呪いと神様
「神様だ」
モーガンの左手に呪いをかけた犯人の正体を言われ、二人は言葉を失った。
「その呪いは間違いなく、神達が使う魔法の一種だ。」
「……マジか?」
「マジだ」
モーガンの問いに対してアビトは即答した。
「でだ、治す方法はあるにはあるが、その前にこの呪いについて話そう。まず、この呪いはこれ以上、悪化することはないだろう。師匠は我慢すれば左手を使えているが、普通は激痛で失神するレベルだ。それこそ、普通の人ならば左腕を切り落とした方が楽なくらいな。まぁ、師匠は軽く人間やめてるから大丈夫そうだが」
「お前に言われたくねぇよ。というか、そんなことまで分かるのか」
「俺もこの呪いにかかったことがあるからな。あの時の激痛は今でも忘れてないほどだ」
「お前でそこまでってことはかなりの痛みなんだな、これは」
「あぁ」
「それで、聞いた感じだと、お前が神様達と戦った時にでもやられたってことか?」
それを聞いてルミアが驚く。
「え?その話、知ってるんですか!?」
「ん?あぁ、一応な。詳しくは知らないが、こいつが神様達と戦ったのは知ってるぞ」
「そ、そうだったのね……びっくりしたわ」
「まっ、その話もおいおい聞かせてくれよな」
「気が向けばな」
「絶対話さないやつだな、それ」
「……でだ」
「無視か」
アビトは無視する。なぜ?面倒だからだ。
「俺なら治すことが出来る。この呪いの術式を強引に破壊する。だが、それをすると相手側にも呪いが解けたことに気づかれちまう。そしてより強力な呪いをかけてくるに違いない。それこそ、死に至るようなレベルのな。だが、俺にはそれ以外の治す方法を知らない」
アビトはそう言ったが、それに反論するのはルミアだった。
「ど、どうしてそこで死ぬって言葉が出てくるのよ。普通左腕の力を奪うとか、切り落とすように仕向ける呪いをかけてくるんじゃないの?まぁ、切り落とすしかないって状況を作ってくるのもなかなかだと思うけど……」
「いや、あいつらの目的はモーガンの無力化だ。まぁ、幸いなことにあいつらには制約がある。その上、できるだけ人に害を与えたくないんだろうな。なので物理的にモーガンを無力化、つまり殺すようなことはできないはずだ。だが、呪いなどで無力化させることはできる。しかし、モーガンは呪いの術式を壊した、まぁ、壊すのは俺な訳だが、相手側からすれば、モーガンには術式を壊すなんらかの力を持っていると考えるだろうな。そしたら強引な手段を使ってくる可能性が上がる」
モーガンもアビトの言葉にうなづいている。
「だがよ?さすがに飛びすぎじゃねぇか?神様とやらは俺をできるだけ傷つけたくないんだろ?ならーー」
「いや、傷つけたくないだけであって、自分の手の中に収まらないとわかった瞬間に、死に至るほどの呪いをかけてくる」
「……つまりは、何かに必要だから残したいけど、それが叶わないのなら殺すってこと?」
「まぁ、簡単に言えばそうなるな」
「おいおい、それが神様のやることなのか?」
モーガンの言い分はその通りだったが……
「あぁ。やつらならやりかねんな。制約があるとしても、上手く間をくぐり抜けてきそうだからな」
「マジかよ……」
「それに、どうやらこの一件は相当面倒なことになってるらしいな」
「というと?」
「……いや、ここから先は想像でしかない。まぁ、たぶん合っていると思うが……相手側に情報を与えたくないからな、言わないでおく」
「ん?俺が裏切るとでも言うのか?」
モーガンは少し顔をしかめながらアビトに聞いた。
「いや、師匠が裏切るとは思ってない。だが、相手が悪い。師匠の記憶を確認されたらそれで終わりだからな」
「……神様ならやりかねないってことか」
「まぁ、そこまでできるとは思わ……いや、用心したに越したことはねぇな」
頭の中には最高神の姿が浮かんだ。まだ病み上がり最高神が。なので、そこに漬け込んで、理由を上手くつけられて、記憶を覗かれたらどうしようもない。
「……まっ、お前がそういうのなら仕方ねぇな。今回は諦めることにするわ」
「すまないな」
「よせよせ、お前からそんなこと言われると気持ち悪い。出会った当初ならともかく、今はな。ガハハハ!」
アビトに言えない理由がちゃんとあるのがわかった瞬間、モーガンは先程のように笑顔になった。
「でもさ、今こうやって話してる時点で無意味じゃない?」
「いや、大丈夫だ。この呪いの話は師匠の記憶から大切な部分だけ消えるように仕組んだからな」
「おま……容赦ねぇな」
「まっ、呪いの犯人が神様で、治す方法はないってことだけは記憶に残るようにしたから大丈夫だ。まぁ、その情報が出てきたのは俺じゃない別の誰かからってことになってるがな」
「アビト、そんなことまでできるのね……」
「お前の方が人間やめてんじゃねぇか……ん?でもそうなると結局話しても話さなくても同じじゃね?」
「そういう訳にもいかない。もし俺がここで真実を話したら、師匠は自分でもなにかできることは無いかって、色々と詮索するだろ?」
「まぁ、するだろうな」
「でもその為には話の内容を覚えておかないといけない」
「そうだな。それがどうしたんだ?」
「さすがに師匠程の相手になると、記憶操作するのは難しいってことだ。深く根付いた記憶にはさすがに干渉しきれない」
「つまり、俺が心の底から覚えようとしたら、記憶が残ってわけだな?」
「あぁ。師匠ならやりかねない」
「まぁ、そうだな」
「だから余計に言えない」
「なるほど、なら仕方ねぇか」
モーガンはすぐに真実を聞き出すのを諦めた。
「それでだ、さっきの話に戻るぞ?」
「おう」
「まず、神達の目的はたぶん俺だろうな。いや、神達に何かよからぬ事を伝えたやつの目的がな」
「……真犯人は別にいるってこと?」
「あぁ、というか、そいつらのことはもう目星が付いてるがな。ただ、できるだけアイツらとは関わりたくないからな。それに神達に身の程を知らせるいい機会だ。ちょいと遊ばせてもらおうか。というか、それくらいしないとアイツらは学ばなさそうだしな」
「……とりあえず、アビトに任せておけばいいってこと?」
「そう思ってくれて構わないぞ」
「さすが俺の弟子だ」
「言っとけ」
「だがそれだと疑問が残る。どうしてお前じゃなく俺を呪ったんだ?」
そりゃそうだ。アビトが目的ならば、アビトに仕掛ければよかったはずだ。
「それは俺には呪いが効かないってことがまず一つ目だが、もう一つの方が本命だろうな。それはーー」
ドゴォォーーーん!!
アビトが狙われなかった理由を言おうとした瞬間に、外から爆発音が聞こえた。
「……これは偶然か?それとも狙ったのか?まぁ、どちらにしようと、あまり変わらないがな」
「いや、そんな呑気なことを言ってる場合じゃないでしょ?」
「とかいう嬢ちゃんも結構落ち着いておるようだが?」
「どこかの誰かさんがお城で私の部下たちとよく模擬戦をしてるから、爆発音には慣れてるのよね」
「ガハハハ!なるほどな!」
「本当に迷惑だわ。部屋で一人、書類をまとめている私の気にもなって欲しいわ」
「……」
「ガハハハ!アビト、お前は話に聞いていた以上に魔王城で楽しんでるらしいな!」
「……うるせぇ」
「まっ、お前の居場所が見つかってよかったな」
「……余計なお世話だ」
「ガハハハ!んじゃま、この爆発音の正体を突き止めますかー」
「そうね。アビトの言ってた感じから、さっきの話とは無縁に思えないしね」
そう言って、三人は店を出て、目を赤くしながら、魔法を放っている男女の方に向かっていった。
目の赤い男女……