道中と異世界と才能
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焼け落ちた村を出発し、丸2日が経った。その間に色々なことがあったから、簡単に説明していこうと思う。今現在はようやくたどり着いた途中の小さな村の宿屋で休息中だ。
この異世界にやって来てどれくらい経ったかは思い出せないが、この2日間は今までで1番新たな発見があった。たった2日の間で、僕は本当に異世界に来たんだと実感させらたな。
『ルシェルドさん、この変な花はなに?』
『これはシロモネミだね。嗅ぐと心を落ち着かせる匂いがするんだ。綺麗な花びらでしょ? よく装飾用に使われて、基本どこでも咲いてるよ』
僕がお花の知識に乏しいのもあるが、日本では見た事もないような真っ白のお花が咲いていた。5つの綺麗な花びらが特徴的で、花を近づけてみると、確かに心が落ち着くような安らかな匂いを放っていた。
『おぉ………む。あの動物は? リスみたいなやつ。いま木に登った』
『ゼッキョウネズミ、魔力を宿したリスの魔種だよ。危険を感じたら叫びながら逃げるんだ。あと、口が臭いのが特徴』
口が臭いリスか。
なんかキャラが濃いな。
パッと見は普通のリスだと思ったが、よく見たら額の部分に第3の目みたいな感じで紫の石が埋め込まれていた。
『……あ、ウサギ?』
『あれは普通のウサギだね。ここら辺は貴族の領地で、昔ここで鷹狩が流行ってたんだって。その標的としてウサギが野生で放たれてて、それが500年以上生活してるらしい』
ほぇー。無意識にそんな声を漏らしながら、20メートルくらい先にいるウサギを眺めてた。というかこの人、なんでも知ってるじゃん。
『《黒魔法》』
結局そのウサギは僕らの昼食として腹を満たさせてもらった。彼女がいきなり《黒魔法》を発動した時はビビったけど、この距離を一撃で仕留めたところを見てすげーと思った。
ルシェルドさんのあまりに手際のいいウサギ狩りや血抜き、解体などの刃物捌きに、僕は思わず彼女に聞いた。
『ルシェルドさんは、何かサバイバルの経験とかあるの? やけにこういうの手馴れてるなあと思って』
『んー、まあわたしも冒険者の端くれだからね。必要ないかなとは思ったけど、一応本で学んでおいたんだ。それに、パーティーにいた時もこういう経験あったし、わたしは戦闘に向いてなかったから進んでこういう雑用をこなしてた』
彼女の手さばきは見事の一言だった。無駄な動作が1つもなく、素早く洗練されていて手際がいい。僕もこんなこと出来るようになりたいなと、ぼんやり考えていた。
ウサギを調理して食べていると、色とりどりの鳥たちが僕らの上をぐるぐると飛び回りはじめた。赤青黄色とカラフルな鳥たちに見とれてみると、隣からため息が聞こえる。
『随分嫌そうな顔。鳥きらい?』
『いや、別に嫌いってわけじゃないんだけどね。ちょっと嫌な思い出があるみたいな? 寝てる時に顔に糞を落とされたことがあって』
『顔に糞を? そりゃ災難だったね』
『まったくだよ。幸いメンバーにはバレなかったけど、めちゃくちゃ気色悪かったね』
その時のことを思い出したのか、顔を顰めながら鳥たちを見上げる彼女。また大きなため息をつくと、小さな声で呟いた。
『……あの時のクソ鳥、見つけたら全ての羽を毟りとって姿焼きにしてやる』
『………お、おぉ』
小さい声だったので言葉の節々しか聞き取れなかったが、それでも大変なことを言ってるんだろうなと容易に想像できた。そして、彼女が意外と言葉遣いが荒い一面も垣間見えた。
そして食事を終え僕らはただひたすらに道を進み続けた。道中は会話も少なく、僕も初めて見る植物や動物を見てワクワクしながら、ハトのように顔と目をキョロキョロさせていた。
『なんか四角い石がある』
『ん? この標石?』
『ひょうせき……?』
『知らないの? 目印だよ、どっちがどっち方面か書いてあるでしょ?』
彼女が指さしたところをよく見てみれば、なにやら矢印と文字が書かれている。『ウォールランド』だって。僕らの目的地だ。でも残り何キロかは書いてない。これを彫ったやつは不親切らしい。
『ウォールランド……あとどれくらい?』
『いやいやいや、まだ全然だよ。半日しか歩いてないじゃん。このペースで行けば、あと3日はかかるよ』
『おぉ………』
『まぁ頑張ろ? なんか適当にしゃべりながら歩けば、きっとすぐ着くよ』
まあ、そんな感じで適当にしゃべりながら永遠と続く同じ景色を見ながら歩いて歩いて歩き続け、その日は野宿をした。初めての野宿だったこともあり、ワクワクした気持ちを抑えきれずなかなか寝付けなかった。次の朝に彼女に叩き起されたのは言うまでもない。
2日目、すなわち今日の朝は最悪の目覚めだった。まず背中が痛すぎる。土の地面を舐めていた。まさかこんなに痛くなるとは。改めてベッドのありがたさが身に染みた。
『随分痛そうだね』
『いや、まじで痛い。そっちは平気なの?』
『もう慣れちゃったよ。硬い地面で寝るのは嫌いだけどね』
たしかに、冒険者は3ヶ月も続ければ野宿の機会も増えるだろうし、そりゃ慣れてしまうよな。僕としてはそんな生活は御免だが、それはそれで異世界味があっていい。
『今日はちょっと歩くペースを上げよっか』
そう言うと、彼女は昨日よりややはやい速度で歩き始めた。追いつけないほどでは無いが、この速さで一日中歩くのはちょっと足にくるかもしれない。しかしそんな心配はまるで関係ないとばかりに、彼女はズンズンと前へ進む。
道の途中で、黒いオオカミと遭遇した。計2体で、片方は彼女が一瞬で倒したが、もう一体は僕が相手をすることになった。なんで? と疑問に思うまでもなく、オオカミが襲いかかってくる。
腕当てを半剣の形にして討伐したが、当然彼女より時間がかかってしまう。ぼくも遠距離の攻撃手段が欲しいなぁ、と彼女と話していた。
思えば、今日は戦闘が多かった気がするな。そのオオカミの件も含めて5回あった。2回オオカミ、2回山賊、1回イノシシだ。4回目の山賊と戦った時が1番疲れたな。とは言ってもルシェルが強すぎて、僕はほとんど何もしなかったけど。
『ルシェルって、やっぱり強いね』
『そうかなあ』
ちなみにルシェルとは、彼女の愛称だ。一日目の夜に、そう呼んでくれと頼まれた。特に断る理由もなかったので、普通に了解と答えた。2日目に入れば、昨日かなり喋ったことで僕らの間に気まずい空気はほとんど流れなくなり、僅かな沈黙も、苦しいものではなくなっていた。
『その剣術、誰かに教えてもらったり?』
『全然。この《才能》が発現したのもほんの少し前だし。わたしの思うがままに剣を振り回してるだけだよ』
やはり《剣術》の才能は相当強力だな。誰かに教えてもらわなくても、既に体の動かし方を知ってるみたいだ。正直この《才能》だけで生きていけそうで、僕のもつ《暗殺術》と比べてしまう。
『この《才能》って、全部で何種類くらいあるの? 20くらい?』
『いやいや、何百とあるよ。有名なものから、比較的マイナーなものもね。しかもどんどん新しいものが発見されてるっぽいし』
『へぇー。詳しく教えて』
『ん。今確認されてる中で人が持てる最多の《才能》の数は6つで、恐らくそれが最大値って言われてるね。それで、有名なやつだと《剣術》とか《魔法》とかね。もちろん戦闘系以外のも山ほどあって、《料理》に《裁縫》、《整体》、《筆記》。面白いものだと、《飲酒》とか《話術》とか《計略》、《幸運》なんてのもあるよ』
こう聞けば、本当にファンタジー系のRPGみたいだな。せっかくこういう世界に来たんなら、僕も《暗殺術》じゃなくてもっとかっこいいものが良かった。
『それを調べる方法とかある?』
『あー、それはね……。大体の場合は、何らかの出来事が引き金になって目に見えるように発現するけど、色々と特別なことも多くてね。なんとも言えないかなぁ』
彼女の場合なら、裏切られて死にそうになった、ということか。じゃあ僕も死にそうになったら新しく《才能》が発現してくれるだろうか。是非とも《魔法》というものを使ってみたい。
『そっか。いや僕さ、魔法使ってみたいんだよね、1回は』
『あはは……魔法系は珍しい部類に入るから、なかなか持つ人は少ないんだ。けどその分すごく強力でね。ウォールランドの更に向こう、名前は忘れたけど何とかって大都市に魔法大学があるんだよ』
魔法大学……!!
素晴らしい響きだ。魔法専門の研究機関だろうか。かっこいい、あまりにもかっこいい! 是非とも1度は中を見せて欲しい! そう心から思った。
僕はその後、もう少し深く彼女に魔法のことを聞いた。すると彼女は、魔法は教えられないけど魔力の使い方なら教えてあげられる、と言った。魔力という単語にとんでもない魅力を感じた僕は、お願いしますと頭を下げて教えてもらうことにした。
『とは言っても、普通に魔力の流れを感じ取って一点に集めるだけだけどね。わたしがキミに放った《破城槌》覚えてる?』
『あの一瞬足が光るやつ?』
『うん。あれは《剣術》のスキルで、腕や足に魔力を流すことで威力を増大させるものなんだ。キミの戦闘系の《才能》は……っと、ごめん。《才能》を聞くのはマナー違反だね』
聞くことはマナー違反なのか。
彼女に軽々しく色々聞いちゃったけど、まずかったのかな。まいっか、気にしてる素振りはなかったし。
『聞いてはいけないものなの? 個人の《才能》って』
『そりゃ自分の武器だからね。態々教えたりしたら対策されちゃうし、自ら手の内は晒さないでしょ』
『あー、なるほど………』
そんなのもあるんだー。
情報って大切なのね。じゃあ僕も教えない方がいいのかな。いやでも、ルシェルは僕に教えてくれたもんな。これで僕だけが何も言わないってのは筋が通らない、かな?
『《暗殺術》ってヤツ。今のところそれしか持ってないな』
『あー、《暗殺術》かぁ………いっちゃわるいけど、使い勝手があまり良くないって聞くね』
『えっ? それはどんな風に悪いの? もしかしてハズレひいた?』
だとしたら結構ショックなんだが。《縮地》に関しては気に入ってるし、ようやく慣れてきたところなのに。
『いや、ハズレとまではいかないと思うけど……簡単に言えば《斥候》の便利系スキルを戦闘系と交換した感じみたいだよ。本によればね』
便利系スキルを戦闘系と交換とな。
いや、僕RPGなんかに詳しくないから、《斥候》と言われても何も分からないぞ。
『ふーん。それで、例の《破城槌》は覚えられるの?』
『うん。確か体術も《暗殺術》のスキルにあったはずだから、学んでおいて損は無いよ』
ま、当たり前か。
名前からしてバチバチの戦闘系だし、戦う術を覚えて損をこくことは無いだろう。僕は何としても魔力の操作を、引いては《破城槌》の習得を誓うのだった。しかしながら、僕のそんな決意はすぐさま忘れ去られることになる。まさかこんなことになるとは思わなかった。
『それじゃあ、まずは目を瞑って。それから左手を出して、リンゴを握るみたいな感じで軽く力を込めてみて?』
くーっ! 今から魔力を体験するのか。いや、待ちきれないなっ。僕も日本じゃただの男子だ。魔法を駆使して世界を救う妄想をしたのも、1度や2度ではない。魔法に関しての妄想とイメージなら任せて欲しい!
『よし。ならよーくその左腕に意識を集中して、腕の中を流れるナニカを感じ取って』
ふむふむ。腕の中に流れるナニカ………感じ取れということは、つまり想像しろということだ。腕の中に流れるものと言えば、血液。よし、血液がぐるぐると循環して身体中を回るイメージだ。
『そして、その腕に流れるナニカを、リンゴに思いっきり集めるの。リンゴ一点に向けて、思いっきり』
『………っ』
リンゴに集める、なるほど。
腕に通る血管と、その中をドロドロと流れる血液。それがまるで管を通して左手に持つリンゴへ注入されるように。そんな情景を思い浮かべ、グッと力を込めた。
『いい、いいよその調子!』
『むむむむ………っ!』
左手の末端が冷たくなるような感覚と共に、献血のように血液が抜き取られた感覚に陥った。しかしそれでも、僕は頭の中でドバドバと血液をリンゴへ流し続ける。
『お、おおお……っ!? ちょ、ちょっと………ちょちょちょ! イスリ!』
ルシェルの慌てた声が聞こえた。
不意に、頭の中で機械質な声が響く。『《青魔法》が発現しました』と。バチン! と全身に雷に打たれたような鋭い衝撃が走った。僕は本能に従うように目を見開き、そして静かに叫ぶ。
『イスリ、今すぐに───』
『───《青魔法》』
その単語を、僕は生まれて初めて聞いた。絶対に聞いたことは無かったはずだ。なのにまるで、本能的に身体が覚えていたかの如く、口が勝手に動いた。そして同時に、左手に集まった紫の塊が水へと姿を変え、前方へ投射される。
『………キミ、魔法使えたんだ』
『いや、いま発現したんだ』
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