爆発現場
どうしてこうなったのだろう……
人生にはそう思う日がいつかは来るだろう。
例えば、失敗をしてしまった日
例えば、友達と喧嘩した日
例えば、誰かを殺めてしまった日
例えば、目の前で大爆発が起きて人が沢山倒れた日
私は目の前の状況を見てそう思う。どうしてこうなったのだろうと。
ただ、だからこそ、今やるべきことをやろうと思う。
隣にいる我が子を守ることだ。
しかし、いるはずの我が子がいない。
探してみると少し離れたところでうずくまっていた。
どうやら爆発の影響で、吹き飛ばされてしまったのだろう。
「お、お母さん……痛いよぉ……」
我が子からそんな声が聞こえる。
私は急いでそこに向かおうとした。向かおうとしたのだが、足が思うように動かない。
そして今になって気づいた。
足が瓦礫に埋もれていることに。
自分はそれによって倒れていることに。
そして周りにも同じような状況の人達が大勢いることに。
「うっ!ぬ、抜けない!」
「お母さん……ううっ……」
我が子が泣いている。
遠目から見てもわかるように、我が子には血がついている。
足や腕から血が出ているのだ。
きっと痛いのだろう。
なのに母親である私を探している。
傷だらけになりながらも私のことを探している。
泣きながら。
「ルナ!私はここよ!」
私は大きな声で我が子を呼ぶ。
しかし、周りも爆発が起こったせいで、色んな声が上がっていた。
「助けて」や「逃げろ」や。
色んな声がしていた。
その声にかき消されて、私の声は我が子には届かなかった。
でも、そこで諦めていいことにはならない。
痛みに耐えながら、私を探してくれているのだ。
親としてそれに応えなければならないだろう。
「ルナ!こっちよ!お母さんはここよ!」
しかしそれでも届かない。
すると我が子の元に男性が近づいてきた。
男性は見たところ三十歳前後の長身で細身の体型の人だった。
私は少し安堵した。
見知らぬ人とは言え、我が子に何かあったならば、その男性が助けてくれると思ったからだ。
そして私はその男性に助けてもらおうと、精一杯の声を出した。
「あのっ!助けてくれませんかっ!私はその子の母親なんですけど、足が挟まっちゃっ……て…………え?」
私は絶句した。
何故かって?
その男性の目が赤かったからだ。
もしかしたら目が赤い種族かと思いたかったが、そんな種族聞いたことがない。
少なくとも、充血してるほどに赤い種族は。
そしたその男には生気を感じられなかった。
意識ここに在らず
そんな感じがしたのだ。
その瞬間、私は我が子に向けて大声で呼びかけた。
「ルナっ!!」
「っ!お母さん!どこ!?」
「私はここよ!」
「お母さん!」
私の想いが通じたのか、やっとのことでこちらを向いてくれた。
だが、男もそれに気づくと、笑みを浮かべたのであった。
直感であの男はやばいと感じた。
そして私は我が子を必死に呼んだ。
「ルナ!早くこっちに来なさい!その男から離れて!」
「え?」
「早く!」
「わ、分かった!」
そして我が子はこちらに来ようとするか、男が我が子を捕まえてしまった。
怪しい笑みを浮かべたまま。
「いやっ!離して!お母さんっ!助けてぇぇ!」
「ルナァァァ!」
私は必死に瓦礫に埋もれた足に力を入れて、前に進もうとしたが、ちっとも進まない。
「私の子を離しなさい!」
私は少しでも時間を稼ぐためそう怒鳴った。
「…」
男は無言だった。
だが、怪しい笑みを浮かべたままだ。
すると、別のところから女の人がやってきた。
私はその人に助けを求め……
ドカァァァン!
あろうことか、その女は魔法を放ったのだ。
人々が逃げ惑うその近くの建物に。
「んなっ」
「きゃぁぁぁ!怖いよぉ!!助けてぇよぉ!」
我が子が泣き叫んでいる。
助けに行きたいのに動けない足。
悲鳴を挙げる人々。
それを見て笑う男と女。
「あ、あなた達はなんなのよ!」
「「…」」
男と女は無言のまま私の方を見た。
二人は怪しい笑みを浮かべている。
すると女が右手を我が子の方に向けた。
「ちょ、ちょっと!何する気よ!」
「怖いよぉ……ひっく……お母さん……」
「やめなさいっ!私の子から離れて!」
「「…」」
私の言葉を無視して、女は我が子に魔法を放とうとしている。
「私の子が何をしたって言うのよ!殺すなら私を殺しなさい!その子には何の罪もないはずよ!」
「「…」」
何を言っても無視したままだ。
それどころか女の手には魔力が集まってきているのか、手に光が、そして……
あぁ、どうしてこうなったのだろうか。
私が諦めかけたその時……
「はぁ、これだからアイツらは嫌いなんだよ。どうせこの後は全ての罪を俺になすり付けるんだろうなぁ。というか、俺のせいになるだろうなぁ」
黒髪で目の色も黒い……
裏切り者と呼ばれた元勇者と同じような男の人が女の魔法を受け止めた。
文字通り、受け止めた。
そして瞬きをして、目を開いたらそこには倒れている男女がいた。
「え……?」
驚いて何も言えなくなっている私の元に、その人は我が子を抱き抱えてやってきた。
「この子はあなたの子ですよね?」
「え……あっ、はい!そうです!」
「でしたら……その前にちょっとお待ちを」
そう言ってその人は足元の瓦礫を軽々とどかした。
それと同時に足に動く感覚が戻ってきた。
「一応、簡単な回復魔法もかけたので動けると思います。それじゃ」
そう言って、我が子を置いてどこかに行ってしまった。
「お母さぁぁぁん!」
お礼を言う暇もなくどこかに行ってしまったが、今はそれよりも我が子の事だ。
私は我が子を抱きしめた。
「怖かったでしょう?痛かったでしょう?でも、もう大丈夫だからね。お母さんがついてるからね 」
「うんっ、うん!」
私は誓った。もう二度と我が子の手を離さないと。
しかし、あの人は一体誰だったのだろうか?
裏切り者の勇者と同じ見た目だったが……
本当に勇者なのだろうか?
それにあの時、あの人が何をしたのか全く見えなかった。
お礼も言いそびれてしまった。
またいつか会えるのだろうか?
お礼が言えるのだろうか?
しかし分からないものは考えても仕方ない。
私は今できることをするだけだ。
「ルナ、お家に帰りましょうか」
「うんっ!」
私は急いでこの場を後にした。
また爆発が起こったりしたら大変だからだ。
「お母さん、あの人凄かったね!」
「そうね。でも、誰だったのかしら?」
「勇者様みたいだったぁ!」
「うーん……まぁ、今はとりあえず家に避難しましょうか。まだここは危険かもしれないからね」
「はぁーい!」
どうやら我が子の傷も治してくれたらしく、今ではすっかり元気になっている。
でも、またあの男のような人が来るか分からないため、急ぎ足で家に帰った。
まだ悲鳴が聞こえるこの場所から。
爆発現場にいた親子の母親視点でした