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師匠

お久しぶりです!

「……本当にここであってるの?」

「あぁ、ここで間違いないぞ」



 目の前の建物を見て、不安そうにアビトの方を見つめるのは次期魔王であるルミアだ。

 何故次期魔王でもあるルミアが不安そうにしているのかと言うと、話は数分前に遡る。





「人間の街には色んなお店があるのねぇ〜」

「あっちには良くも悪くも必要最低限のお店しかないからな」

「そうよねぇ〜私ももうちょっと、色んなお店があってもいいと思うんだけどね。まぁ、あった所で魔族はそういうのに疎いから、意味が無いのだけど…」


 教会を出てからも、二人は人間の街を見て回った。

 その間ルミアは気になるものを見つけてはアビトに聞き、珍しいものを見つける度にそれを眺め……

 宿を出てからそこそこ時間が経っているにもかかわらず、ほとんど進めないでいた。


「そうだな。あっちは食べれたらそれでいい、生きれたらそれでいいって雰囲気が凄いからな……」

「やっぱりアビトもそう思ってるのね。うーん、もうちょっと楽しんでもいいと思うんだけどね」

「……城の連中を見習って欲しいな」

「ちょっと!今遠回しに、魔王城は騒がしいって言ったわよね?」

「……事実だろ?」

「……否定はしないわよ…でも!それはなんと言うか…その……威厳?みたいなのが崩れ落ちる感じがするから、あまり言われたくないのよ」

「よく言う。暇な時間を見つけてはメイドに無理難題な命令を出して、その間に色んな街に行ってはそこの住民たちと……」

「さぁ!お腹もすいてきた頃だし!そろそろご飯を食べましょ!」

「…………ルミア様の仰せのままに」

「わ、悪かったわよ!で、でもあれは……そう!魔王として…いや、まだ正式にはなっていないけど!魔王として!民の前に出るのは大事だと思うのよ!うん!だから、その気持ち悪い言い方はやめてちょうだい!」


 ルミアは少し顔を赤くしながら、アビトに言い返す。


「……一応聞いておこうか。お前はその民とやらの前に出て、何をしているんだ?」

「そ、それはもちろん、演説…とか……」


 ルミアはテンパりながらそう答えた。


「ふむ、なるほど。だが、俺がこの前見に行った時には、その街の子供たちと一緒に遊んでいたが?」

「ちょっ!どうして見に来てるのよ!」

「その言い方からして、やはり遊んでいたか」

「え?あっ……」


 ルミアは自分の失言に気づいたようだ。


「い、いや!そういう訳じゃなくて!えっと……その……そう!演説をしてるのを人に見られるのはやっぱり恥ずかしいじゃない?」

「魔王になったら、そういうことも増えるだろう。今から練習しておいても損は無いんじゃないか?あと、誤魔化し方が下手くそだ」

「う、うるさいわね!」


 ルミアは顔を真っ赤にして答える。


「もう!その話はいいから!ご飯よ!そう!アビトのせいでお腹が空いてきたのよ」


 とんだ責任転嫁だ。

 その時、アビトはそう思ったに違いない。


「でも、私はどこにどんなお店があるか知らないわ。そこで!今から私をどこか美味しいご飯が食べられるところに連れていきなさい!聞くところによると、人間たちの食べ物は魔族とは比べ物にならないほど美味しいらしいじゃないの」

「まぁ、確かにそうだが……」

「なら決定ね。さぁ!私を美味しいご飯屋さんに連れていきなさい!」

「……次期魔王がご飯屋さんって……」

「うるさい!はやく!」

「……主様の仰せのーー」

「それはやめてって言ったわよね!」

「……はぁ」



 そんな感じでアビトはルミアをここまで連れてきたのだった。

 なお、このやり取りをしている時は、周りに変なふうに思われないようにするための結界をしっかりと張っていたアビトであった。





「……私ここに来るまでに美味しそうなーー」

「そう言い訳が出来ないように、食べ物を売っているお店の前は通ってきていない」

「……アビトって本当に用心深いわね……」

「どうとでも言え。俺がこの世界で学んだことがそれだからな」

「…」


 少し暗い雰囲気が二人の間に流れる。

 が、その空気を打ち破る輩がそこに現れる。


「お客さーん、いくらなんでも店の前でずっと突っ立ってるてのはどうかと……うん?もしかして、アビトか?」


 二人がお店の前で言い合っているせいで、痺れを切らしたそのお店の店長が現れた。


「あぁ、久しぶりだな。元気にしてたか?」

「おう!あったりめぇよ!俺を誰だと思ってるんだ?誰がお前を鍛えてやったと思ってるんだ?」

「そうだな。師匠がそう簡単にくたばるわけねぇか」

「おうよ!お前こそ、その師匠に対してその強気口調、前と変わってねぇな!」


 そう、アビトがやってきたお店は、アビトがこの世界にやってきてすぐの頃、勇者としての力しか持っていなかったアビトを鍛えた人だった。


「にしても、まさか()()()()を連れてくるとは思ってなかったがな!」


 アビトの師匠は当然のようにそういった。


「えぇ!?ど、どうして私の事……」

「ん?そりゃ、俺は昔、魔大陸に行ったことがあるからなぁ。もちろん、戦いにも参加したぜ!いやぁ、魔王は強かったぜ!またいつかやり合ってみてぇなぁ〜まっ、勝てやしないんだけどなっ!ガハハハ!」

「はぁ……師匠……もうちょっとデリカシーをだな……」


 ルミアの目の前でアビとに倒された魔王の話をし始めたのだ。さすがにアビトと言えど、注意をする。


「ん?あっ!そうだな!いやぁ、失敬失敬。ついつい自分の言いたいことをすぐ言っちゃうんだ。すまねぇ」

「い、いえ……私も…その…割り切ってますから」

「そうかい?ならいいが」

「でも、私のことは知らないはずですよね?」


 そりゃそうだ。いくら目の前の人が魔大陸に行ったことがあったとしても、ルミアのことを見たことは無いはずなのだ。ルミアは魔王が倒されるまでは戦いに参加したことはないのだから。


「あぁ、それならあれだ、オーラだな。嬢ちゃんと魔王のオーラ……まぁ簡単に言ったら魔力の質だ。それがそっくりなんだよ。普通、そっくりなことはないんだが、親子なら辻褄が合うからな!」

「な、なるほど……オーラが……隠してたつもりなんですけどね……」

「いや、今は上手く隠せているぜ?だが、嬢ちゃんとこいつが言い争ってる時は漏れてたぜ?」

「!」


 そう、ルミアはオーラを消すことが出来る。ただそれはちゃんと意識をしていないといけないため、アビトと言い争っていた時はオーラが漏れてしまっていたのだ。

 不思議なことに、この街に初めて来て、興奮していた時のルミアからはオーラが漏れていなかったにも関わらずだ。


「つまり、こいつのせいってわけだな!」

「俺のせいにするな。こいつの力不足だろ」

「いーや、お前のせいだな。というか、わざと、だろ?」

「…」

「無言は肯定と取るぞ?」

「えっと…どういうことですか?」

「あぁ、こいつはわざと、俺にだけオーラが伝わるように調整したんだよ。だから、俺以外のやつは何も感じてないはずだぜ。そうだろ?」

「……さすが師匠だな」

「当然だろ?お前がそんなミスをするわけねぇもんな!」

「ミス?それ言うのなら私の……」

「あぁ、いや、なるほどな……」

「?」


 焦ったようにルミアの話をアビトの師匠は遮った。

 それを見て不思議そうにするルミア。


「はぁ……アビト…お前まだ伝えてないよな?」

「あぁ、隠していてもそのうち嫌でも分かるだろうからな」

「お前は優しいんだか、厳しいんだか……」

「こうなった原因の一因は師匠のせいでもありますよ?」

「はぁぁぁぁ……」


 師匠は長いため息をついた。


「まぁ、これ以上は野暮ってこったな」

「??」


 ルミアは二人の会話の意味が理解出来なくて、ずっと頭にクエスチョンマークがついたままだった。


「そんなことより、早く店の中に入れろ。ずっと立ちっぱなしってのもあれだろ?というか、それがお客に対する態度か?」

「なんだアビト、師匠に対してーー」

「ルミア、どうやらこいつは俺たちのことをお客だと思ってーー」

「ちょっ!嘘!嘘だから待てよ!」


 分かりやすく、ルミアを連れて別のお店に行こうとしたアビトを師匠は止める。


「ちっ!こいつは!はぁぁぁ!分かったから、とりあえず、店の中に……分かったよ!お客様!立ちっぱなしではなんなので、お店の中でお話の続きをしましょうか!もちろん、お料理も作りますので!これでいいか?」

「あぁ、やれば出来るじゃないか」

「弟子にそんなふうに言われるとはなぁ……はぁぁぁぁ……」


 師匠は疲れたような表情で、アビトはいつも通りの表情だが、右手で小さくガッツポーズをし、ルミアは二人のやり取りを見つめている。


「…なんだ?」

「いや、アビトって、信頼している相手にはキツく当たっているんだと思って」

「……否定はしないがな」

「ふふ……」

「なんだ、気持ち悪い」

「いえ、なんでも」

「……」


 そう話しながら、二人はアビトの師匠のお店の中に入っていった。

 見るからに人を寄せつけなさそうな建物の中に。

次はやばそうな建物の中でご飯を食べまーす!

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