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佐久間勉

 佐久間勉大尉は帝國海軍潜水艇の艇長でした。

 福井県三方郡出身の佐久間艇長は海軍兵学校を明治三十三年に卒業し、二年後には少尉に昇進して日露戦争を迎えます。

 装甲巡洋艦「吾妻」(第二艦隊)に勤務していた頃は蔚山海戦に参加、翌年の日本海海戦では防護巡洋艦「笠置」(第一艦隊)に乗艦していました。

 日露戦争の後は水雷艇乗りとなります。

 明治時代の水雷艇は機雷敷設を主な任務で、後年の魚雷攻撃を行う水雷艇とは性格が違います。

 水雷母艦「韓崎」に勤務して、第1潜水艇隊艇長、第4号潜水艇長、第1艦隊参謀、「春風」駆逐艦長、巡洋艦「対馬」分隊長を歴任して、明治三十八年に第六潜水艇隊(森電三艇長)の副長、二年後には艇長に昇格しました。

 明治四十二年四月十五日、第六潜水艇は岩国を出航し、訓練のため広島湾へ向います。訓練はガソリンエンジンの煙突を海面上に突き出して潜航運転するもので、安全上の配慮から禁止されていました。

 佐久間艇長はその禁止されている訓練を開始し、潜航深度を何らかの理由で誤って煙突の長さ以上に艇体が潜航したために浸水が発生。本来なら浸水を防ぐ閉鎖機構があるのですが、閉鎖機構は故障しており、手動で閉鎖する間に17メートルの海底に着底しました。

 第六潜水艇は日頃から母船「歴山丸」との申し合わせを無視しがちで、申し合わせよりも長時間の潜航訓練を行っていたため、当初は浮上してこないことも異常と思われませんでした。

 異常に気付いた母艦からの要請で救助活動が行われましたが、引き揚げられたのは翌日、或いは翌々日と言われています。

 佐久間艇長はこの遭難事故の様子を克明に記録し、後世の役に立つよう配慮しています。この記録は後書きに添付します。


 この遭難事故より先にイタリア海軍で似たような沈没事故があった際、乗員が脱出用のハッチから他人より先に脱出しようとして乱闘をしたままに折り重なって死んでいる醜態を晒していたため、帝国海軍関係者も最初は醜態を晒していることを心配していました。

 ところが佐久間艇長麾下の第六潜水艇では、ほとんどの乗員は配置についたまま殉職、さらに佐久間艇長は事故原因や潜水艦の将来、乗員遺族への配慮に関する遺書を認めていたため、これが「潜水艦乗組員かくあるべし」「沈勇」ということで、修身の教科書や軍歌として広く取り上げられます。

 現在でも、命日には世界の海軍関係者が佐久間艇長を讃える式典を開催するほどです。

 我が国では佐久間艇長の実家である前川神社(若狭町)に祀られて、毎年式典が執行されています。

 

 第六潜水艇はこの事故の後も運用され、大正九年に退役後は六號艇神社として呉(広島県)に保存されていましたが、二次大戦後にGHQの命令で解体されています。


 戦後の我々日本人は、戦前の軍人について全く教わりませんが、国際社会では軍人を軽視する姿勢は軽蔑の対象です。

 戦争は良くありません。

 けれども国際社会で評価されている軍人さんには敬意を持っても良いと思います。この考えが軍国主義ならば、国連加盟国の全ては軍国主義です。

小官の不注意により

陛下の艇を沈め

部下を殺す、

誠に申し訳なし、


されど艇員一同、

死に至るまで

皆よくその職を守り

沈着に事をしょせり


我れ等は国家のため

職に倒れ死といえども

ただただ遺憾とする所は

天下の士は

これの誤りもって

将来潜水艇の発展に

打撃をあたうるに至らざるやを

憂うるにあり、


願わくば諸君益々勉励もって

この誤解なく

将来潜水艇の発展研究に

全力を尽くされん事を

さすれば

我ら等一つも

遺憾とするところなし、


沈没の原因

ガソリン潜航の際

過度探入せしため

スルイスバルブを

締めんとせしも

途中チエン切れ

よって手にて之を閉めたるも後れ

後部に満水せり

約二十五度の傾斜にて沈降せり



沈据後の状況

一、傾斜約仰角十三度位

一、配電盤つかりたるため電灯消え

電纜燃え悪ガスを発生

呼吸に困難を感ぜり、


十四日午前十時頃沈没す、

この悪ガスの下に

手動ポンプにて排水につとむ、


一、沈下と共にメインタンクを

排水せり

灯り消えゲージ見えざるども

メインタンクは

排水し終われるものと認む


電流は全く使用するにあたわず、

電液は溢れるも少々、

海水は入らず

クロリンガス発生せず、

残気は五百ポンド位なり、

ただただ頼む所は

手動ポンプあるのみ、


ツリムは安全のため

ヨビ浮量六百

モーターの時は二百位とせり、


右十一時四十五分

司令塔の灯りにて記す


溢入の水に浸され

乗員大部衣湿ふ寒冷を感ず、

余は常に潜水艇員は

沈着細心の注意を要すると共に

大胆に行動せざれば

その発展を望むべからず、

細心の余り

萎縮せざらん事を戒めたり、

世の人はこの失敗を以て

あるいは嘲笑するものあらん、

されど我は前言の誤りなきを確信す、


一、司令塔の深度は五十二を示し、

排水に努めども

十二時までは底止して動かず、

この辺深度は十尋位なれば

正しきものならん、


一、潜水艇員士卒は

抜群中の抜群者より採用するを要す、

かかるときに困る故、

幸い本艇員は皆良くその職を

尽くせり、満足に思う、


我は常に家を出ずれば死を期す、

されば遺言状は既に

「カラサキ」引き出しの中にあり


(これ但し私事に関する事を言う必要なし、田口浅見兄よ之を愚父に致されよ)


公遺言

謹んで陛下に申す、

我が部下の遺族をして

窮するもの無からしめ給わらん事を、

我が念頭に懸かるものこれあるのみ、


右の諸君によろしく(順序不順)

一、斎藤大臣 一、島村中将

一、藤井中将 一、名和少将

一、山下少将 一、成田少将


(気圧高まり

鼓膜を破らるる如き

感あり)

 

一、小栗大佐 

一、井出大佐

一、松村中佐(純一)

一、松村大佐(竜)

一、松村少佐(菊)(小生の兄なり)

一、船越大佐、

一、成田鋼太郎先生

一、生田小金次先生


十二時三十分

呼吸非常に苦しい

ガソリンをブローアウト

せししつもりなれども、


ガソソリンにようた


一、中野大佐、


十二時四十分なり、

・・・・

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