犯人
「ふぅ、さっきのが最後の人ね」
「あぁ」
アビトとルミアは爆発に巻き込まれた人々を助けていき、今、最後の一人を助けたところだった。
「師匠は……大丈夫そうだな」
アビトは一緒に爆発に巻き込まれた人々を助けて回っていたモーガンが、近くにいた人々を上手く安全なところに誘導しているのを見つけ、モーガンが以外に街の人達に慕われているのが分かって安心した。
「まさかあんな師匠があそこまで……」
「それ、絶対あの人に言っちゃダメよ?きっと気にしてるはずだから」
ルミアはアビトが発した余計な言葉を注意する。
「あぁ、それくらい分かってる」
「本当かしらね……」
アビトはそう言ってるが、ルミアからの信頼は薄い。
まぁ、アビトがいつも、言っちゃいけないことまで言ってしまってるからなのだが。
それによって魔王四天王であるロシェアのメンタルが強くなったとか、なっていないとか……
「それで、犯人は誰なの?どうせアビトの事だし、分かってるんじゃない?」
「あぁ。だが、この件には関わるつもりはないぞ」
「え?どうして?」
「かなり面倒なことになってるからだ」
「また出たわね……アビトってば、本当に面倒なことが嫌いよね。その割にはよく面倒事に巻き込まれているけど」
「俺とて、好きでそうなってる訳じゃない」
アビトが面倒事に巻き込まれるのはこの世界に転生する前からだった。
「まぁ、そうよね。自分から面倒事に首を突っ込む人はほとんど居ないはずよね。で、面倒事に巻き込まれやすいアビトくん、今回はどんな面倒事なのかしら?」
「…」
アビトは嫌そうにルミアの方を見つめるが、ルミアは何処吹く風のようだ。
「……今回の犯人を聞けば分かるだろう」
「へぇ。して、その犯人は?」
「犯人はこの街に住むただの住人だ」
「……え?」
ルミアは困惑した。それってただの事件じゃないのかと。だが、アビトはそれに付け加えた。
「なんの接点もないただの十人もの住人がだ」
「……わざと言ってる?」
「……仕方ないだろ。実際十人だったんだから……」
「……まぁいいわ。それでどうして接点が何も無いのかが分かったのかはこの際、聞かないでおくわ。どうせアビトの事だしね」
「あぁ」
「でも、それなら犯人をちゃちゃっと捕まえておしまいじゃないの?」
ルミアはそう言う。だが、現実はそうもいかなかった。
「普通ならそれでよかった。だが、今回はそういう訳にはいかない。少なくとも、本人達には記憶が無いだろうからな」
「…え?それってどういう……」
「簡単に言うと……操られていた」
「…」
そう言われたルミアは黙ってしまう。どう答えたら良いのか分からなかったのだ。
「実験だろうな。本当に操れているかの。昔とやってることは変わらないな」
「…」
アビトは知っている。この世界では人体実験をしている施設があることを。事実、アビトは処刑されるかそこで実験に使われるかで話し合いが行われていたのだから。
結果はアビトは裏切り者で危険分子だというのを世間に知らしめるために処刑する方を選ばれたのだ。
「…」
だが、そんなことを知るはずもないルミアはアビトの言葉を聞いて絶句してしまった。
「……これが人間だ」
「……そう」
今のルミアにはそう答えるのがやっとだった。
「そしてその操っているやつも誰かが分かった。というか、それが一番厄介だった」
「……誰?」
「…」
アビトは少し間をあけてルミアに伝えた。
「国王だ」
「陛下!実験は成功しました!」
「おぉ!そうかそうか!それは良かった!」
爆破事件から少し時が経った頃、王城では国王と第一騎士団長が話していた。
「それで操った者達はどうだったか?」
「はい。そちらも大丈夫です。しっかりとその時の記憶を失っております」
「ふむ、つまり実験は成功したという訳じゃな」
「それが……」
「ん?何かあったのかの?」
「はい。まず一つ目が、操られている者達は皆、目が赤くなってしまうようです。なので、改良していかなければ……」
「すぐに操られているのがバレてしまうと……分かった。こちらから研究室に伝えておこう。それで、他にも問題があったのかの?」
「はい。こちらはそれほど重要だとは思ってはいないのですが、何やら不自然でして……」
「ふむ、言ってみよ」
「…爆破事件によって傷を負った者が誰一人いないのです。聞くところによりますと、とある男女が傷を治してくれたと」
「ん?それは特に不思議という訳ではあるまい」
この世界にも、傷を負った人を無償で治す善人もいることにはいるのだ。なので別に不思議な話ではなかったが…
「いえ、その傷を治したという男女のことを誰も覚えていないようなのです。まるで何も無かったかのように……」
「ふむ……隠蔽魔法の類かの?」
「そうとしか……」
「むむ……これは少し警戒をした方がいいかもしれぬの」
「はい」
隠蔽魔法を使える魔法使いは数が少ないのだ。その上、使える者は皆等しく魔力の扱いに長けており、実力が高いのだ。
もしそんな相手と敵対してしまえば国としても面倒なのだ。
「分かった。じゃがこちらにも契約がある。研究を辞める訳にもいかぬ。じゃから……最悪は殺せ」
「はい」
「では、儂は研究室の方に行くからのう。あとは任せたのじゃ」
「はっ」
「うむ」
「…」
アビトはその後、『今はとりあえず、この場から移動するか。これ以上、面倒事に巻き込まれるわけにはいかないからな』と言い、ルミアと共に宿に戻ってきたところだった。
「……ねぇ、本当に国王陛下だったの?」
「あぁ、残念ながら事実だ」
「そう……」
ルミアは人間のことをよく知らなかった。だが、アビトと出会い、きっとこんな人達が沢山いる、そう思っていただけに、まさか人間達の王様がそんなことをしているとは思っておらず、ショックが大きかった。
「……アビトはどう思う?」
「……何も」
「え?」
アビトの返答にルミアが困惑する。
「昔からそういうのがあるのは知ってたからな。もちろん、俺もどうにかしようとしたが、無理だった。それどころか、俺を裏切り者に仕立て上げ、処刑しようとしたからな。正直そんな国、もうどうなってもいい」
「っ!」
アビトの本音を聞き、ルミアは驚いた。まさかアビトがここまでのことを言うとは思っていなかったからだ。
それこそ、魔王城でも似たようなことを口にしてたが、ここまで言うことはなかったのだ。
「で、でも!アビトにも大切な人とかいるんじゃないの?」
だが、ルミアはそれを信じたくないためにアビトに質問した。
が、それすらも地雷だった。
「あぁ。もうすでに死んだがな」
「え……」
「裏切り者の家族も皆殺しだと」
「そ、そんなの……」
「おかしいと言いたいんだろ?俺もだ。だが、現実はそんなもんだ」
「……」
アビトがこの国で体験したことを聞き、何も言えなくなってしまった。
「……ごめんなさい」
「いや、お前が気にすることじゃない」
「でも……」
「どうしても気になるのなら、もう魔王城に戻るか?どうやらアイツもこっちに向かってきているようだし、都合がいいからな」
アビトの言うアイツとは、ミレウスのことだ。
「アイツ?」
「いや、なんでもない。ただ城に戻りたいか、戻りたくないかだ」
「それは……」
正直言って、まだ人間の街を見てみたい気持ちもあるが、それと同じくらいに、これ以上ここにいて暗い気持ちを増やしたくないという気持ちもあった。
なのでルミアはすぐに答えを出せなかった。
「まぁ、今日はもう寝た方がいいな。騎士たちも増えてきた事だし。見つかると面倒だ」
「……そうね。分かったわ」
「あぁ、それじゃおやすみ」
「……えぇ」
こうして、ルミアは人間の大陸での一日を終えるのであった。
そしてその夜
「少し神としての力を使ってしまいましたが仕方ないでしょう。これも勇者様を見つけるためです。しかし……本当に見つかりませんね。神であり、この世界を作った私でさえも見つけることができませんか……凄い隠蔽魔法ですね。ですが、私とて任務ですから。狡いかもしれませんが、少し魔王城の方々の記憶を拝見させていただきましたよ。もう逃がしません」
ミレウスはアビトを追って、また人間達の大陸にやって来ていた。
「最高神様の為です。どうかご勘弁を……」
そう言い残し、ミレウスは神の力を使いながらアビトの捜索を始める。
もちろん、その事をアビトは知っているとも知らずに……