アビトとミレウスと最高神
「一体どうなっているのですか……」
ルミアが眠りについた頃、ミレウスはアビトとルミアの行方を探していた。
魔王城にいる人の記憶を覗き、アビトとルミアが一緒にいることを知ったミレウスはアビトを見つけるため、隠蔽魔法が使えないであろうルミアのことを探すことにした。それも夜の間にだ。
だが、気配を感じてそこに行ってみるとそこに二人の姿はなかった。
そして改めて気配を探すと別の場所に、ルミアの気配を感じるのだ。
が、その場所に行ってもまたおらず、そして別の場所にルミアの気配を感じる。
これがかれこれ五時間近く続いている。
「……まさか見られているのですか…?」
ミレウスはさすがにおかしいと思い、周りを見てみるが何も感じない。
もちろん、この五時間の間に何度もおかしいと思い、周りを確認していたが、何も見つからなかったのだ。
「…」
ミレウスは思った。こんなことを出来るのは勇者であるアビトや上位の神達くらいだと。
そしてこの場でそんなことをするのはアビトしかいないと。他の神達がそんなことをする意味が無いからだ。
「……勇者様はもう私たちとは関わりたくないようですね。ですが、これでは最高神様になんと言えば……」
ミレウスは諦めて最高神であるシリアに任務が達成出来なかったことを伝えようかと考え始めていたその時。
「そんなことをしている暇があったら、この世界をもっとよくしろよ」
「っ!」
いつからそこにいたのか、件の勇者であるアビトがミレウスの背後から顔を出しそう言った。
「勇者様!」
「…」
ミレウスはついにアビトと出会えて笑みを浮かべた。
あぁ、これで最高神様にもいい報告ができると。そしてやっと他の神達からもガミガミ言われることも無くなるだろうと。
だが、アビトは……
「ぜひ私と共に神界に!」
「断る」
まるでミレウスがそう言うのを分かっていたかのようにそう言った。
「ど、どうして!」
「その理由は言われなくとも知ってるだろう」
「うっ…」
そう。ミレウスは知っているのだ。アビトが神達から色々とされていたことを。
なので、アビトがそう言うのも本当は分かっていた。分かっていたけど、それでも、最高神と話して欲しいと思っていた。
それに、他の神達のこともあるからだ。
「で、ですが…」
「なら聞くが、お前が俺の立場ならどうする?自分を殺しに来た連中がいる所に来てくれと言われてそう簡単に行けるのか?」
「それは…」
無理だ。というか、そんなことを言ってくる相手に話しかけることさえ普通は出来ないだろうと、ミレウスは思った。
だが、それを口にしてしまえば、アビトが神界に行かない理由を成立させてしまう。
ここは嘘でも否定するべきだった。しかし、ミレウスに嘘をつくことは出来なかった。元からそういうことがミレウスは出来なかったのだ。良くも悪くも真面目だったのだ。
「…で、ですが!!」
「どうしても連れて行きたいのなら、まずは謝罪でもしてくれないと俺は行かないぞ。まぁ、された所で今更って感じもするがな。もちろん、それで行くという訳じゃない」
「…」
ミレウスとて理解していたのだ。せめてアビトを狙った神達が謝ってくれたなら、安全を保証してくれたのなら、アビトを最高神の元に合わせることが出来たんじゃないかと。
現実はどうか?
その神達は最高神が目覚めたことでそんなことはどうでもいいと思っている。ただ、最高神が目の前にいるということが大事なのだから。
「…」
「お前は他の奴らよりもまだマシだ。強いて言うなら、この世界を自由にさせすぎていることくらいだ。だからこそ、こうしてお前の前に出た。そして俺が行かないということを伝えた。まぁ、この五時間はその意思表示だな」
「……どうしたら最高神様と会ってくださいますか?」
それでもミレウスは引かなかった。いや、引けなかった。
最高神であるシリアが頭を下げて、力まで貸してくださったのだ。そう簡単に引けるはずがなかった。
「いや、会うつもりはない。どうやってもだ」
「そこをなんとか!お願いします!最高神様はこんな私めに頭を下げてでも……」
「それはお前らの事情だろ?こっちの事情を無視している」
「ですが…!」
「なら、最高神自らが俺に会いに来たらどうだ?」
「そ、それは……」
「どうせ出来ないんだろ?」
「…」
「目覚めたてとか、周りの神達がうるさいだとか、色々あると思うが、少なくとも、俺から会いに行くことはない」
アビトは神界であったことを知ってるかのように言った。
「……なら力づくでも…」
「それも出来ないことも知っているんだろ?」
「…」
いくら最高神から力を借りてるとはいえ、その最高神ですら、無理やりアビトを神界に連れていくことは不可能なのだから。というか、アビトは最高神に取り憑いた邪神すらも倒してしまう程なのだから。
「なら諦めるんだな。それが懸命だ」
「……そんなこと……出来るわけ……」
ないと言いたかったが、それも言えなかった。事実、自分はついさっき、諦めようとしていたのだから。
「……まぁ、五時間も付き合わせたしな……」
「っ!それじゃあ!」
「いや、行くわけじゃない。だが、これで最高神も理解してくれるだろうという言葉をお前に伝えるだけだ」
「え?」
「一度しか言わないからな。もうすぐあいつも目が覚めるだろうからな」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
「言うぞ」
「待っ…!」
「最高神、お前は俺を助けようとしているようだがそれは無用だ。必要ない。どうしてもと言うのならその力を別のことに向けろ。ミレウスの世界をもっと良くするとかな。俺のようなやつを生み出さないためにだ。あと……お前はいつも肝心なところで気が抜けている。四度目はないぞ」
アビトはそう言い終えると、
「よし、これで伝えることは言った。それじゃあな」
「待ってください!四度目って一体…!」
ミレウスの言葉を最後まで聞くことなく、アビトは転移魔法でルミアのいる宿に向かった。
ミレウスは急いでアビトとルミアの場所を探すが、二人の気配は完全に消えてしまっていた。
「……勇者様……」
ミレウスはそう呟くと、アビトと同じように転移魔法で神界に戻った。
そしてその場には朝日の光が照らされ始めた。
「……どうやらミレウスが戻ってきたようですね。きっと見つからなかったか、見つけれても逃げられたかだと思いますが……これは慰めなければなりませんね」
最高神であるシリアは神界にある最高神の間で自分が眠っていた間に起きたことに対して、色々と作業をしていた。
「作業もちょうど区切りがつきましたし、色々と聞きましょうか…」
そう言うと、シリアは周りにいた神達に伝えた。
「ミレウスが戻ってきました。私は二人で話したいので、皆さんには席を外して頂けますか?」
「「「「はっ」」」」
そして周りにいた神達は最高神の間から外に出ていき、シリアだけがその場に残った。
その後、一分ほどでミレウスがやってきた。
「では、話を聞かせて頂きましょうか」
「はい……実は……」
そしてミレウスはシリアに今までのことを話した。
アビトは死んでおらず魔王城で過ごしていたこと。
今は人間の大陸に次期魔王といること。
そして最後に自分と会ってくれたこと。
「え?勇者様がミレウスに…?」
「はい。そして最高神様とは会わないと……」
「……そう…ですか。やはり私たちに恨みが……」
「はい……で、ですが!伝言を承りました」
「伝言…ですか?分かりました。聞きましょう」
「はい。伝言の内容は…」
ミレウスはアビトから言われた言葉をシリアに伝えた。
「『俺を助けようとしているようだがそれは必要ない。その力を別に使え。世界を良くするために。俺のようなやつを生み出さないために』」
ミレウスの言葉をシリアは真剣に聞いていた。
そしてミレウスは最後の一言を言った。
「あとは…『お前は肝心なところで気が抜けている。四度目はないぞ。』です」
「え……??」
シリアは最後の一言を聞き、上ずった声でそう言ってしまった。
「えっと……どうされましたか?」
「……もう一度、最後の一言を言ってくれませんか?」
「はい。『お前は肝心なところで気が抜けている。四度目はないぞ。』です」
「……そう…ですか……」
シリアはそれを聞いてアビトが神達を恨む理由、そして魔王城にいた理由も理解した。いや、理解してしまったと言うべきか。
「……ミレウス、お礼は後日しますので、今は少し、一人にさせて貰えませんか?」
「え?お、お礼なんてそんな……」
「いえ、実は……」
どうしてお礼をするのか、それを言おうとしたが、シリアの頬に雫がつたった。
「っ!」
「わ、分かりました!失礼します!」
それを見たミレウスは急いで最高神の間から外に出た。
残されたシリアは……
「……全てを理解されているのですね。勇者様は……本当に…………私は……………あの時も…あの時も…そして今回も……」
我慢していた涙が流れ、罪悪感に押しつぶされそうになる。
「…………勇者様は…………………私は……一度も………あなたを……守れなかった……のに……………それすらも………………いっその事………怒ってくれた方が……楽…です……よ………………あなたは…………本当に…………」
そして最高神の間からは少しの間、女性の泣き声が響き渡った。
「………これで諦めてくれればいいが…無理だろうな……はぁ……」
アビトはミレウスに伝言を伝えたことを少し後悔していた。
「アイツの性格じゃ、余計に張り切りそうだな。忘れてたな」
アビトは宿にではなく、街の人目のつかない場所に転移し、そこから宿に帰っている途中だった。
「……今頃泣いてそうだな。まぁ、俺があの事を知っていると知ったらそうなるだろうから仕方ないか」
アビトは朝の静かな街を一人歩きながらそう呟く。
「……一応忠告もしておいたから大丈夫だと思うが。アイツのことだ。また手を貸さなければならなさそうだ。はぁ…………やはり復讐をする気だな…………邪神は」
そしてアビトは宿の扉を開け、ルミアが眠っているその部屋に入ったのであった。