帰り道
「はーなと!一緒に帰ろ!」
終業のチャイムが鳴ると同時に雪菜が声をかけてきた。
「あぁ、帰るか」
イライラする気持ちを抑えながら努めて冷静にそう言う。
ヘラヘラ笑いやがって。
横では雪菜が鼻歌を歌いながら歩いていた。
「ふんふふーん♪」
「なんだか機嫌がよさそうだな」
「あ、分かる?だって花登ってば、夏休みが明けてからいきなりかっこよくなっちゃったんだもん!彼女として鼻が高いよ!」
よし、順調だ。
かなり俺の印象が雪菜の中に根付いていっている。
「まぁな、雪菜の彼氏として恥ずかしくないようにしたかったからな」
「な、な、なんなの?!本当にどうしちゃったの?!」
雪菜が赤くなった顔を両手で覆い隠しながらしゃがみこんでしまった。
「どうもしてないよ」
俺は優しく雪菜に笑いかける。
「はぅ・・・」
う、上手く笑えているか?
笑顔が引きつっていなければいいのだが・・・
「かっこよすぎるよ・・・」
大丈夫だったようだ。
そして俺たちはまた歩き出した。
「・・・ねぇ、花登」
「なんだ?」
不意に雪菜から声がかけられた。
「好きだよ・・・」
雪菜が恥じらうように俯くながら小さな声でそう言った。
「俺もだよ」
少し前の俺だったら頭が真っ白になるほど喜んだだろう。
だが今はもうそんな言葉にはなんとも思えなかった。
なんて虚しいんだろう。
「えへへ・・・」
小さくはにかむ雪菜と歩いていると前から見覚えのある影が見えてきた。
「あ、須羅浜君・・・」
「あ、矢田義・・・」
そこには志摩と隣合って歩いている矢田義の姿があった。
「ん?君たちもカップル同士一緒に帰ってるのか?」
カップル同士、ね。
よくもまぁそんなぬけぬけと言えたものだ。
浮気してたくせに。
「まぁ、そんなところだな」
「う、うん」
横では雪菜が顔を赤らめていた。
これもう落ちたのでは?
さっきからずっと顔赤いよ?
「俺たちもなんだよ。な?美優莉」
「え?あ、う、うん・・・」
うわぁ・・・矢田義明らかに迷惑そうじゃん。
端正な顔立ちが少し歪んでいた。
「雪菜、ちょっといいか?」
「え?あ、うん」
雪菜が志摩に呼ばれて俺たちから少し離れた。
「す、須羅浜君!」
「どうした?」
その間に矢田義が小声で話しかけてくる。
「そ、その、相手を惚れさせるところまではいいのですが、復讐するための浮気の証拠ってあるんですか?」
あぁ、なんだそんなことか。
俺はスマートフォンを取り出し、写真を見せる。
「!こ、これは・・・」
そこにはディープキスをかましている雪菜と志摩の写真が写っていた。
「この通りバッチリだ。これを教室で見せつければ復讐になるだろ?」
俺は不敵な笑みを浮かべながらそう言った。
「いつの間に・・・」
あの時に撮っておいて本当に良かった。
「ま、そんなことはどうでもいいだろ。お互い頑張ろうな」
「は、はい!」
「はーなーとー!おまたせ!帰ろ!」
後ろから雪菜の声が聞こえてきた。
どうやら話し合いが終わったらしい。
「もういいのか?」
「うん!」
「そうか。じゃあな2人とも」
俺は矢田義と志摩にそう行って背を向けた。
「あ、はい!また明日!」
「じやあね」
2人と別れた後、俺は雪菜に声をかけた。
「さっき志摩と何を話してたんだ?」
「ん?なんでもないよー」
何か言いたくないことでもあるのだろう。
誤魔化されてしまった。
しばらく歩いていると分かれ道に着いた。
ここで俺と雪菜は別々の家に帰る。
「また明日な」
「うん!また明日!」
俺は背中を向けて歩き出す。
「花登!大好き!」
俺は振り返ることなく右手を上げた。
・・・はぁ、疲れた。
遭遇!
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