不安
その日の放課後、矢田義が俺のクラスに来ていた。
「須羅浜くーん」
俺に近寄ってきて小声で話しかけてきた。
「矢田義？どうしたんだ？」
「その、一緒に帰れないかなって思って」
え！まじ？！ほんとにワンチャンあるんじゃね？！
「べ、べべべ、別にいいぞ？でもどうしたんだ？」
「その、相談したいことがありまして」
あぁ、そう・・・相談ね・・・はぁ。
いやいや、何を落ち込んでるんだ。
分かってるだろ？俺と矢田義が付き合うことなんてありえないって。
「そうか、じゃあ行くか」
「はい！」
何故か矢田義が元気よく返事した。
よく分からないやつだ。
「え、やっぱりあの2人って付き合ってんじゃねぇの？」
「でも本人達が否定してたぞ？」
「そんなの照れ隠しに決まってんじゃん！」
「くそ・・・俺たちはイケメンと美女にはなれないのか！」
聞こえてんだよなぁ。
イケメンと言われて悪い気はしないが、人の気を知らないで付き合ってるなんて言わないで欲しい。
「あいつ、本当は気づいてんのか？」
久坂のその言葉は俺の耳には届かなかった。
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俺たちは隣り合わせで歩いていた。
もちろん家に帰るために。
「それで矢田義、相談ってなんだ？」
「あ、その、私たちってあの2人に復讐したじゃないですか」
「あぁ、したな」
やはり何度思い返してもあの時は爽快だった。
「それで、復讐された2人が私たちに恨みをもって更に復讐してくるんじゃないかって、不安になってしまって・・・」
「なるほど・・・」
確かにそこまで頭が回っていなかった。
あいつらが先に浮気したのが悪いのだから俺たちが復讐されるいわれはないのだが、復讐は復讐を生む。
もしもの可能性がある。
「釘を刺しておく必要があるな・・・」
さてどうしたものか。
写真を使って脅す？
いや、あいつらはもうなりふり構わずに仕掛けてくるかもしれない。
ならどうすれば・・・
ダメだ、何も思いつかない。
「どうしたもんかな」
横を見ると不安そうな目で見上げてくる矢田義の顔があった。
「そんな不安そうな顔するなよ」
「だ、だって、やり返されるかもしれないと考えると不安で・・・」
俺はダメだな、自分のことばかり考えて矢田義のことに気が回っていなかった。
こんなだから雪菜に浮気されたのかもな。
今更考えても仕方ないことを考える。
考えろ、もし俺が矢田義の立場だったらどんな声をかけて欲しい？
俺は少し考えた後に口を開いた。
「大丈夫だ、例えあいつらが復讐に来たとしても俺が絶対に守ってやる」
そう、矢田義を安心させなければいけない。
俺程度で安心できるかは知らないが・・・
「・・・」
矢田義は無言のままそっぽを向いてしまった。
不味かったか？
「須羅浜君はずるいです」
後頭部から見える耳が真っ赤に染まっていた。
どうしたんだろうか？
今は夏休みが開けてすぐだ。
まだ暑さにやられているだけなのかもしれないな。
俺たちは少しだけ間を開けながら歩く。
2人の帰り道・・・
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