
短いですがこれで完結です!
お読みいただきありがとうございました!
物語を完結させるのはこの作品が初めてなのでとても思い出深い物になると思います!
実感駆け足になった感は否めませんが・・・
これからも物語を書いていこうと思うのでよろしくお願いします!
新連載始めようと思ってます!
タイトルは『崩レて行く二チ常』です!
良ければ読んでみてください!