隣村へとお出かけと
「なるほどな。お前の『才能』が『暗殺術』だからか。なるほどな、確かに『暗殺術』なら闇雲に正面戦闘の練習をするより防御のやり方を習った方がお前のためになる」
教官に防御の目的と、何故それを学びたいのかを説明した。すると教官も、変に頑固ではなかったらしく素直に僕の言うことに頷いた。よしよし、分かってれたようで何よりだ。
「よろしい。ならば今日から防御とカウンターの訓練にしよう。それに、丁度そろそろ守りの方も教えたいと思ってたところだ」
お、ホントか。
いや、当然と言えば当然かもしれない。単純に剣を振るだけじゃ戦いに勝てるわけないからな。
耐久のステータスが低い以上、この防御を崩されるわけにはいかない。しっかり学ばないとな。それに筋力と器用、敏捷値的にも剣を振るより防御の方ができるはずだ。これらの能力値を信じようではないか。
「防御のやり方は、千差万別十人十色。何千何万、いや何億通り以上、人の数だけやり方がある。防御のコツと言えば、はやく慣れて自分のスタイルを見つけることだ。さあいくぞ」
早速木刀を構える教官に、こちらも木刀を握り相対する。
ちなみにこの防御、僕の剣道現役時代の得意技(?)である。相手の竹刀の動きを予測して、そこに自分のを持っていく。眼球がしっかりと仕事をしてくれるならば、誰でも出来る簡単作業だった。
「はぁぁあ!」
「うっ! 重た……!」
横薙ぎに迫り来る木刀を木刀の腹で受け止め、衝撃を受け流すように腕をしならせる。
うーん、ハッキリ言ってめちゃくちゃ速いな。けど、見えないほどじゃない。僕の腕が悲鳴をあげるまでなら、ちゃんと受け止められそうだ。
「まだまだ!」
「ふんっ!」
物凄いスピードで迫り来る木刀を必死に目で追いながら食らいつく。お互いの木刀がミシミシと音を立て、腕全体に鋭い衝撃が迸る。
「なかなか上手いぞ、その調子だ。受け止める意識ではなく、受け流す意識でやるといい。相手からの力を利用しろ」
いまの教官が何割の力で戦っているのかは定かでは無いが、少なくとも今の力なら守り切るのは容易だな。しかし問題はこの後、カウンターだ。
カンっカンっカンっ。
子気味いい音が辺りに響く。うーん、こう言う音は個人的にかなり好きだ。教官からの攻撃も単純なものではなく、フェイントや時間差攻撃もあることから、リズムは酷く乱れている。だが、この崩れているリズムがまたいい。絶妙な気持ち悪さがよいスパイスだ。
「さあ、反撃してこい。いつまでも守ってばかりでは勝てないぞ」
そうは言ってもな。
教官の連撃は恐ろしく隙がない。やや強引に隙を作ろうにも、その間に速攻かれてやられてしまう。どうしたものか。
「っと、あぶなっ───あがっ!?」
フェイントに引っかかってしまった。左からの攻撃を受け流そうと剣を捻ったが、斬撃はいつまで経っても放たれず、変わりに胸を狙った突きが来た。バックステップで躱すが、一瞬だけ体のバランスが崩れ硬直する。その隙を見逃さず、蹴りを放つ教官。
「ぐお、おおおお……!」
地面に踞る僕。
「ふむ、見事な体捌きだ。今の刺突を躱すとは。バックステップの判断と勢いも良かったが、下がった瞬間に余裕と油断があった。避けられて一瞬気が抜けたんだろうが、それが敗北に繋がる。常に敵へ気を配れ。そして考え続けろ」
(痛すぎるんですけど……)
ちょっと待って、話が入ってこない。めちゃくちゃお腹痛いんですけど。何この人、靴の裏底に鉄板でも仕込んでるのか。おい、ガチで痛いぞ……。
「腹筋も鍛えておくんだな。今の蹴り、当たり所は良かったがそこまで力は込めてないぞ」
当たり所がいいだけでこんなに痛いのかよ。痛すぎて起き上がれないぞ。骨折れてるんじゃないだろうな。
「さあ立て、小僧。続きだ」
さも当たり前かのように平然としている。この教官鬼畜すぎる……! 日本でやったら訴えるじゃすまないな。痛むお腹に喝を入れて起き上がり、剣を構え直す。
「さあいくぞ!」
クソ、ガチでいてえ。
こうなったら、僕もこの人の腹に1発蹴り入れてやる。簡単じゃないだろうが、絶対に決めてやる。今は無理だろうが、いつかは出来るだろう。この痛み、味あわせてやる。
◆❖◇◇❖◆
「《縮地》」
超高速の移動スキル。人間が耐えうる最高速へと一瞬で加速し、そして一瞬で減速する。ステップ移動を進化させたようなアクティブスキルだ。
移動可能な最長距離は5メートルってところか。咄嗟に距離をとったり死角へ回ったりと、中々使い勝手がいい。その上、スキルを使った後の硬直がなくラグ無しで次の動きに移行できる。2回まで連続で使用できるのも高評価だ。
「あ、当たらん……っ!」
教官の苛立ちの声が聞こえてくる。《縮地》を取得してから1週間が経ち、このスキルの使い方を覚え戦いに取り入れてから、戦闘の幅をかなり広げられた。防御の質もあげることが出来た上に、筋トレやランニングなどの効果もで初めて、段々と体全体が思い通りに動いてくれる。元々このイストリット君の体が柔軟性に優れていたこともあり、しなやかに手足を動かすことが可能だ。
「ほっ、はっ、よっと」
うーん、素晴らしいな。
冗談半分で言うけど、これは才能あるのでは無いか? 教官の振るう木刀が鮮明に目に映る。日本にいた時は気にしたことがなかったが、動体視力がそこそこ良いっぽい。受け流したり、躱したりするのがかなり簡単になっている。
「ふんっ!」
来た、大振りの縦斬り。
この攻撃を待っていたんだ。
剣を横に受け止めると同時に、その力を利用するように滑らかに手首を返す。そして剣の腹を滑らせるように木刀を受け流すと、そのまま手首をくるっと回転させ、コンパクトに木刀を打ち込んだ。
「ぐっ!」
危険防止のために頭は狙わなかったが、肩へと木刀は命中した。何とも言えない独特の感触が手に伝わる。木刀だとこのレベルの攻撃だと少し痛いくらいだが、真剣でやるとどうなるのだろうか。試す機会は無いだろうけど。
「素晴らしい、見事だ小僧」
「ありがとうございます」
《縮地》を習得してから、教官と互角の戦いができている。うーん、自らの成長を感じる。訓練を初めてすぐは、こりゃ、勝てないだろうと思っていたが、意外といけるもんだな。
「防御やカウンターについては、天性のものがあるな。1週間でここまで出来るとは思っていなかった」
「そ、そうですか」
よせやい、照れる照れる。
でもよく考えてみれば、別にこれくらいは普通だろう。教官が言うのは、僕の斬撃は12歳レベルらしいし、多分この防御もその辺だ。つまり今、僕は13歳の中学1年生と戦えば負けるということ。
なんか悲しくなってきた。
「よし、ならば次のステップだ。来週から、より実戦的な戦い方を教える。戦いの心構えや意識の置き方、戦術なんかを教えるからそのつもりで」
「はい」
より実戦的か、どんなものだろうか。今のままでは13歳に負けるレベルだ。流石に恥ずかしいから、少しでも強くなりたいところ。まだまだ頑張ろうじゃないか。13歳に勝てるように。
「今日の訓練は終わりにしよう。そして、明日は休養日だ。ゆっくり体を休めるように、と言いたいところだがな。小僧にお使いを頼みたい」
え………?
いやですけど。
「お使い?」
明日休みなんじゃないの?
「うむ。隣の村まで行って、買ってきてもらいたいものがある。本当は俺が行く予定だったんだが、急用が入ってな」
はぁ。うーん、そうだなあ。
教官が休む目的で僕にパシリを頼むならまだしも、彼も行けない理由があるのなら、まあ………いっか。お世話になってるし。
「はぁ。構いませんよ」
「悪いな。お礼と言っちゃなんだが、報酬として余った金はやろう」
お、なんだお金が出るのか。
おいおい先に言ってくれよ、それなら僕も気持ちよく承諾したのに。隣村までのお使いだろ? お易い御用だ。
「なら、後で必要なものが書かれたリストを渡す。隣村まで道1本だから、迷うことは無いだろう。ついでに、名物の海鮮でも食べてるといい」
おお、海鮮か。
それは期待大だ、この世界に来てから肉と野菜しか食べてなくて、お魚が恋しくなってきたところだった。ますます楽しみじゃないか。
そして次の日。
清々しい朝だ、雲ひとつない。いや、大嘘吐いた。全然雨が降ってて、風もある。薄暗い雲が空を覆っている、クソ寒い。まさに僕のお使い日和ってか。
ドアの隣にあるコートを拝借して、外へ出る。どうにも傘がないらしいからね、この世界は。
いってきまーす。
誰にも聞こえないような小さい声で呟き、静かに家を出る。時刻は7時。隣村まで徒歩1時間だそうだ。早く行って向こうで海鮮の朝ごはんを食べて、はやく帰ろう。休日はゴロゴロしたい。
朝7時と言えば、普通の人なら家で朝ごはんでも食べている時刻だと思うのだが、この世界の人々は随分と活動的だ。市場は悪天候にも関わらず活気に溢れ、街抜く人々は両手に美味しそうな食べ物や新鮮な食材を抱えている。
今日は村共通の休養日。せっかくの休みの上にクソ寒いのだから遅くまでベッドでダラダラしていればいいのに、なぜこんなに外へ出るのが好きなのだろう。雨降ってんだぞ。
「隣の村は、こっちか」
地図を片手に目印を辿り村の南出口へ向かう。ちょうど僕がこの村へ入った反対側の門だ。衛兵に滞在手帳を渡して木の門を開けてもらう。手帳を渡すのはぶっちゃけくそ面倒だけど、こうしてもらわないと扉を開けてもらえないのだ。
「ありがとうございます」
「はい。気をつけて」
短い挨拶を交わして村の外へと足を踏み出した。1歩外へ出たら、道横の草木がボーボーで道路も簡単な舗装しかされてない。昨夜から雨が降り続けているからか、ところどころに水たまりがあった。
特に見応えのない景色が永遠と続き、そろそろ歩くのに飽き始めたところ。ぬかるんでいる地面が鬱陶しいったら無い。
(………あ、馬だ)
全然人とすれ違わないなと思っていたが、馬車が2台連なって元いた村の方へ向かってこちらへ走ってきていた。道の端っこに寄って足を止める。2匹の馬を操る御者さんと目が合い、軽く会釈をして横を通り過ぎていく。
日本だと馬車は軽車両だが、この世界だと最高の馬力と防御力を誇る大型自動車だ。いや大特か? まあいい。というかこの世界に免許とか資格とかの概念あるのかね。
馬が作り出した足跡を靴で上書きしながら、ずんずんと進んでいく。僕も馬に乗って速く移動したいけど、馬の運転(?)経験はない。異世界といえば、幻の魔法生物が沢山いて、手なずけたり従属させたりして背に乗せて貰えるなんてことがよくあると思うんだけど。ドラゴンとかさ。僕は未だ見たことがない。
「………ん?」
おお、久しぶりの人間だ。
子供だろうか、僕と同じくらいの背丈で、ボロっボロの頭巾を被っている。頭巾っちゅうか、ボロボロの布で作ったデカいフードみたいな。
傍から見たら、ただの不審者だ。これも異世界あるあるなのか? こういう変なファッションセンスは。
「………」
こわいこわいこわい。
何か一瞬だけ目が合った気がする。見たところ武装はしてないみたいだ。見た目的に冒険者っぽいけどな。護衛も付けてないから商人さんでもないだろうし。ただの暇人さんかな。
って、なんか雨脚が強くなってるじゃん。しかも雲もどんどん厚くなってるし。こりゃちょっと急いだ方がいいかもしれない。僕はズッコケないように気をつけながら、足を動かす速度を上げた。
できるだけ早く着きたいな。服も濡れそうだし、汗もかいてきた。早くサッパリしたいし、何より腹も減った。待ってろよ海鮮!
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