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暗殺術師の異世界秘録  作者: 五輪亮惟
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気持ちの悪い腕当てだ


 いやはや、完全に失念していた。


 僕のイメージとしてのRPGといえば、民の中から選ばれた、若しくは異世界転生などで召喚された勇者が王様に頼まれて魔王退治をするという目的の中で、個性豊かな仲間たちと出会ったり、世界中に隠された秘密の武器を探しながら、敵を打倒していくようなストーリーだ。

 最終的な目標は魔王の打倒という少々物騒なお話だが、その道中では街ゆく人々に慕われ、金品や物資を支援してくれるなど、比較的ほのぼのとした展開だったはずだ。


 少なくとも、ゲーム開始すぐの道で助けた人に騙され殺されるようなものではなかったはずだ。そんなRPGは聞いたこともないし、存在しないだろう。いや、あってたまるかそんなもの。

 何も知らない初心者からしてみれば、初見殺しもいいところだ。これが現実ならばともかく、ゲームの中でまで詐欺を疑う奴はいないだろう。



 大男の持つ鉈が、真上に振り上げられる。

 目をパッと閉じた。


「おらぁっ!!」


 そして、風切り音とともに鉈が勢いよく振りおろされた。


 激しい音と同時に、鋭い衝撃が右腕に伝わる。僕は瞬間的に死を覚悟した。しかし、想像を絶するような痛みは中々訪れない。もう一度鋭い衝撃が右腕を襲った。しかしそれでも、腕を切断されたような痛みはない。


「クソっ!? なんだよ、これ………っ!」


 大男が驚いたような声を上げた。そこには驚きだけでなく、恐怖のような色も含んでいたような気がする。


「き、気色悪ぃ!」


 そう言うとまた鉈を振り下ろし始めたが、まったくビクともしない。ガチャンガチャンと金属を打ち付けるような音だけが永遠に響くだけだ。


 何が起こっているのか、さっぱり分からない。右腕の感覚はまだ残っていることから、目の前の男のやろうとしていることは上手くいっていないみたいだ。

 おもむろに目を開けた。そして、目の前で起こっていることが信じられなかった。


「な、なにこれ……っ!」


 それは、銀色のツタだった。眩く輝く銀色のツタが、僕の右腕に絡み付いていたのだ。あたかも、振り落とされる鉈から腕を守るように。


「クソが!」


 大男は悪態をつくと同時に腕を踏んでいた足をどかし、後ずさりした。その顔は化け物を見るような表情だ。後ろに控える2人も同じような顔をしていた。


「こ、こいつやべぇぞ!」


 後ろに控えていた男が、武器を片手に取りながら、僕の右腕を指さす。


 彼の言う通り、確かにやばい。

 右腕を覆っていたはずの銀の腕当てが、ニョロニョロとスライムのように動き出したのだ。そしてツタが伸びるかの如く腕ぎっちり巻き付いているのだ。


 見方によってはかなり気持ち悪い。当たり前だ。僕が生きてきた世界線では、金属はひとりでに動き出すことは無い。


「ど、どうすんだ!?」


「あれ、なんかやべぇやつなんじゃねえか!? 手ぇ出さない方がいいかもしれねぇ!」


 大男3人がジリジリと後退し始めた。今僕かやるべきことはいち早くこの場を離れることだが、この3人は許してくれるだろうか。


 というより、この腕当てをどうにかしないといけないんだが……って、あれ? 目を離した隙に元の形に戻ってる。どういうことなんだ? これ。


「クソっ………おい逃げるぞ! 煙幕を張れ!」


 男がそう言うと、2人は歪な球体をカバンから取りだした。それを同時に放り、地面にぶつかった瞬間爆竹のような弾ける音と共に白い煙が辺りを覆う。


「うおっ……」


 ゴホゴホ、と反射的に咳をして口元を覆う。そして目の前が真っ白に染まり視界が奪われると同時に、バタバタと誰かが走っていくような音が聞こえた。そしてその音は、段々と小さくなっていく。どうやら敵は去ったようだ。


 ふぅ……。なんとかなったな。いや、別に僕は何もしていないのだからなんとかはなってないな。


 いやまあとにかくだ。流石に右腕は持ってかれたと思って漏らしかけたけども、意外と大丈夫だった。さっきの遺跡といい今回といい、この世界は新規プレイヤーに甘いのか?


 ゆっくりと立ち上がり、臀や背中に着いた土を払う。ようやく目の前の煙幕がなくなってきたと思ったら、大男達はサッパリ消えていた。この変な腕当てがそんなに恐ろしかったのかね。


 ふぅ、ともう一度安堵の息を吐いた。傍に落ちた剣を拾い上げる。

 いやあ、ガチで危なかったもんな。次からは詐欺に気を付けよう。



◆❖◇◇❖◆



 改めまして。

 気を取り直して、大男が縛られていた所まで戻り、そこから元の大きな道を下っていく。

 今度は木に縛られている人を見かけても助けないで放っておこう。変なことに巻き込まれるのはたくさんだ。



 言っていなかったかもしれないが、僕はこの手のRPGをやったことが無い。完全なる初見プレイだ。いや、それは少し盛ったかもしれない。動画サイトなんかで少しだけ見かけたことはある。しかし、内容や仕様などの細かいところまではまるで知らない。あくまでイメージと想像の上の話だ。故に、定石やらセオリーやらは全く分からない。


 そして不運なことに、この世界ではオープニングや状況設定のアナウンス、そしてチュートリアルはないようである。



 いや、落ち着こう。一旦落ち着こうじゃないか本沢よ。とりあえず大切なことは、目標を設定することだ。自分で立てた目標に沿って、行動していこうじゃないか。


 まずは、そうだな。

 お腹が空いてきたからご飯が食べたいところ。あと喉も渇いてきたから甘いものが飲みたい気分だ。


 ヨシ!

 僕が今からすべきことは、街や村のご飯屋さんに入って食欲を満たすことだな。あとついでに甘いものも。となれば街や村を探さなければならない。えっとマップマップ……は、ないのか。【ステータス】と唱えても自分のステータスしか表示されない。普通世界地図とか出るんじゃないの? 知らんけど。



 テクテクと少し歩いたら、段々と明るい光が見えてきた。よくよく見てみると、人工物とおもしき建物と、米粒サイズの動いているものが確認できる。


 よしよしよし、計画通り。

 あれがいわゆる始まるの村ってやつか。あそこを拠点として序盤はストーリーが進んでいく、んだよな? あってるよな? あそこをめざして歩こうじゃないか。



「おおおおお……っ!」


 

 思ったよりデカかった。

 木でできた頑丈そうな柵と、ガチガチの甲冑と大槍を携えたつわものが目に飛び込んでくる。


 いや、カッコよすぎだろ。

 なんだ、この心の内側から舞い上がる高揚感と爽快感は。これがいわゆる、厨二病か…?


 えーっと、これは……。

 これは勝手に入ってもいいのか? なんか書類での手続きやら、入国(?)審査の様なものはあるのか? だとしたら困っちまうんだけども。


「あの、すいません」


「どうしましたか?」


 おずおずといった具合で門番さんに話しかけると、豪快な雰囲気とは裏腹に優しい笑顔を浮かべて彼は返事をした。


「僕、ちょっと遠いところからここに来たんですけど、この街って、その………自由に出入り出来るんですか? なにか、手続きなどは……」


「手続き、ですか? 一応あるにはありますよ。初めての入村に限って入村税として50ゴルドを支払いいただいています」


 えぇ……。入村税なんてあるのかよ。しかも50円? いま1円も持ってないってのに。どうしよ、ヤバいかも。


「50円………あの、すいません。いま手持ちが全くなくて、払えないんです」


「そうですか。でしたら一時入村券を渡します。初入村した本日から数えて30日までに、村中央の村役場まで60ゴルドと一緒にこの券を持って行ってください」


 門番さんはそう言って僕に【一時入村券】と書かれた名刺くらいの大きさの厚紙を僕に渡す。なるほど、即払いできない人の救済措置もあるのか。しかしプラス10円のペナルティも。


「ようこそ、オリゴン村へ。ゆっくりしていって下さい」


「あ、ありがとうございます。助かりました」


 ふぅ。

 後払いOKという素晴らしい入国システムのおかげで無事オリゴン村へ入ることが出来た。まずは第一段階クリアってとこか。じゃあ次は、早速ご飯にでも………って。


(お金……ない)


 どうしよう。これじゃあ美味しいものが食べられない上に宿にも止まれない。なにか手っ取り早く稼ぐ手段は……。

 さっきの門番さんに聞こう。うん、早く行こうはやく。出来れば簡単な日雇いバイトがいいな。接客業は勘弁で。



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