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暗殺術師の異世界秘録  作者: 五輪亮惟
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詐欺にはご注意を


 20分ほど歩き続けただろうか。

 暗い道を進み、階段をのぼり、偶に出くわすモンスターを始末して、暗い道を進む。これの繰り返しだ。


 あれから2回ほど例の腕当てを外そうとしてみたが、相変わらずビクともしない。キツく締め付けられている感覚は無いにも関わらず、だ。

 因み、僕はこの腕当ての素材にアテがあった。恐らくこれはミスリルだ。ファンタジー王道の魔法金属で、銅のように加工しやすくガラスのように光り輝く。銀のように美しく鋼より強いとかなんとか。まあどうでもいい。



 さて、この遺跡の構造はかなり単純なものらしく、これまで1度も分かれ道というものがなかった。ただ単調に、レンガ調の壁を沿いながら道を進み階段を上る。それが意外と急で、明日足腰が痛くなりそうだ。


「クレイボーンが2体……」


 白い体が2体、道を塞ぐようにして通路を闊歩していた。横幅が数メートルしかないので、バレずに進むのは困難だと判断する。


 僕に近い方のクレイボーンへ、背後から音を立てないように忍び寄る。そして、腰から抜いた剣を一閃。《背撃》が発動し攻撃力が上昇した。

 僕の一撃を喰らったクレイボーンは地面に倒れ、灰と化す。そして同時に、もう一体のクレイボーンが件を振りかぶりながら近づいてきた。


「ほっ!」


 クレイボーン程度の攻撃なら、もう見切れるようになってきた。振り下ろされるギリギリで地面を蹴飛ばし後ろへ跳ぶ。空振りした剣を再度振りあげようとするクレイボーンへ、喉元に斬撃を与える。


  よろけたクレイボーン対して、鋭い刺突を繰り出した。砂のような肉の塊を貫いた感覚と共に、クレイボーンは脱力し地面に倒れる。いっちょ上がりだ。


 ふぅ、と軽く息を吐きながら剣を収める。

 相手が雑魚敵だからだろうが、ファンタジー世界に来てからも意外と剣術を使えるもんだな。


 息を整えてまた歩き出そうとした時、頭の中でピロン!と軽い音がした。さながら何かの通知音みたいだ。ファンタジーにおいて通知が来たと言えば………


「レベルアップか?」


 ステータス画面を開いた。

 しかし、レベルは1のままだ。では何が変わっていたのか。よく見ると、その下のスキル欄の部分に変化があった。


「『《暗殺術》スキルレベルアップ、新たに《縮地》を取得しました』……?」


 縮地、という言葉は聞いたことがある。相手との間合いを詰めるやつだったよな。ということは、僕はこのスキルによって忍者よろしく超人的な動きができるってこと?


 《縮地》の説明欄には点と点を縮めるように高速移動することが出来る、とある。いまいち要領を得ないが、まあ簡単に言えばゲームでよくあるステップだろう。これで回避がしやすくなるな。


「……どうやって発動するんだ? これ」


 内容はわかっても、どう発動するのか分からない。なんだ、発動する時に『縮地!』て叫べばいいのか? いや、魔法じゃないんだからそんなわけないか。


 僕は考えるのをやめにして、出口の方向へ歩き出す。もう地下道は飽きてきたところだ。暫定的に味方だったパーティに裏切られただでさえ怖い思いをしたんだから、もうこれ以上怖いのは勘弁だ。心臓が持たない。



 ずっと同じような道が続いている。階段を登り道を進み階段を登る。いい加減地下観光も飽きてきたなと思っていたところで、壁に大きな裂け目があった。そしてそこから、明るい光が差し込んでいる。


「おお!」


 駆け寄ってその穴をのぞき込む。

 青い空に茶色い土、緑の木々と暖かな日差し。予想通り、そこは外に通じていた。この空気感が随分久しぶりに思えた。


 その裂け目はギリギリ人が1人通れるレベルだ。僕は迷わず身を乗り出し、無理やり通り抜けようとした。ふくやズボンが擦れてしまったが、何とか通り抜けることが出来た。

 


「あー良かった」


 脱出成功だ。裏切られたときは流石に詰んだと思ったが、案外にもいけるもんだな。ほとんど無傷で外に出られるとは。それに、不本意とはいえ腕当てももっと来れたんだ。何とか外すことが出来れば、高く売れるだろう。まずは、近くの村に行こうかな。



 初めての冒険が終わった。

 意外とチョロかった。



◆❖◇◇❖◆



 街に向けて歩き出す。遺跡の出口から道が一本しかなかったので、迷うことなく整備された山道に出ることが出来た。と入っても、そこまで大きな山ではない。あと少しすれば、降りられるだろう。


 山に行ったのは小学生以来だが、存外悪くないものだ。空気は綺麗だし空は澄んでいる。木々のざわめきや動物の豊かな鳴き声が心地よかった。

 全身で異世界の素晴らしさを堪能し、山を下っていたところ。



「………ん?」


「た、助けてくれ! 盗賊に襲われたんだ!」


 目の前には木にくくりつけられた冒険者風の男がいた。腕と胴体、そして足をガッシリと縛り付けられている。

 これはなんだ? 僕は目を疑った。大男が武器も持たずに木に括り付けられている。これは何かの夢だろうか? しかしいくら目を擦っても、髭を生やしたスキンヘッドの大男は助けを求めて体を揺らしていた。

 何があったのだろうか、とりあえず助けるか。


「大丈夫ですか?」


「助けてくれ! たのむ! 助けてくれたら隠してある宝の地図をやるから! オオカミが彷徨いているんだ!」


 いや、別に対価が欲しいわけじゃ……。

 ファンタジー世界では、こういった木に人が括り付けられているのは普通なのか? 僕がおかしいのかな。


「もちろん助けますよ。じっとしてください」


 木の後ろに回り、縛り付けてある縄を剣で斬った。大男は長い間このように立たされたからか、支えを失った瞬間に地面へ座り込んだ。


「あ、ありがとう坊主! お前のお陰で助かったよ! 本当にありがとう!」


「いえ、気にしないてください」


 RPGなら、ミニクエスト達成で小さな報酬が貰えるもんだが、僕は別に対価が欲しかった訳では無い。ただ人助けをしたという事実と達成感が欲しかっただけだ。


「命の恩人にはそれ相応の例をしなきゃな! 着いてきてくれ! 金は沢山渡せねえが、お前さんに武器や防具を見繕ってやる!」


 大袈裟だな、当たり前のことをしただけなのに。

 まあ、何かくれるのなら喜んで頂こう。というか、さっきのこの人の話じゃ近くに狼がいるらしいし、とっととここからズラかりたい。



 大男の後を追って少し歩くと、そこは山の麓の小さな丘だった。なにやら鍛造用の炉や金床、そして木造の小屋とチェストが並んでいた。やはり、鍛治を生業としていたのだろうが。


「おーい! みんな来てくれ!」


 大男がそう叫んだ。すると小屋の中から2人の男が出てきた。手には大きな鉈を持って。

 それを目にした瞬間、ゾワッと本能めいた恐怖を感じた。どうやら詐欺にあったらしい。


「ノコノコと着いてきたぜ、小さな獲物がよ……っ!」


 大男は、振り向くと同時に殴りかかってきた。咄嗟に僕は、剣を抜く暇はないと判断し両腕をクロスにして拳から身を守る。


「ぐおっ…っ!」


 当然、受け止められるはずもなく2メートルほど吹き飛ばれる。しかし腕当てに拳が当たったのか、両腕にそこまでダメージはなかった。これは幸運だったな。


「ちっ! なかなかいい腕当て持ってんじゃねえか」


 クソが! 畜生、騙されるのは2回目だ。

 いや、1回目はノーカウントか? まあいいや、どうでもいい。それより今はこいつらだ。


「決めたぜ、この腕当ては俺のもんだ。ギタギタにぶち殺した後、金目のものを全部頂いてその銀の腕当てを貰う。さあ小僧、抵抗するんだろ?」


 大男は、その仲間から受け取った鉈を僕の顔に向け言い放った。僕も剣を抜いて構えるが、内心は恐怖で震えている。当たり前だろう、勝てるわけないのだから。まず体格が違いすぎるし、得物も格が違う。


「おらぁっ!」


 横薙ぎに振るわれた鉈。クレイボーンのその剣筋とは何もかも違っていた。反応出来なかった僕は、為す術なく右手に持った剣を弾き飛ばされた。そして、右腕がジンジンと痺れる。


「はっ! 大したことねぇなコイツ」


「くっ……!」


 そりゃあ、異世界生活一日目ですからね。

 いや、マジでやばいかも。これホントにヤバいかもしれん。下手したら死ぬ、いや下手しなくても死ぬぞこれ。どうにかしなきゃ。


「しっかし、いい腕当てだな。ソイツを早く俺のもんにしたい。おい小僧、ソイツを渡せよ」


「……で、できません」


「あ?」


「でき、ません」


 僕もできることなら素直に渡したいのだが、物理的(?)に不可能なのだ。何故か僕の腕から抜けない。そりゃ右腕を切り落とすとかなら抜けるかもしれないけど……って、まさか!?


「────っらぁ!」


「うぐっ!?」


 最悪1歩手前のことを考えていると、大男は鉈を持たない左腕で殴りかかってきた。同じように右腕の腕当てで受け止めるが、衝撃だけは逃しきれず後ろへ吹っ飛ぶ。ごすっと背中から地面に落ちた。


「ったく面倒な小僧だ。渡したくないなら無理やり頂くまでだ。後悔すんだな」


 落っこちた衝撃で動けない僕の右腕、上腕二頭筋辺りを踏みつける大男。めちゃくちゃ痛いが、この後に訪れるであろう痛みを想像すると叫び声は出なかった。


「この銀の腕当ては、俺のもんだっ!」


 大男の持つ鉈が、ものすごい勢いで振り下ろされた。僕は目をつむり、藁にもすがる思いで必死に助けを乞うた。誰でもいいから助けてくれ、この大男をどこでくれ、僕の右腕を守ってくれ、と。



 この世界に来てから、祈ってばかりだな。

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