コンビ結成
とまあこんな感じで、まさかまさかの魔法取得だ。おめでとう、おめでとうイストリット。いやまさかこんなことになるとは思いもよらなかったけど、めちゃくちゃラッキーでもある。
青魔法、それは水を操る魔法。
水が身近に存在していることもあり、僕はすぐさまこの魔法の取り扱いを学び始めた。ぷかぷかと浮く水の玉を見て、僕はこれが異世界かと息を飲んだ。
………けどさ。
いや、水を操る魔法を手に入れてめちゃくちゃ嬉しいんだけどさ、これってなんの役に立つの?
僕はその疑問をルシェル大先生に聞いてみた。すると返答はごく単純なものだった。『青魔法は、日常生活で重宝される魔法だよ!』………ん? 日常生活?
僕は耳を疑ったが、彼女はうんうんと首を振るばかり。つまりあれか? この青魔法な、生活用水を生み出すためだけの魔法というわけか?
………いやいや、冗談じゃないぞ。勘弁してくれや異世界。僕が持つ唯一の魔法が生活用水発生魔法だって? おいおいおい、僕はこの魔法を使って敵をバッタバッタと薙ぎ倒していくのを夢見てたのに。生活用水を振り撒くなんて、ただの冷たいシャワーじゃないか!
いやまあ、確かにめちゃくちゃ便利だけどね? さっき喉乾いた時に《青魔法》で水分補給したし、靴についた泥汚れも綺麗に落とせたし、髪の毛も洗えたけどさ。
いやいや、違うじゃん。
僕いちおう転生者で、この世界に神様の名のもとに転生してきてるわけよ。特に役割とか使命とかを受けたわけじゃないけどさ。少しは僕が喜ぶようなことしてくれませんかね、神様。名前ちょっと忘れちゃったけどさ。
(………いや、悲観しててもしょうがない。どんな風に活用出来るのか考えよう。こういう時は頭を使わないと)
……ふぅ、落ち着いたぞ。
よし、考えようじゃないか。
ルシェル大先生に言わせてみれば、《青魔法》は戦闘には不向きだとか。なんでかと言えば、他の魔法に比べて圧倒的に火力が出ないから、らしい。火力がでないということは、直接相手にぶつけてもダメージは期待できないということ。
ならば逆転の発想だ。元から攻撃なんかに使わなければいい。魔法戦闘は、なにも迫撃戦のように魔法を撃ち合うだけじゃないはずだ。上手いこと敵の気を逸らしたり、味方をサポートしたり、相手が嫌がることをするのも、立派な魔法戦だと信じたい。
「ルシェル」
「なにぃ……もう寝ようよ、疲れたよわたし……」
「おい起きろ、起きろ白髪」
「しらが言うなぁ……!」
今の僕は機嫌がめちゃくちゃいい。だからいい案が出そうな気がするんだ。このチャンスを逃す訳には行かないだろう? さあ起きろ白髪先生。
「もう寝ようよ………明日でいいじゃんか……」
ルシェルは隣りのベッドでうつ伏せになっている。眠いのだろうか? いやいや、僕は全く眠くないのだ。付き合ってもらうぞ、この作戦会議に!
「何か、なにか無いか? なんでもいいんだ、できるだけ沢山、幅広く欲しい。兎に角案が欲しいんだ。少しでも僕は、この《青魔法》が使いたいんだ……!」
「もううるっさい………はやく寝ろよ……だからチビなんだよ……」
枕に顔を埋めていて、後半は何を言ってるか聞き取れなかった。けどまあ、特別なことは言ってないだろう。さ、作戦会議だ。今から始まる真の異世界ライフを、少しでも無駄にできない!
「ルシェルの言うように《青魔法》自体の火力が低いとなれば、魔法をメインに置いた攻撃には使いずらい。相手へ効果的に有効な攻撃を与えられないから」
ホースの出口をギュッて摘んで水圧を高めるあの遊び。あの原理で攻撃できないことはないだろうが、それでも致命傷を与えることは出来ないだろうと推測する。攻撃するとしたら、牽制かいたずらが関の山だ。
「だから、あくまでメインに《暗殺術》を置いて《青魔法》は補助的な役割を持たせるのがベストだと思うんだ」
「んー……そだね……」
「そこで、普段ルシェルが《白魔法》と《黒魔法》をどんな風に使ってるのか。言える範囲でいいから教えて欲しい。とにかくアイデアが欲しいんだ」
「んー……」
ワクワク。
一体どんな案だろうか。
…………。
「…………」
……ん? 反応がないな。
まさか寝たのか? まだ何も始まってすらいないのに。一緒に考えてくれるって言ったじゃんか。
こちとら弱っちい《青魔法》がキチンと使えるのかどうか───いや待て。これはもしかしてチャンスなんじゃないか? 相手が気づいてない状態でどれくらい《青魔法》でビックリさせられるのか。彼女も特に何も言ってないし、試してくれってことだろ。よし、やろう。
「………《青魔法》」
左手に魔力を集めて小さくそう唱えると、瑠璃色をした小さな魔法陣が現れた。なるほど、注ぎ込んだ魔力によって魔法陣の大きさも変化するのか。
僕はおもむろに魔法陣をルシェルに向け、魔法を発動した。すると、思い描いた通りピヨっと爪くらいの大きさの水滴が空中に放物線を描く。そして、ピトッと言う音と共に着地した。彼女の首筋へ。
「ちょっ!? 《白魔法》!」
反応からして、かなり驚いた様子だ。予期してなかったってことはだいだろうけど、予想より冷たかったのか? さっき触って見た感じだと生ぬるい感じだったが………。
そんなことを考えていると、瑠璃色の魔法陣の数倍の大きさをした、純白の魔法陣が視界いっぱいに顕現した。そして、瞬きする間もなく、極太の光の槍が飛び出してくる。
「ふがっ!?」
為す術なく心臓を貫かれ、そして同時に、呼吸も忘れるほどの倦怠感に襲われた。両足で立っていることすら困難になり、力なく全身が床へ倒れる。バタン! かなり大きな音と同時に、僕の意識はぶちりと途切れた。
いや、簡単なイタズラ兼実験のつもりだったんだけど、ここまでしてくるか。ルシェルちゃん恐ろしい子!
◆❖◇◇❖◆
「もう! このバカっ! アホ! 人が寝てんのになんてことするの!?」
「いやぁ、何かルシェルが話聞いてくれないから、やって欲しいのかなあって」
「んなわけないでしょーが!」
ぷりぷりと顔を赤くしている。今日は朝からフードを外していて、さっきからずっと僕を睨んでいる。うーん、怒ったルシェルちゃんも可愛い。
今は昨日と同じくウォールランドへ向けて歩いているところだ。予定では明日の昼前くらいに到着する。
「だって《青魔法》使いたいんだもん」
「ならそこら辺で試し打ちすれば良かったじゃん! なんで寝てるわたしに向けちゃうの!?」
いやごもとっともです、はい。
流石にやりすぎだったかもなって思い始めてます。けど反省はしてません。後悔もしてないです。
「……はぁ。まさかキミがこんな酷いことするとは思わなかったけど、意外とおちゃらけてるんだね」
「まあ真面目って訳では無いかな。堅苦しいのは苦手」
ふざけ合うのは好きだ。
イタズラするのはもっと好き。着いたあだ名はクソガキです。その名前で呼ばないでください。
「わたしも。それで、《青魔法》は使えそう?」
「使える、とは思うけどどれだけ効果があるのかわからない。魔法攻撃の威力を高めるには、どうすればいいの?」
「んー、威力をあげる、ねぇ………。単純に注ぎ込むMP量を上げるか、ステータスの奇蹟値を鍛えれば威力は上がるよ」
ほう、奇蹟値か。
そういえば最近はステータスを覗いてなかったな。なにか新しいスキルは発現したりしてるだろうか。ちょっと見てみよう。
| イストリット
種族:エルヒューマ 性別:男
レベル:5 HP:21 MP:19 SP:25
・器用:19
・屈強:7
・敏捷:17
・耐久:6
・奇蹟:11
・恢復:11
全体的に能力値が上がってるな。レベルも5まで上がってて、HPやMP、SPも上昇と。そして肝心の奇蹟値は、11か。
「11だね、奇蹟値」
「……あー、そっか、11ね。うーん、そっか」
「なになに? どした?」
「ううん。ステータス値ってのは、言わばその人の強さを数値化したものじゃない? だから、普通は人に教えないんだよ。だからちょっとビックリして」
あ、そっか。
考え無しに口に出しちゃったけど、個人情報なのか。しかも自分の強さを表す数値。そりゃ教えない方がいいに決まってる。
「ごめん、次から気をつける。それでこの奇蹟値11ってのはどんなもんなの? 同年代と比べて弱い? 平均くらい?」
「そうだな………わたしの奇蹟値は流石に言えないけど、それよりは一回りくらい低いかな。同年代だと、多分20前後かな」
うーん、半分か……。
ということは、やっぱり攻撃に使うことは出来なそうだな。というか元々、僕の想像だけど水系の魔法で敵を攻撃するイメージが湧かない。水鉄砲かな?
「うーん……《青魔法》」
瑠璃色の魔法陣から、水の玉が現れる。それはまるで、何かに吊るされているかのように僕の左手の上でぷかぷかと浮遊して、僕の意志通りに右へ行ったり左へ行ったり。
「ルシェルは創り出した光を、例えばどんな風に使ってるの?」
「そーだなぁ、まあ単純に矢とか槍みたいにして敵に飛ばしたり、剣の形にして握ったり、盾にしたり?」
ふむ。
矢とか槍の形にか。そんなに形に詳しい訳じゃないけど、まあイメージで言えば……こんなん?
「あ、そうそうそんな感じ!」
「これを飛ばすんだよね?」
「うん。わたしは単純に敵に向かって飛んでいく感じをイメージしてるけど、自分に合ったやり方でやってみて」
自分に合った、と言われてもな。別にコイツを飛ばすだけなら、簡単そうだけど。普通にこの矢が、僕の思い描いた軌道をものすごいスピードで飛んでいくだけだ。
あ、これって曲芸とか出来るんか? というか、敵に向かって進み始めてからも動かせるんか? ちょっとやってみよ。
「うーん、やっぱり攻撃には向いて無さそうだね。わたしの《白魔法》を見て体験したと思うけど、あれよりもかなり遅いでしょ?」
彼女の言うとおり、彼女が使う《白魔法》の遠距離攻撃より随分とゆっくりな速度だ。僕ですら彼女の《白魔法》を見切れたのだから、こんな攻撃など相当有利な場面でなければ当たるわけが無い。
「でも、魔法操作は上手いよ。今度は矢じゃなくて盾を作ってみて」
遠くへ飛んで行った矢を呼び戻し、一旦水の塊に戻してから大きな盾の形に組み立てる。想像するのは、2人分くらいが隠れられる大盾で、水をギュッと圧縮して耐久性を上げる、みたいな。
「んじゃ、《白魔法》」
出来上がったと思ったら、いきなり彼女が白い槍で水の盾を貫いた。いや、性格には貫こうとした、か。その槍は盾を貫通できず、粉々に砕け散って消滅した。
「ちょ!? びっくりした…っ!」
「おー、やっぱり魔力操作上手いねイスリ! 耐久性は十分にあるよ、この盾。戦闘でも、この盾を自在に操れるなら全然使えると思う」
「自在に操る、かぁ……」
戦闘中に魔法を使うのは、難しいのではないかと推測する。相手の攻撃を読み、回避し、反撃しながら、魔法を行使するのは簡単では無いはずだ。正確に魔法のイメージを固めないと不発になってしまうだろうし、敵に隙を晒してしまう。
「ま、そこはおいおいだね。わたしもまだまだ練習中だし、そう簡単に出来るものでもないと思う。時間はたっぷりあるんだし、じっくりいこうよ」
「……そだね。焦っても仕方ないし」
僕の目標はこの世界を楽しく堪能することだ。そしてその楽しく堪能の中に、魔法を極めるという項目も入っている。まだこの世界に来て1ヶ月そこらの子供が叶えられるわけが無いだろう。
うんうん、と納得して水の盾を見つめる。攻撃力は皆無かも知れないが、この《青魔法》は意外と面白そうだ。こんな風に考えようじゃないか、難しい方が達成したとき嬉しい、と。
僕の異世界ライフ。使い勝手の悪い《暗殺術》に攻撃に向かない《青魔法》。逆に言えば、攻撃特化の《暗殺術》に、支援特化の《青魔法》。コイツらはもしかして、お互いの短所を埋めるいいコンビかもしれない。
ふふん、中々面白そうじゃんか!
魔法の使い方を頭の中で構築していたところで、目の前には3人組の男が立っていた。それも僕らを見て、悪どい笑みを浮かべている。うーん、旅行客には見えないな。待ち構えてたのか?
「おうおう、お二人さん」
盗賊みたいだな。
見たところ、例の村を襲った盗賊と同じような紋章は見えないな。あの件とは関係ない、ただの盗賊か?
「俺らと出会っちまうなんて運が悪かったな。呪うなら自分らの運命を呪うといい。おいガキ、殺されたくなかったら、その腕当てと金目の物を置いてとっとと消えな」
お? 僕だけ?
というか僕は逃がしてくれるのか! あ、いやでもこの人腕当てを置いてけって言ってたな。うわ、どうしよ。この腕当て何故か外せないんだよ。
「女は、もうオレのもんだぜ。中々の上玉じゃねえか、コイツ。犯し尽くすのは当然として、俺の気分次第じゃ嫁にしてやらないこともねえ」
中々、という言葉で収まるのかはさておき、この人ルシェルにえっちなことする気だ。えっち好きなのかな。この盗賊の仕事(?)も、そういうことするためにしてんのか?
僕が何か言ってもこの場をややこしくするだけっぽいし、彼女の言葉に従おうじゃないか。もしここで『おっけー! よろしくねダーリン!』なんて言い出したら、僕は右手を置いて猛ダッシュするけど。
「………」
ルシェルと目が合った。
僕は、そっちに任せるよ、という意味を込めて一歩後ろに下がる。僕の意志を理解したのか、彼女は僕との視線を切って盗賊に目を向けた。
「いやだ、と言ったら?」
「はっ! 力ずくで奪い取るだけだ。別に断ってもいいんだぜ? 奪い取るのは得意分野でな」
高そうな宝石のネックレスやピアスをジャラジャラ音を立てるほど身につけてる。商人を襲ってるのか? だとしたら、言葉通り奪うのは得意そうだ。そして殺すのも。
いや、それとも本当に正規のやり方で購入したのかな。
「………」
ルシェルは黙ったままだ。
何かを見極めてるのかな。彼我の戦力差とか? 見たところ僕よりははるかに強そうですけれども。ルシェルさん、全員お願いしますよ?
「……うぅん、やっぱり無理。あなたのお嫁さんになんてなりたくない。だからお断りさせてもらうね」
「けっ! もうお前は、既にオレのもんなんだよ! お前がなんと言おうとな! お前ら2人の運命は、オレが奪った!」
いや、違ったみたいです。
何やら彼女は、目の前の男の嫁になったことを想像してたみたいですね。そして、どうやら彼は彼女のお眼鏡に叶わなかったようで。ドンマイ盗賊!
「悪く思うなよ、ガキ」
「───嘘だろっ!」
盗賊は、両手を腰へ移し何かを掴んだ。そしてそれを僕ら2人へ向けた。その茶色と黒の何かを目にした時、その正体に一瞬言葉を失う。
「死にな!」
爆音と共に、先端が火を噴いた。同時にオレンジ色の閃光が迸り、何かが射出された。
(銃だと!? この世界に!?)
頭で考えるよりも、速かった。
はんば無意識的に、身体を半身に逸らして首を僅かに捻る。時が過ぎるのがいつもよりゆっくりに感じた。何もかもが減速し、あたかも僕だけが時を超越し、加速したかのように。
そして次の瞬間、頬をオレンジの弾丸が掠めた。
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