聖なる夜の深夜残業 ~サンタコスとケツダイナマイト~
聖なる夜でもお構いなしに、俺は深夜のオフィスでご機嫌斜めなパソコン様に向かっていた。
「終わらねぇ!! 仕事が終わらねぇ……!!」
本来なら定時退社を決め込んでお気に入りのメイドカフェでクリスマスイベントに興じる予定だったのだが、いきなり課長に仕事を押しつけられ、俺は泣く泣く残業せざるを得なかったのだ。
時刻は既に23時。世の中のリア充様達は、既にベッドインして激しく上下していることだろう。何もしてないのに賢者モードになってしまえ!
世の中の有りと有らゆるつがいを怨めしく思い、俺は課長のデスクを見た。
「さっきから席外してどこ行ったんだ、あの疫病神は……!!」
皆が逃げるように帰る中、俺と課長だけがオフィスに取り残され、20時を過ぎた辺りから二人きりとなっていた。
──ガチャ
「お疲れ」
「あ、お疲れ様──って何ですかそれは!?!?」
オフィスのドアを開け現れたのは、サンタコスの課長だった。
「メリークリスマス」
「あ、メリークリスマスです……?」
課長は肩出し系のコスプレを呈しており、胸もそれなりに露出していた。地球で例えるなら赤道の少し上辺りまで見えていた。
(普段気にならなかったが、乳がデカい……だと!?)
サンタコスがどうこうより、いきなり目の前に現れたロシアとアメリカ大陸は、俺の動きを完全に停止させ、目の前のパソコンから鳴るエラー音が耳に入らぬほどに注意を引いていた。
「仕事、終わりそうかな?」
「えっ? あ、終わ……終わりたいです」
進捗より願望が先に飛び立ち、課長は「ハハ、だよね」と苦笑した。そしてデスクに座る間際、ロシアとアメリカ大陸の合間にあるベーリング海がチラリと美しい波間を見せ、俺の脳にイルカが跳ねる〇ッセンの版画が過った。
「その仕事が終わったら、話があるんだ」
「三分で終わらせます!!」
同僚達から貰った免罪符代わりの栄養ドリンクを全て一気に飲み、俺は目の前のモンスターと対峙した。
「課長、終わりました」
結局俺はあれから一時間程掛かってしまい、気が付けば日付が変わっていた。
課長のデスクに目をやると、課長はコックリコックリとうたた寝をしており、首が動く度にロシアとアメリカが俺に冷戦を仕掛けていた。
(このまま眺めているのも悪くはないかな……)
頭の中でバンダナを巻いたトレジャーハンターが悪い笑みを浮かべていたが、肩を出して寒そうだなと、上着を持ち少し近づくと、課長がハッと起きてしまった。
「うあ! あ……ゴメン、寝てしまってたか……」
「いえ、すみません。今終わりました」
「そうか、ありがとう。いつも遅くまで残らせてしまってすまない……」
課長が急にしおらしくなる。珍しい事もあるもんだなと、世にも珍しい課長のサンタコスを眺めながら考えた。
「あまり見ないでくれ。恥ずかしいんだぞ……」
両手をクロスさせて体を隠す仕草に、一瞬思考が停止した。普段は怒り狂って喚いている女課長が、今日は妙に可愛らしく見える。アレか? サンタコスマジックか?
「ところで、話ってなんですか?」
「あ、ああ……」
自分を落ち着かせながら課長の言葉を待った。課長はデスクの脇から白い布袋を取り出し、中を開けた。その間にもロシアとアメリカは小刻みに揺れており、著しい冷戦を仕掛けてくるのであった。
「これをどう思う?」
袋から現れたのは、手のひらサイズの小さな箱、ケーキとチキン。そして導火線の付いた細長い筒。俺の記憶が間違いなければ、ドンパチ映画でよく見るダイナマイトってやつだ。こないだ手話ちゃんが素手で投げてたし。
「あー……箱とケーキとチキンと、ダイナマイトですか?」
「そうだ」
俺の疑問に冷静に答える課長が胸の所で腕を組むと、北太平洋の大海原が僅かに垣間見えた。豪華客船に乗った独特の髪型の男が、赤いミサイルボタンを指差しながら俺に向かって手を振っているが、栄養ドリンクで目が冴えている俺はまだ大丈夫だ。
「これはな、私からのクリスマスプレゼントだ」
ケーキとチキンを紙皿に取り分け差し出す課長。俺はそれを受け取ると腹の虫が「go to eat!」と泣き叫び、耐えきれなくなった俺は思いきり食らい付いた。
ダイナマイトから目を背け、俺は小さな箱を眺めた。クリスマス用に赤い包装紙と緑のリボンで可愛らしく包装されており、課長が包みを開けると、宝石の類いが入っていそうな感触の箱が現れた。
──パカッ
中は指輪だった。オフィスの蛍光灯を反射してダイヤモンドが眩しく光っており、俺はその眩しさに一瞬目が眩んだ。
「私と結婚するかココでダイナマイトで果てるか。選べ」
急に課長の圧が強くなり、俺はチキンを一口囓った。
「言っておくが、私は今年で35だ……もう後先考えられるほど若くない。いいな!!」
「は、はひぃ!!」
課長の怒鳴り声に変な声が漏れてしまい情け無い子犬のようになってしまった。
「ああ、すまない。こんなに怯えてしまって……。良いんだ、私と結婚して幸せな家庭を築こうじゃないか! ケーキを食べながら目の前のサンタを今すぐメチャクチャにして良いんだぞ!?」
サンタコスの境目に手をかけ、南半球を覆うぶ厚いオゾン層を引き剥がそうとする課長に、俺は生唾を飲んでしまった。独特の髪型の男がミサイルボタンを連打し、〇ッセンが笑顔で親指を立てている。
普段は出向と土下座と不正に塗れているこのオフィスも、今はエロと食欲とダイナマイトの三大欲求に塗り替えられていた。
しかし、一時の情念で押し切るほど、俺は女に困ってはいない……!!
何より、俺が好きなのは庶務課に居る一つ年下のぽっちゃりプリティウーマンなのだ!!
「……その顔はどういう事かな?」
チキンを頬張り、俺の賢者モードを悟った課長が、ワナワナと怒りを露わにしながら席を立った。
「やはりいつもチラチラと見ているあの女か……!!」
「ゲ!! 見てるとこを見られてたのか!?」
「私が知らないとでも……」
気迫に満ちた課長の顔が少しずつ近づいて来る。しかし俺は体が熱くなり始め、不思議と課長の魅力に惹かれつつあったのだ。
「ククク、そろそろ効いてくるころだろう」
「──!?」
「お前が飲んだ栄養ドリンクには、南アマゾンの奥地で取れるけど実は通販で気軽に買える超超超!強力な精力剤が混入してあるのだ! 穴があったら入れたくなる程に効くというから、既にお前は私から逃げることが出来ない筈だ!!」
「グ……確かに体が熱い……!!」
体が火照り、課長を見る目が急激に変わってゆく。
「穴に……! 穴に入れたい!!」
そして俺の理性は限界を迎えた!!
「うおおおお!!!!」
俺はダイナマイトを手にし、ケーキのロウソクから導火線に火を点けた。そしてそれを自らのケツに押し込み、激しくその場駆け足をして勢い良く窓ガラスを突き破り外へと飛び降りた!!
「しまった! キチガイだったか!?」
地上三階から飛び降りた俺は、ケツから鳴る強烈な破裂音とカラフルなテープに包まれ、無事に地面に不時着した。
──ボギィッッ!!
「あ゛あ゛……!!!!」
声にならない声が俺の喉から発せられ、そのまま俺は救急車で運ばれた。
両手両足を骨折した俺は、そのまま入院となった。
「はーい、検診でーす」
ナースコスの課長が現れ、俺の顔やら体を突き、ギプスに相合い傘を落書きしている。退院したら、俺は課長と結婚する。
決め手は入院中に課長が作ってくれた青椒肉絲。すっかり胃袋を掌握された俺は、もう課長無しでは生きていいけない。
机に置かれた指輪が小さく光る。早く治してはめてみたいぜ。
読んで頂きましてありがとうございました!
(*´д`*)




