メガネ
そして1週間はあっという間に過ぎた。
今日は7日目最終日。
明日から学校が始まる。
矢田義との最後の集合をするために俺は歩いていた。
その時にこの1週間のことを思い返してみる。
2日目以降は1日目の復習のような感覚だった。
ブラブラと街を歩きながら気づいたことに声を掛け合う。
背中が曲がっている、変化に気づいていない、メガネを外してこい、変わったところを褒めろ、そんなことばかり。
1週間もあってそれだけしか出来なかったのか?とは聞かないで欲しい。
変わると言っても右も左も分からないような俺たちがそこまで変われるはずもないのだから。
だが、1週間それらのことに集中していたおかげか計画を始める前に立てた目標は完璧と言っていいほどに出来るようになっていた。
そして今日はそんな1週間の最終日。
これまでの集大成だ。
考え事をしながら歩いていたらいつの間にか集合場所についていた。
まだ矢田義は来ていな・・・いや前からちょうど来ていた。
「おはようございます!須羅浜君」
「おはよう矢田義。そのワンピース、真っ白で涼しげだな、よく似合ってる」
どうだ!完璧だろ!
「あ、ありがとうございます・・・」
矢田義はなぜかモジモジしていた。
「どうだ?完璧だろ?」
「そ、そうですね!よく見ています!ですが今日は他にも褒めるところがありませんか?」
そう言うということはまだ俺が気づいていない変化があると言うことだろう。
・・・どこだ?
「ふっふっふ、これに気づけばほんとに凄いですよ」
俺は矢田義のつま先から頭までジロジロと見ていく。
「す、須羅浜君・・・その、そんなに見られると流石に恥ずかしいです・・・」
ん?なんだか唇が心做しかツヤツヤしているような・・・
唇だ!
「分かったぞ!矢田義、今日はリップクリーム塗ってるだろ?」
「す、凄いです!正解ですよ!」
そう言って小さく跳ねている矢田義は背中がシャンと伸びており俺の目もしっかり見れている。
「矢田義もなかなかいい姿勢だな。ちゃんと俺の目をみて話せてるし・・・あとはそのメガネと髪型だな」
「うっ」
髪は今日美容院を予約しているから大丈夫だとして・・・結局矢田義は1週間の間で1度もメガネを外せなかった。
「どうしてもダメなのか?」
「い、一応コンタクトは持ってきているのですがまだ人の目が怖くて・・・」
「・・・矢田義」
「なんですか?」
「俺はメガネを外したお前を見てみたい」
「・・・わ、わかりました!こんなところで躓いてしまっては変われないままです!」
矢田義は決意を固めたような目になった。
「ちょっと待っててください!トイレでつけてきます!」
そう言って小走りでトイレに向かって行った。
少しまっていると後ろから肩をポンポンとされた。
振り返るとそこにはメガネをかけた矢田義が立っていた。
「おい!外してな・・・」
俺が言いきる前に矢田義が動き出した。
そして黒縁メガネに手をかけ・・・
「・・・ど、どうですか?」
「・・・」
俺は声が出なかった。
目の前にいるのが誰だか分からなくなってしまったからだ。
「す、須羅浜君?」
矢田義が不安そうに俺の目を下から覗き込んでくる。
「・・・あ、あぁ、悪い」
「大丈夫ですか?」
「大丈夫だ。ただあまりにも矢田義が変わりすぎて驚いていただけだ」
「変わりすぎたって・・・やっぱり私ってブサイクなんでしょうか・・・」
ブサイク?こいつほんとにそんなこと言ってるのか?
鏡で自分の顔を見たのか?
「何言ってるんだ?逆だよ。可愛くなりすぎてびっくりしたんだ」
そう、目の前に立っていたのは少し幼い顔立ちが残りながらも美少女と読んで差し支えない程の少女だった。
「え、えぇええ!?か、かわ?!」
矢田義は耳まで真っ赤になっていた。
遠目で見たらタコのように見えているのではないだろうか?
「お、お世辞はやめてください!」
「そんなわけないだろ。ほんとに可愛くなったよ」
真剣な態度の俺を見て矢田義は更に真っ赤になってしまった。
「う、ううぅぅ」
なぜか急に呻き出してしまった。
どうしてしまったのだろう。
「でも、俺はメガネをかけておいて欲しいかもな・・・」
「え?何か言いましたか?」
「いや?なんでもない。そろそろ美容院に行くか」
「あ、ちょ、ちょっと待ってくださいよ!」
俺は少しだけ赤くなってしまった顔を隠すように背を向けて歩き出した。
なんであんなことを言ったのかって?
そんなの俺が矢田義のことが好きでみんなに矢田義の魅力に気づいて欲しくないからに決まってる。
次の話では矢田義ちゃんが髪の毛を切ります!
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