8話
こんにちは!今日もよろしくお願いします!
早くも暖かいコメントをいただけて嬉しい限りです!
全てを話した。
「そう、そんなことが…」
「俺、どうすればいいか、もう分から無くて」
事情を説明すると巴は打って変わって真剣な表情になり、考え込んだ。
「とりあえず、剣道部の先輩と後輩に協力を仰ぐよ。特に立江ちゃんの方は後輩からたまに話を聞くことがあるし」
「…ありがとう」
巴には感謝してもしきれない。
だが、未だに勉強に集中できない状況には変わりなく、今日も教師の話なんか一ミリも入ってきてはいなかった。
「……?」
ふと、ポケットのスマホが振動しているのに気がつく。
咲矢は教師の目を盗んでスマホを取り出す。
『放課後、正門の前で待ってて』
『授業中だぞ』
『あんたもでしょ』
教師に見つからないうちにスマホをしまい、放課後を待つ。
放課後、正門の前に約束通り巴の姿、そして、友達だろうか、もう一人いる。
「すまん巴、遅れた」
「遅い」
巴の機嫌が悪そうな顔を尻目に本題へ切り出す。
「で、この人は?」
「あぁ、そうそう、この子はうちの部活の後輩の小雨ちゃん」
紹介された女子生徒は恥ずかしそうに下を向いて巴の後ろに体を半分隠していた。
茶髪のショートボブに、それに似合わないキチッと着られた制服。
そして隠しきれていない、ダイナマイトボディ。
「ど、どうも」
小雨は小さく会釈をして、巴の陰に隠れてしまった。
「ちょっと、あんたどこ見てんのよ」
咲矢の目線は巴の平らな胸に阻まれてしまった。が、今はそんなことを言っている場合ではない。
彼女が、今朝巴が言っていた協力者ということでいいのだろうか。
「その子が?」
「うん」
「…あ、あなたが、立江さんの…お兄さんですか?」
弱々しい声で尋ねてきた。
「あぁ、そうだけど…」
小雨は巴の前に出てきて、やっとまともに話をする形になったが、依然として距離を感じる。
「り、立江さんのこと…聞かせてください」
弱々しくはあるが、信念の篭ったいい目をしていた。
咲矢はその後、巴と小雨と近くのファミレスに入り、落ち着いて話をすることにした。
「私はいつも立江さんお話をしようと話しかけているのですが、どうも避けられているというか、拒絶されている感じで」
小雨は立江との関係を簡単に話してくれた。
聞き限り、咲矢が思い描いていた学校での立江イメージとは全くかけ離れている。
咲矢はてっきり友達がたくさんいるものと考えていたので、未だに信じられない。
というか、それを隠していたことも信じられない。
「立江さん、いつも一人でスマホを見て、ゲームしてたりして他の人に話しかけられても素っ気なく返事だけしてどこかに行ってしまうんです」
「立江ちゃん、いつもそんなだっけ? 咲矢」
巴も驚いた様子で咲矢に尋ねてくる。
「いや、友達もいるし、学校は楽しいって言ってた」
ということは、立江は咲矢を心配させないための嘘をついていたということになる。
一体何のために、何があってそんな嘘をついていたのか、咲矢にはわからなかった。
一つ、関係しているとしたら、やはり「学生戦争」、もしくは「自分の趣味」だろう。
「じゃあ、立江さんは…」
小雨が頑張って会話に参加しようとしている姿勢を見て、一つ引っかかる。
小雨はなぜ立江にそこまで構うのか。
協力してくれるのは有難い。しかし、「三崎」という名を聞いて、親しくしようとする人間は珍しい、というよりは、はっきり言ってバカだ。
「その前にさ、小雨さんのこと、聞かせてもらってもいい?」
小雨の発言を遮るように咲矢は質問を割り込ませた。
「へ? わ、私ですか?…えっと…その」
急に自分のことを訊かれた小雨は軽く身構えたが、咲矢の目を見て肩の力を抜いた。
「その、気になったんです…立江さんのことが」
「気になった?」
「私、今では友達もいるし、クラスの人とは普通に話せてますけど…実は中学の頃、軽いイジメに会ってて」
「そ、そうだったの?」
巴は目を見開いて驚く。どうやら巴も知らなかったことらしい。
こさめは軽く頷くと再度、話を再開する。
「気になったっていうのは、立江さんが中学の時の私に似ていたから…なのかもしれません」
「そう…」
彼女もまた、今の立江のような時期があり、過去の自分の姿と照らし合わせてしまい、立江が急に学校に来なくなってその不安は一気に大きくなり、今日、協力してくれる事を決意してくたようだ。
「…小雨さん…ありがとう」
「いえ…私何もできなくて」
「小雨さんは悪くないよ…けど、立江には小雨さんのような優しい友達が必要みたいだ…立江がもし復帰したら、その時は仲良くしてやってほしい」
「はい、私も出来るならそうしたいです…」
自信がなさそうにそう返事する小雨。
「出来るなら?」
「私、立江さんに嫌われてないでしょうか?」
「…たぶんだけど、あいつそういうのには無関心だから、小雨さんのことは何とも思ってないんじゃないかな」
はっきり嫌いと言われているなら対策のしようがあるものの、無関心となるとゲームの初見プレイ並みの不安感がある。
「…」
「仲良くなれるかは、立江と、小雨さん次第だね」
それでもまだ自信がないと言った表情の小雨。
「…大丈夫だよ、俺も妹のことだし、全力でサポートするから」
「…はい…私、立江さんとお友達になれるように頑張ります」
ようやくプラスな顔をした小雨。
彼女は咲矢にとっても、立江にとっても大事な希望だ。
頑張ってもらいたいし、咲矢も彼女を信じている。
「今日はありがとうね、じゃあ気をつけて」
ファミレスを出た後、小雨は深く頭を下げて咲矢と巴の前から走り去って行った。
「どう? 彼女」
「胸が最高です」
「ぶち殺すぞ」
「…俺は信じてるよ。小雨さんを」
立江のことに関しては希望が見え始めた。
だが、もう一人、帰ってきてほしい人がいる。
「夢流さんのことだけどさ」
「…」
「パパに直接聞いた方が早いと思うよ?」
神野 彩葉。巴と楓の父親にして夢流の師匠。
「学生戦争」時代の夢流の姿を一番よく知っている人物だ。
夢流のことに関しては彩葉と話さなければならないと、覚悟は決めていた。
「やっぱりか」
だが、今日のところは、帰宅。また後日、咲矢と彩葉の都合が合う日に話すことになった。
「ただいま」
咲矢を迎えたのは冷たい静寂だった。
「そっか、母さん、もういないのか」
今日の昼に母親はブラジルへと旅立ってしまった。
帰ってくるのはいつになるかわからない。
咲矢は唯一家の中に残っている立江の部屋へ向かう。
「立江、開けてくれ」
当然返事はない。
「…今日さ、立江と友達になりたいっていう子と話したんだよ…。立江の事を勝手にわかった気になっていた俺が悪かったよ…だから…頼むから…開けてくれ」
冷たい静寂。その見えない固く閉ざされた壁を前に咲矢は無力に引くことしかできず、その日は立江の部屋の前に夕食を置いた後、自分も軽く食事をとり、風呂に入ってから就寝した。
翌朝、いつものように巴と合流すると、早速朗報
聞かされる。
「パパが話があるっていうから今日の放課後家に来てだって」
緊張感を持ちながら学校で過ごし、気がつけば放課後。
約束通り、咲矢は家に帰る前に神野邸に立ち寄った。
「…」
放課後、家に帰る前に神野邸の道場で待たされる咲矢。
やはり、ここに来るといつも緊張してしまう。
咲矢が変な汗をかいて待っていると、道場の戸が開き、彩葉がすり足で入ってくる。
目つきが厳しく着物を着ているからか、どこかの極道の人かと思ってしまう。…実際そうじゃないだろうな…?
「やあ、咲矢君」
「ど、どうも」
「まだ楓のことは腑に落ちてないが、夢流のことなら協力しよう。巴から事情は聞いた」
「すみません、ありがとうございます」
「で、何から聞きたい?」
聞きたいことは夢流のいそうな場所だが、その前に夢流との関係を詳しく知りたい。
「あ、あの、夢流姉とはどう言った経緯で師弟関係になったんですか?」
「そこからか…というか、あのバカは君にも話してなかったのか」
「はい」
「長くなるが、ちょうど5年前になる…」
5年前の夏。当時、夢流は中学1年生。
まだ喧嘩なんてしたことがない至って落ち着いた女子だった。
だが、ある日、彩葉のもとに訪れて「私を誰にも負けないくらい強くしてください」と頼みこんできたそうだ。
彩葉もその理由を聞いたら、「どうしても守りたい人がいるんです」と答え、引かなかったそう。
「守りたい人?」
「まぁ、察するに君や、立江ちゃんのことだろう」
知らなかった。夢流が強くなりたいと願った理由。
「さて、おそらく君が一番知りたい夢流の場所だが…すまないな、俺もどこにいるかはわかっていないんだ」
咲矢の質問を先読みして返答してくる彩葉。
「そうですか…」
「ところで君は夢流に会って何を話す?」
咲矢はその質問に対して無言になってしまう。
「…一つ言っておくが…君の話は夢流には通じない…俺の話ですら届かなかったんだ…」
「…」
「夢流と話すにはとある言語の習得が必要でな…」
言っている意味がよくわからない。言語? ロシア語でも覚えなければならないのだろうか。
「そ、それはどういう…」
「つまりだ…君には夢流がしたことをなぞってもらう」
「なぞる…」
嫌な予感がする。
「君が急がないなら構わないが…俺はいつでも相手になろう」
「あ、相手…?」
「君は急ぐか? それとも…」
理解が追いつかない。
「怠けるか?」
「俺は…」
考えが纏まらない中、咲矢の口は勝手に言葉を発していた。
「俺は、今すぐ夢流姉に会いたい…」
わからない。結局のところいつもそうだ。
自分の事はわからない。
決めるのは、信じられるのは直感。ただそれだけ。
「決まりだな…。奥の部屋に道着がある…着替えて来い」
いかがだったでしょうか?
姉と妹との信頼を取り戻すために、本格的な行動を起こし始める咲矢。
今後もご期待ください!
…とまぁ。少しやってみたかった奴です↑
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