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ほんとに終わり

「さぁ、矢田義!ついたぞ!」


「こ、ここが美容院ッ・・・!」


俺たちは美容院の前に来ていた。

そう、この美容院は俺が前きた美容院だ。

予約していた時間の5分前だ。


「よし、中に入るか」


そう言って美容院の扉を開けようとするとものすごい力で後ろに引っ張られた。


「ちょちょちょ、ちょっと待ってください!」


「うおっ!引っ張るな!」


ふらついた上体をなんとか起こしてそう言う。


「き、緊張するんですよ!なんですかあのオシャンティーな空間は!私があんな所に入ったら完全に異物じゃないですか!」


まぁ、気持ちは分かる。

俺だって最初は入るのにだいぶ勇気がいった。


「まぁまぁ、とりあえず入ろうぜ」


そう言って無理やり矢田義を中に入れる。


「いらっしゃいませ。ご予約頂いた矢田義様と須羅浜様でしょうか?」


そう声をかけてきたのはこの前俺の髪の毛を切ってくれた女の人だった。


「は、はひ!」


「そうです」


実は俺も予約しておいた。

前に行った時から少しだけだが時間が経っていたため、ほんの少しだけ髪の毛が伸びてしまっていたからだ。


「今日はどのような髪型に致しますか?」


「え、えっと、その・・・」


「いい感じにお願いします」


「かしこまりました」


そう言うと女の人は店の奥に入っていった。


「す、須羅浜君!いい感じ、なんて1番困るやつですよ!なんでそんなこと言ったんですか!」


「でも俺が言わなきゃお前なんにも言えてなかっただろ?」


「う、そ、それはそうですけど・・・」


「それにここの店員の腕は本物だ。安心しろ」


「ほんとですか」


疑うような視線が突き刺さる。


「あぁ」


手短に返事をした。


「では矢田義様。こちらにどうぞ」


そう言われて矢田義がイケメンの店員に連れて行かれた。


「須羅浜様もどうぞ」


俺は前担当してくれた女性だった。



髪の毛を切ってもらっていると、不意に後ろから話しかけられた。


「今日一緒の女性は須羅浜様の彼女ですか?」


その質問に吹きそうになった。


「そ、そんなわけないじゃないですか!」


「そうなんですか?てっきり一緒に美容院にまで来ているのでお付き合いしているのかと思いました」


え、俺たちってそんなふうに見えてるの?

俺は嬉しいが、矢田義は嫌がるだろうな。

なにせ人の目を常に気にしているのだから。


「そんなふうに見えるんですか?」


「えぇ、それはもうお似合いのカップルです」


カップル。

その言葉を聞いて顔が熱くなってしまった。


「そ、そんなんじゃないですよ!」


うわっ!びっくりした・・・

なんだ?

首を少しだけ左に捻ると顔を赤くした矢田義が居た。

なんであんな大きな声出てたんだ?



それから数分して俺の散髪は終わった。


「・・・やはり顔は整っていますが目に見えてイケメンというわけではありませんね」


「なんかやっぱり俺に対して冷たくない?」


「いえいえ、そんなことありません」


俺から目を離し女性店員がそう言った。

なんなんだこの人ォ!



矢田義の方を見る。

矢田義はまだ少し時間がかかりそうだった。


「店の外で待ってるか・・・」


なぜ店の前で待たなかったのかって?

そんなのあんなオシャンティーな空間に居たくないからに決まってる。



「お、お待たせしました・・・」


指先で髪の毛をいじっていると後ろから声をかけられた。


「いや、全然待ってな・・・」


振り返るとそこには美少女が立っていた。


「誰だお前は」


「ひ、酷いです!私です!矢田義ですよ!」


「や、矢田義?」


「そうですよ!なんで忘れてるんですか!」


「・・・可愛い」


「え!ちょ、ちょっと!いきなりなんですか!」


あ、しまった。

思わず口に出てしまった。

矢田義は顔を真っ赤にして怒っていた。


「わ、悪い。忘れてくれ」


「・・・」


「いやぁ、でもほんとに変わったなぁ」


変わった、なんて次元じゃない。

もはや別人だ。

ボサボサだった髪は毛先まで綺麗に整えられて艶を出している。

少しだけ目にかかりそうになっていた前髪が短くなったおかげで大きな目がよく見える。

どこからどう見てもただの美少女だ。


「あの、須羅浜君」


「どうした?」


「本当にありがとうございました」


矢田義はそう言って深くお辞儀した。


「ど、どうしたんだ急に」


俺は慌ててそう言う。


「須羅浜君のおかげで私は変われました。変われたと言ってもまだまだですが、それでもあなたが居なければ私は自分を変えようとも思いませんでした」


「確かに俺は変わるための手伝いはした。でもそこまで変われたのはお前が真剣に変わろうとしたからだ。それは凄いことなんだからもっと自信を持て」


少しだけ涙ぐんでいる矢田義にそう言う。


「はい!本当にありがとうございました!」


外はもうオレンジ色になっていた。


「送っていくよ」


「はい、お願いします」


この一週間、俺は矢田義を家まで送り届けることが日課になっていた。

それが今日で終わると考えると寂しい気持ちが湧き上がってくる。



今日で矢田義とのこの関係も終わり。

明日からは顔すら合わせる機会もないだろう。

だから俺はこの気持ちを伝える、なんて気は無い。

この気持ちは誰にも知られず俺の心の内に閉まって(仕舞って)おこう。

きっと矢田義は明日からモテる。

当たり前だ。

こんなに美少女なんだから。



俺は隣で歩いている矢田義に目を向ける。


「なんですか?」


コテンと首を傾げながら矢田義がそう言う。


「・・・いや、何でもない」


もし俺が矢田義に告白して成功したとしても俺が釣り合って無さすぎる。

矢田義の顔に泥を塗る訳にはいかない。

だから、この気持ちは今日で終わらせよう。



「送ってくれてありがとうございました!」


「気にするな」


もう矢田義の家に着いてしまった。

時間が一瞬で過ぎ去ってしまった。そんな感覚。


「・・・」


「・・・」


少しの沈黙が2人を包む。


「・・・それじゃあな」


俺はそう言い残して背中を向けた。


「ま、待ってください!」


なんだよ、帰らしてくれ。

でないと辛さが増えてしまう。


「どうした」


「えと、その・・・」


なんなんだ?

矢田義が視線を彷徨わせながらモジモジしている。

ダメじゃないか、喋る時はしっかりと相手の目を見ないと。


「連絡先」


「え?」


「連絡先を教えてください・・・」


嬉しくて教えてしまいそうになる衝動を冷静に落ち着かせる。

ここで感情的に教えてしまっては矢田義の迷惑になってしまうかもしれない。


「ダメ、ですか?」


「・・・分かったよ」


「やった!」


ダメだと分かっていたのに上目遣いの破壊力には勝てなかった。

まぁ矢田義は俺に好意を持っているわけではないから良いか。

連絡先を交換したのだって、きっとまだ不安が残っているからだろう。

学校に行って自信をつければ俺のことなんてすぐに忘れるだろう。


「じゃ、俺帰るな」


「あっ」


「なんだ?まだ何かあるのか?」


「・・・いえ、何でもありません」


「そうか」


矢田義は何か言いたそうにしていたが、結局は言わなかった。


「元気でな」


「須羅浜君こそ!」


そう言って俺たちは別れた。

この先、顔を合わせることもないだろう。

こうして俺の短い1週間の恋が終わった。

遂にこの時が・・・

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