恐怖と明かりと骸骨と。
【グリモワールズ・レジェンディア】
この名前を聞いたことがないゲーマーは、恐らくいないだろう。当時全く無名だったゲーム制作会社が、5年の歳月を注いで作り出されたこのゲームは、瞬く間に一世を風靡した。超有名中世風幻想系オープンワールドMMORPGだ。
総プレイ時間2000時間を優に超える圧倒的なボリュームに、新型エンジンを利用した革新的戦闘システム。世界的に有名な音楽家が直々に制作したサウンドトラックに、最新ハードのスペックをフル活用した圧巻のグラフィックス。26,000,000 km²をこえる超広大なオープンワールドの中には、1,000,000以上のダンジョンや探索ポイントが存在し、そして数えるのも億劫になる程のサイドクエストが用意されている。また、週間隔での無料アップデート、DLCも用意され、更には自動NPC・クエスト生成機能、自動アイテム生成機能まで追加された。自動読み上げ機能の進化により、完全フルボイス化した個性豊かなNPC。その数は7000万人程。
これだけでも凄すぎるゲームだが、このゲームを語る上で外せない言葉がある。それが、『本物のロールプレイング』だ。
このゲームには、キャラメイクと言う概念がない。プレイヤーは、予め用意された数億にも及ぶキャラクターをランダムで選ぶのだ。そのキャラクターは、名前や種族、性別、見た目、能力から出身に至るまで事細かく設定され、プレイヤーはそのキャラクターの設定に沿って、あるいは敢えてその設定を無視してゲームの世界に飛び込んでいく。そのキャラが持つ『スキル』を駆使して、文字通り世界を股に掛けるのだ。鍛治が得意なキャラなら腕を磨き上げ自らの店を出し、巨万の富を掴むことも。魔法が得意な種族でも戦鎚を携えた脳筋プレイが出来る。要するに、『なんでも』できるのだ。皇帝や国王を殺すことも出来るし、村の娘と結婚し子供を育てることも出来る。魔法大学や冒険者ギルドに入ることも出来れば、木こりや漁民として細々く暮らすことも出来る。
タイトルにある通り、伝説上の生物に神や悪魔、天使すら存在するこの世界で、神々の使徒として活動することもできるし、裏切って始末する事も、神から寵愛を受けることすらできる。なんでも、好きなことができる。セレクトしたキャラクターはこの世界に住まう住民として、実際に生活を営んでいるのだ。
そして、このゲームはオフラインがメインだが、オンラインモードも存在する。寧ろオンラインサーバーが本番と言う者もいるほどだ。オフラインモードで育成したキャラクターを使用した協力、対戦プレイも盛んで、レイドを組んで巨大モンスターを討伐したり、移動するプレイヤーの背後からスリや暗殺を決めたり。プレイヤー同士で売買も出来るし結婚もできる。ボードゲームや賭け事に興じることも出来る。
これは、誰がどう見ても、神ゲーだった。
世界120カ国以上で、ほぼ全てのゲームアワードを独占した。発売から5年以上、人気ランキングトップに君臨し続けた。そして今日。10年の長い年月を経て、遂に続編が発売されたのだ。
俺がこのゲームと出会ったのは高校生のとき。それはもう狂ったように遊び耽った。これが俺の青春だった。おかげで授業は全くついていけず、常に赤点ギリギリだったが、まあ卒業してアホ大学に行って、まあまあの仕事につけたのだから良しとしよう。
あれから10年が経った。今もあの頃と変わらず、暇があればゲームにログインしてプレイを続ける唯の1ゲーマーだ。そして、結局10年経ってもクリア出来なかった。達成率76パーセント。動画サイトやブログなどでゲーム解説や攻略の動画を見てみると、未だに知らないアイテムやクエストを見掛ける。10年間、ほぼ毎日プレイしているにも関わらずだ。収集アイテムやアクティビティの全制覇以前に、未だ初見のダンジョンや集落すらある。
10年もの間、ずーっと週一回のアップデート、DLC追加をしていたのにゲームバランスが少ししか崩れていないところを見るに、開発者は余程頭のおかしな狂人、正しく天才なのだろう。だれがこんな素晴らしいゲームを作り、バランスを維持しているのか皆目見当もつかない。
ま、別にそれでいいのだ。俺はあくまでプレイヤーで、開発者じゃない。ただ面白いからゲームを続けて、毎月最高評価を送り、偶にバグ報告をするくらいだ。誰が作っているかなんでどうでもいい。ただ、目の前に最高の遊び場がある。それだけで十分なのだ。
『グリモワールズ・ファンタジア』
10年振りの続編だ。やっと手に入れることが出来た。期待値はもちろんマックス、今からワクワクが止まらない。続編が発売されるまでに前作を達成率100%・トロコンすることが出来なかったのが心残りだが、このゲームはガチでやり込む予定だ。まあ前作もガチだったが。
そして俺は、このゲームのためだけに最高の環境を作りあげた。
俺なりに会社で努力して成果を出し、オリジナルのプログラムを組むことで作業の大幅な短縮を実現させた。そして俺は、リモートワークを勝ち取ったのだ。どうせ仕事なんぞ2時間で終わる。一日は24時間あるのだ。16,7時間はプレイできる。
俺はプラ袋に入った『グリモワールズ・ファンタジア』のパッケージに目線を向けた。楽しみで仕方がない。家までの道のりがやけに遠く感じる。久しぶりの外出だからか、やけに足の動きが悪い気がしないでもない。一応まだ26なんだがな。
小走りしそうになるほどの高揚感をぐっと堪えて、帰り道にあるコンビニで弁当とお茶、そしてデザートを買った。普段は無駄な出費を抑えるようにしているが、今日は特別な日だ。と言っても、デザートを食べるのは相当後になりそうだ。
大通りに面した歩道から逸れ、近道のために小さな裏路地を進む。薄暗く人気のない場所だが、俺は普段からここの利用者だ。この異様な雰囲気も、もう慣れてしまった。
五分ほど歩き、ようやく家のマンションに着いた。エレベーターに乗り、五階へ。ポケットの中へ荒々しく手を突っ込み、鍵を鍵穴へ押し込んだ。
「ん……? あ、鍵、かけ忘れてたな……」
どうやら、楽しみすぎて家を出た時に鍵を閉め忘れたらしい。不用心にも程があるな。今度からはちゃんと防犯対策しよう。
コンビニで買ったものを袋ごと冷蔵庫に入れ、早速ゲーム機の電源を入れた。立ち上がるまでの間に、パッケージのビニール包装を無理やり破り、ディスクを取り出す。挿入口に押し込み、コントローラーとヘッドホンを手に取った。
「うわっ、ダウンロード長そう……」
まあ、ダウンロードが長いというのはゲームボリュームが大きい証明だ。まあ20分前後だからすぐ終わるだろう。
俺はスマホを開いて『グリモワールズ・ファンタジア』と検索した。ネタバレなんかは見るつもりなどないが、何か有益な情報があるか調べるためだ。
「げっ。もう攻略配信してる……」
今日発売開始なのに、早すぎるだろ。
俺も半日近く店の前で待ってたってのに。
このダウンロード、早く終わらねえかな。
「………弁当、食うか」
ただ待っていても仕方がないと、オレは椅子から立ち上がってキッチンへと向かった。朝ご飯も食べてないからか、かなり腹が減ったしな。ダウンロードが終わるまでにはデザートも食べ切れるはずだ。と、その時。
「………ん?」
誰かの視線を背中に感じた。振り返って後ろを見てみても、人の気配は無い。なんだろう今のは。このマンションはペット禁止だから動物もいないはずだし。
「………ま、いっか。弁当チンしよ」
独り言を呟きながら、冷蔵庫に入った弁当をレンジに入れる。冷蔵庫に入っていたのはほんの数分だけだったが、弁当はやけに冷たくなっていた。
弁当を温めている間に、俺はデスクの前に向かい画面と向き合う。ダウンロードの進行状況が気になるからだ。ダウンロードが終わり次第、俺は弁当を放ったらかしででもゲームを始めるつもりであった。
「さーて、どれくらい進んだー……?」
26パーセント、4分の1か。
この調子だと直ぐに終わりそうだ。
早くゲームがしたくて仕方がないな。
俺は弁当を食べながらスマホをスクロールする。画面に映るのは最新作ではなく、旧作の『グリモワールズ・レジェンディア』。10年の時が経とうとも、その圧巻のグラフィックは健在だ。ネット上では、この名作との別れを惜しむ声が続々と上がっていた。
いや、別にお別れする必要はないのだが。
みんなもう旧作をやるつもりは無いみたいだ。
確かに俺も旧作をやる予定はなくなっちゃったけども。
「………んん?」
カタカタカタっ。
小さくだが、何かが当たったような音が聞こえた。椅子を回して部屋の中を見渡すが、特に人がいたような形跡はない。もしかして、ネズミかなにかが忍び込んだのか……?
ネズミの忌避剤でも買っとくか。
「げ、意外とたかっ」
思いのほか高かったが、ポチッと購入。
家にネズミがいるなんてたまったもんじゃないからな。というか、マンションの8階にネズミってくるもんなのか……?
───ガタッ!
「ん? ───っうあぁ!」
突如、扉を破壊したような激しい音が響いた。反射的に音の発生方向へ振り向くとそこには、黒い服を着た中年くらいの男性が、鬼の形相をしながらバールのようなものを振りかざしている。
空き巣か!
目の前の男の正体、そして先程までの違和感が分かったところで、もうどうすることも出来なかった。
「あぁっ!」
頭に鋭い衝撃が走り、椅子から転げ落ちる。
尋常ではない痛みが脳を支配し、俺は頭を抑えることも忘れてのたうち回った。
「しね! しね! しねぇっ!」
顔面や両腕にバールのようなものが叩きつけられる。顔が潰され、全身が燃えるような激痛を覚える。平衡感覚を失い、叩きつけられたバールのようなものによって空中を浮いているような錯覚を覚えた。
「───」
数分だろうか、数時間だろうか。
幾度となく叩きつけられた衝撃により、俺は喋ることはおろか、混乱し何がなんだから分からなくなった。自分が殴られているという事実すら忘れ、そして俺の意識は、プツッと途切れた。もう、何も考えることは出来なかった。
◆❖◇◇❖◆
「………流石に、死んだと思った」
なんと、奇跡の生還。
いや、遺跡から出てはいないから生還した訳では無いか。しかし、あの絶体絶命のピンチから脱したのは事実だ。
クレイボーン・ウォーカーが戦鎚を振り下ろした、まさにその時。地割れのような音ともに、がたがたがたっ! と地面が揺れたのだ。腰を抜かしていた僕は大丈夫だったが、重たい戦鎚を振りかぶっていたクレイボーン・ウォーカーはバランスを崩し地面に倒れ込む。
そして同時に、この地震の影響か左の壁が一部崩れたのだ。ちょうど人一人分が入れるほどの隙間。僕は頭で考えるよりも早く、飛び込むような格好でその穴に入った。そしてその穴は、まるで滑り台のようになっており、僕は頭や体を酷く打ち付けながらも、なんとか無事だった。
「いったたたた……っ」
石かなにかの出っ張りに当たったのか、頭の右側がズキズキと痛む。耐えられないほどの痛みでは無いが、僕は頭を押えて膝を着いた。
───カサカサカサッ。
なにかの音が聞こえる。地を這うような音だ。恐らく、少し前に遭遇したナイトスパイダーか、あのサソリ。前者ならまだしも、後者だった場合は一巻の終わりだ。逃げないと。
僕は痛む頭を手で抑えながら、音が聞こえた反対方向へ走った。滑り台はかなり長かったから、多分相当深いところに来てしまったのだろう。生きて帰れるのか不安になりながらも、必死に足を進めた。
そして少し歩くと、少しだけ開けた場所に出た。そこは地面の所々が抉れ、何者かが激しく争ったような形跡があった。壁も斬撃を受けた跡があり、戦いの激しさを物語っている。まるで映画の世界に飛び込んだみたいだった。
僕はさらに足を進める。コツン、と足に何かが引っかかった。倒れそうになるも咄嗟に反応し、なんだなんだと足元を見やる。
そして思わず、ひっ! と悲鳴が漏れた。
「が、骸骨……!」
全身の人骨が半分ほど露出していた。
既に魂は失われ、不気味に眠っている。
僕は初めて見た生の人骨に、思い切り腰を抜かしていた。
「こっわ………」
しかし立ち止まる訳にも行かない。すぐ後ろには何者かが迫ってきているのかもしれないのだから。
勇気を振り絞って、僕は骨を避けるよう大股でまた進み出した。数メートル先には、また頭蓋骨や手足の骨が埋まっている。そのあまりの不気味さから、急に動き出しそうだな、と考えながら、恐怖を押し殺して足を進める。
数分ほど無心に暗い道を歩き続けていると、薄々と明るい光が見え始めてきた。目の前に光源があるようだ。そして、地面や壁が自然的なものではなく、舗装された人工的なものに変わっていく。どうやら、遺跡の内部に戻ることが出来たらしい。となると今までの道は何だったのか。
ふぅ。と息を吐いた。
思ったより普通に戻ることが出来たな。
よかったよかった。あとは階段を見つけて早く地上に戻ろう。もう太陽が恋しい。
「……お?」
小さな光を頼りに進むと、そこには穴が空いたレンガのようなもので出来た壁があった。明らかに今まで歩いた道とは毛色が違うものだ。僕はいつでも逃げられるよう警戒心を持ちながら、なかの様子を確認した。
どうやらそこは、人間か何かが生活していたような小さな部屋のようだ。ベットや椅子、机、本棚やチェストといったものが置かれており、壁には松明が掛けられている。しかしもう住んでることは無いようで、床はホコリや砂を被っていた。
「うぁっ!?」
心の中で、失礼しまーすと呟きながら体を乗り出す。そして、驚きで悲鳴が漏れてしまった。
ちょうど穴が空いた壁から死角になっていたのか、その穴のすぐ横の壁に服を着た人骨がもたれ込んでいたのだ。
全身に鳥肌が立つ。額に変な汗が流れた。
その骸骨は今にも動き出しそうな程に不気味で、精巧。下手なホラー映画の何倍も怖かった。ホラー苦手な僕からすれば、見た瞬間に脱兎のごとく逃げ出さないだけ褒められるべきだろう。
ゆっくりと壁穴を跨ぎ、部屋に入った。ぐるっと部屋の中を見渡すが、人の気配は無い。不自然な程に部屋の中は整えられており、逆に生活感がないようにも感じられた。まるで、人の生活部屋を再現した展示場のようだ。
生活感がないからこそ、その異質な存在感を放つ骸骨はより一層不気味に感じた。この骸骨が、部屋の主なのだろうか。ただの人間の死体なのか、それともモンスターであり僕を襲おうとするのか。知識のない僕に見分ける方法などない。
骸骨への視線を断ち切り、僕は部屋の中を探索することにした。しかし、机や棚の中に特にめぼしいものはない。本棚も確認してみたが、なんて書いてあるのか全く分からなかった。これがこの世界での言語だろうか。
そして、穴が空いた壁の反対側には木製の扉があった。ドアノブに手をかけ、捻ってみるが反応はない。どうやらロックが掛かっているらしい。しかし、部屋側の扉だと言うのにツマミはない。あるのは鍵穴だけだ。
仕方なく、もたれ掛かる骸骨に目をやった。さてどうするべきだと考えていたところで、ふと骸骨が着ている服の懐に目がいった。
もしかしたらと思い、僕は唇をかみながら骸骨の懐へ手を伸ばした。しかし、手には骨の冷たさしか感じられない。仕方なく、骸骨を横に倒してお召し物を全てはぎ取ることにした。
服を剥ぎといっている途中、僕は今どんな顔で、どんな服を着ているのだろうと気になった。顔の造形については鏡がないので分からないが、服については日本で着ていたような服ではもちろんなかった。言葉を選ばずに言えば、みすぼらしい布切れのような服だ。半袖半ズボンだったのだが、極度の緊張故か、寒さは全く感じなかった。
ただ、さすがにこの服とズボンで過ごすのは嫌だと感じた。元が平和な日本出身だからだろうか。僕は骸骨から引っペがした装備を拝借することにした。どうせもう必要ないだろうし、有効活用だ。
意外に、と言ったら骸骨に失礼かもしれないが服の状態は非常に良かった。特に引きずられたり切り裂かれたような跡は無い。となると、この骸骨の死因は餓死か?
肝心の服については、Theファンタジーといった様子の長袖シャツとズボン。そして申し訳程度の皮装備。灰色がかっこいいのと、この腰のベルトポーチがお気に入り。
そしてここからが本題なのだが、例の懐には金貨が入った袋と鍵が2つ入っていた。金貨の方はありがたく頂戴する。恐らく骸骨にこの金貨を使う予定はないだろう。仮にあったとしたら申し訳ないが。
「この鍵、ひとつは扉だとしてもうひとつは……」
何の変哲もない、中世チックな鍵。
そして恐らくもうひとつの鍵は、あの部屋の角に置かれたチェストだ。それ以外にこの部屋の中で鍵穴が見つからない。
小さめの方の鍵をチェストの鍵穴に差し込んでみると、見事にフィット。ガチャ、子気味のいい音が響いた。そしてそのまま、ギーっとチェストを開ける。グッと中を覗いた。何かが入っているようだ。
「なんだろ、これ。腕当て?」
そのものを一言で表すなら、銀の筒であった。でもただの銀じゃない。それはひと目でわかった。普通の銀にしては光りすぎて、更にあまりに軽すぎる。まるで丸めた布を持っているようだ。
「片方しかないな、これ」
好奇心からか、とりあえず利き手である右手、もとい右腕に嵌めてみた。すると驚くほどスムーズに腕に嵌る。まるで、元々あった場所に戻ったかのようにだ。少々気味悪さを感じて、僕は腕当てを外すために力を込めた。
「……ん? あれ、あれあれ? 抜けないな」
左手を使って力一杯引っこ抜く。ただ、全く動く気配がない。文字通りビクともしなかった。
接着剤を使ったと思わせるほどに動かない。入れる時はスムーズにストンとハマったのに、そのまま溶接でもしてしまったかのように動かなくなってしまった。
………。
……え、どうしよう。
なにこれ、どういうこと?
試しにもう一度、軽く引っ張ってみる。
腕当てが嵌められた右腕の肘が痛くなってきた。全然動かない。まさか本当にくっついた?
「………」
まあ落ち着けって。
よく考えたら、ここはファンタジー世界だしな。剣と魔法の世界だぞ。こういう御伽噺的なアイテムも存在するだろう。
僕は自分にそう言い聞かせるようにして、無理やり納得させた。どうせいつか時間をかければ取れるだろう。それこそ呪いの品でもなければ。
僕は気を取り直して部屋の探索を再開した。とは言っても、このチェスト以外に面白そうなものはもうない。腕あてのそこにはやや劣化した紙が3,4枚あった。ビッシリと空白を埋め尽くす勢いで何かが書かれていたが、死ぬほど読めなかった。
まあ多分、いつか取れるから頑張れ的なものだろう。作成者も無責任なもんだ。もっと分かりやすいようにしてもらいたい。危険物なんだから。
僕はチェストを閉じてから、大きめの方の鍵を持って扉に向かう。その鍵穴に鍵を指すと、ガガガガガガといった不快な音が響き渡る。なんだ、錆び付いてるのか?
半ば無理やり鍵をひねると、ガギャン!という音と共に扉が開いた。ものすごい音だ、やっぱり錆び付いてたらしい。メンテナンスはしっかりな。
僕は扉を開けると、松明に照らされた遺跡の道を再び歩き始めた。右腕に絡みついた腕当てをどうしようかと考えながら。
感想評価お願いしまーす。
遅れてごめんなさーい。