10話
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道着に着替えた咲矢は再び彩葉と向かい合った。
「…」
状況を見てようやく咲矢の理解が追いついた。
「まぁ、仕方ないか」
そうして始まった稽古は夜通し続き、咲矢の体が限界を迎えても、咲矢の覚悟が止めることを許さなかった。
殴られ、かわされ、蹴られ、投げられ…。
体の隅々まで痛めつけられた。
翌朝、咲矢は重い体を引きずり、学校へ。
「巴、昨日は手当ありがとうな」
「夢流さんの時もやってたから大丈夫」
「え!? 夢流姉があんなことやってたの知ってたの?」
「いや、パパが急に包帯巻いてやれって急に言って来てただけだよ? それだけで、実際は何をやっていたかは知らない」
「そうか」
「すっごい不思議ではあったけど」
咲矢はその日、いつもより軽い気分ではあった。
本当に巴と、親父さんには感謝しなければならない。
「おう、咲矢、今日は顔色がいいな」
いつも顔色がいい新屋に言われ、初めて自覚する。
「なんかいいことでもあったのか?」
「特に何もねえよ」
「そうか? いっつもげっそりしてたけどな」
「…はっ?」
咲矢は衝撃の事実を突きつけられ、どこか気恥ずかしい気分になる。
…周りからはそう見られていたのか…。
「でも、今日は体がボロボロだけどな」
新屋はそう言って包帯だらけの咲矢の体を見て、相変わらず爽やかな笑顔を見せる。
「どうした? 喧嘩でもしたのか?」
「あながち間違ってない」
「まじか、お前が喧嘩とか珍しいな」
その時、違和感を覚えた。
珍しい、と言っただろうか。
「新屋、お前…」
「ん?」
咲矢が質問を投げ掛けようとした瞬間、一時限目の開始を知らせるチャイムに遮られてしまう。
新屋は咲矢が訳あって『学生戦争の覇者』と呼ばれていることを知らないのだろうか。咲矢の違和感はそこにあった。
彼なりに気を使っているならあまりにも露骨すぎではないだろうか。
結局、新屋と話すチャンスが訪れたのは放課後だった。
「新屋!」
一人でギターを背負って部室へと向かっていく新屋の姿が見え、呼び止める咲矢。
「お、どうした? 咲矢」
「お前に聞きたいことがある」
「おう、部活遅れるから手短にな」
とは言え、こんな人通りの多いところで『学生戦争』の話をするのは目線を集めてしまうので、咲矢は新屋を人気のない空き部屋に連れ込んだ。
「なんだよ、急に」
「いや、朝話そうと思ったんだけどさ、お前、『学生戦争』知らないのか?」
「『学生戦争』? なにそれ、なんのアニメ?」
この反応、間違いない。
「お前、珍しいやつだな」
「ん? で? その『学生戦争』がどうしたって?」
咲矢は新屋に『学生戦争』を話した。
『三崎』がなぜ忌み嫌われるのか、咲矢になぜ友達がいないのか、そして、三崎がなにをしたのか。
「へ、へぇ…なんか、壮絶だな」
「色々大変なんだよこっちは」
これで、新屋との関係も終わりか。
三崎 咲矢は厄介者。そう言うレッテルが貼られてもおかしくない過去を明かしたのだ。
もちろん新屋は、絶交…。
「で? 俺にできることは?」
「は?」
思わぬ発言に、素っ頓狂な声を上げてしまう咲矢。
「お前…なに言って」
「だから、俺に協力できることはあるのかって聞いてるんだよ」
「…」
最近、咲矢の考えの上を行く出来事が多すぎて困る。
『抱え込まない』
過る巴との約束。
咲矢は自分の事を思い出した。友達はいるなら裏切らない。
「実はさ、新屋…」
まさか、姉弟の事情を新屋に話す日が来るなんて見ても思ってなかった。
「へえ…そーゆーのもっと早く話せよな」
「で、どうすればいいかな」
「夢流様のことなら任せておけ、先輩方に協力を仰いで見るよ」
「ほ、ほんとうか?」
「あぁ、お前よりは広いネットワーク持ってる訳だしな!」
「恩にきるよ」
「今度なんか奢れよ? ジュース代も返してもらってないしな」
「考えとく」
本当に、いい友達を持ったと思う。
夢流の学校での情報は新屋に任せておけば集まるだろう。
後は、夢流が帰って来るかは、咲矢自身の頑張り次第だ。
咲矢はその日も、立江の晩飯を用意してから道場に入る。
「…来たか、咲矢君」
彩葉は座禅を組んで待っていた。
「今日もお願いします」
道着に着替えた咲矢は今日も、ほぼ一方的に痛めつけられ続けた。
そんな毎日が続く事一週間。
周りの生徒が迫り来る夏休みにテンションをあげて予定の確認をし合っている中、咲矢は巴、新屋、小雨とともに三崎姉妹を立ち上げる会を開いていた。
「あ、あの三崎先輩…」
「ん? どうしたの? 小雨ちゃん」
「この方は…あ、あとその怪我は…」
学校の近所のファミレスで話し込むのが咲矢達の日課となっていた。
もちろん、咲矢を除く3人の部活事情に合わせてだが。
「あぁ、新屋 斗真って言ってな、気にしないでいいよ」
「おい…。あぁ、新屋 斗真です。咲矢の友達だよ、よろしく」
「よ、よろしくお願いします」
「小雨、よそよそしいなぁ! イケメンを目の前にして緊張してんの?」
と、小雨の横に座っている巴が肘でつつく。
「わ、ちょっ! 神野先輩ー!」
じゃれつく美少女。揺れる小雨の胸。微動だにしない巴の胸。
「咲矢…楽園ってここにあったんだな」
「え? あ、あぁ」
そして本題へ。
「そうだ、咲矢、先輩方から聞いたんだけど、夢流様、学校休みがちだったらしいぞ? 噂では大人たちとヤリまくってるだとか、やばい事やってるだとか」
「まじか」
実際、咲矢が見えない所の夢流は知らない。
というか、朝、咲矢の後に家を出る夢流は咲矢の目を盗んで学校に行っていない日が度々あったという。
「咲矢は心当たりないの?」
そのことに関して、巴が真剣な眼差しで質問して来る。
「特には…」
「あ、あの、三崎先輩のお姉さんってあの『冷徹姫』ですか?」
「「「『冷徹姫?』」」」
「え、あ、はい…うちのクラスの中で言われている呼び名? みたいなもので…耳にしただけですけど」
初耳な単語だが。
『冷徹姫』…なんか夢流らしいかもしれない。
「小雨さんはなんで夢流姉がそう呼ばれている理由って知ってる?」
「…はい…確か、告白した男子がことごとくトラウマを植え付けられるだとか…冷たいのは髪の毛の色だけじゃないのかとかよく聞きます」
「ありがとう、小雨ちゃん。新屋より使えるよ」
「おい」
新屋は咲矢の脇に肘をついてくる。
「早く、夢流姉を連れ戻さないと」
「ふふっ」
「ん? どうしたの小雨ちゃん」
「いえ、咲矢先輩って、本当にお姉さんが好きなんですね」
「…まぁね…大事な家族だし」
その日はこれで解散となった。
段々、明らかになって来た姉妹の学校での素性。
そして、再確認した周りからの『三崎』への印象。
咲矢もそうだが、夢流と立江もずいぶん苦労していたようだ。周りからの圧。咲矢は慣れているが、2人がどうかは知らない。
「どうした、咲矢君。さっきから集中してないな」
「いえ、…ヘボラァ!!!!」
普通に会話をしようとしたら彩葉に掌底をもらう。
「いてて…」
「そんなだと、やりたいことも出来ないぞ。せめて俺の前では雑念を捨てろ」
「…はい」
咲矢はボロボロになりながら稽古を終えて家に戻り、いつも通り、立江の部屋の前で呼びかける。
今日あったこと、小雨さんのこと。
みんな立江のことを心配していること。
「…早く出てこいよ」
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